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<40> もう地図はいらない

 ーー開港祭当日。11時30分。ポルティガ大広場。


(なぜ、爆発が起きない……!)


 11時も30分を過ぎ、エミール・ラ・クロワは先程から何度もポルティガの街の方を見ては、焦りに駆られていた。今頃、ポルティガ各地で爆発が起き、街中の騎士隊や警備隊が奔走しているはずだった。


 その混乱の中、王と王妃を狙って、特に北の橋から帝国兵が侵入し、すでに大広場に潜入している帝国の暗殺部隊や、ポルティガのマフィアたちも連動して動き出す。


 すべてが連動し、ポルティガの街が激しく揺れる絵は描けているはずだった。


「ラ・クロワ、どうしたんだ? さっきからずっと落ち着きがないぞ」


 ステージ上で横に立っているクリスがそう話かけてくる。クリスの落ち着いた声が、エミール・ラ・クロワを苛立たせる。


(お前は警備のことしか考えていないからだよ。私はすべての局面を考えているのだからな……)


 次の瞬間、ステージ前にいるたくさんの人々から「わあっ」という大きな歓声が上がる。


「王が到着されたぞ」


 クリスは左手、東の橋から大広場の島に入ってくる豪華な馬車を見る。先頭の馬車には王と王妃が、2台目の馬車には帝国の皇太子と三大将である炎のイヴァースが、そして3台目の馬車にはシドニア王国のララ王女が乗っている。


 観客たちが、一斉に手にした旗を振る。ポルト王国の旗が大半だったが、帝国旗や、シドニア王国の旗も見える。ステージに向かって右側の地面に王国楽団が陣取っていて、王の到着に合わせて演奏をはじめる。


 大広場が、一気に、開港祭式典前の華やかな空気に変わっていく。


 馬車はポルティガ城から港の前を通る関係で、東の橋からやってくることになっていた。


 だから、エミール・ラ・クロワの計画では北の橋の警備を緩めていた。


(王が到着してしまう……大広場の戦力だけでいけるか? ……いや、いかねばなるまい)


 エミール・ラ・クロワは同じくステージ上にいるフォンテーヌ大臣をすがるように見る。


 フォンテーヌ大臣はちらりとエミール・ラ・クロワを見たが、すぐに視線を外す。フォンテーヌも、先程から様々な思案をしているように見える。


 12時からはじまる開港祭式典に向けて、刻一刻と時間が進んでいた。





 --開港祭当日。11時30分。ポルティガ城付近。


 剣を構えたまま走っていくウィンが、目の前の帝国兵を斬っていく。

 地下通路から地上に出ると、そこは戦場になっていた。ポルティガ城下の広場には、多数の僧兵たちがいた。ポルティガ城から南の端にある大広場までは、約10㎞に渡ってまっすぐに通りが続いている。


 ウィンが顔を上げると、遠くに大広場にそびえる時計塔が見えている。約10㎞の距離は近いようで遠い。


 先程から、ウィンがいる通りに多くの僧兵や帝国兵が入り込んできていた。様々な路地から、兵士たちは南にある大広場を目指している。


 僧兵たちと剣を合わせながら、ウィンは南に向かって進んでいた。


 途中で、先に地上に出ていたルカやニア、そしてソフィアに追いつく。


「奴らは、北の橋から大広場に行こうとしている。おおかたヤン副隊長の予想通り、各所の襲撃が失敗したから、プランBで大広場に向かっているんだろう」


 僧兵を一人斬り捨てながら、ルカが言う。


 小柄なニアもソフィアを守りながら、素早い剣技で一人、また一人と倒していく。


「きりがないな。次から次へと湧いてきやがる」


 ウィンが言う。


「しかし、帝国もこんなにたくさんの兵士を紛れ込ませていたとはな。用意周到なことだぜ」


 一人一人の僧兵たちは、雑兵ではない。さすが武で大陸に覇を唱えようとしている帝国の兵士だけのことはある。


「行かせんぞっ」


 ローブの色が違う隊長格の僧兵がそう言ってウィンに向かって槍を突き刺そうとしてくる。ウィンはその槍をかわすと、剣を一閃し、なおもすがってくる僧兵を投げ飛ばす。


「きゃあぁっ!」


 ウィンは顔を上げ、すぐにソフィアに向かってきた僧兵に蹴りを入れて吹き飛ばす。


「ありがとうございます、ウィン様」


「下がっていてください。通りの端に」


 ウィンは顔を上げ、首振りの動きをする。<魔の森>で生きてきた時代に、ウィンは周囲を見続けることの重要性を学んできた。一瞬の死角が、文字通り命取りになる。常に顔を上げ、首を振り、周囲の状況を確認する。


 それが生き残るために重要なことだった。


 通りの路地から、ポルト騎士団が大通りに入ってくる。彼らは大通りにいる僧兵たちを退け、援護に入ってくれる。


「馬を、貸してくれっ」


 ウィンは馬に乗っていた騎士に近づいて言う。


「俺は……大広場に行かないとならないんだ」


 ウィンは必死な声でそう言う。ポルティガ城の近くの大通りでいたずらに時間が過ぎ去っていくのを傍観しているわけにはいかない。


 いま、すべては大広場を中心にしようとしている。そこに行かなければ、大好きなポルティガの街を守ることはできない。


「……うむ。よかろう」


 馬に乗っていた騎士はそう言うと、軽やかな動きで馬から降りた。


「第5隊副隊長ハリー・アップソンだ。貴殿の名は?」


「第15隊ウィン・カークライト」


「ああ、カークライト男爵家のご子息か。カークライト男爵には大変お世話になっておる。私の馬は、頑丈だ。大広場までの10㎞くらいは、全速力で走ることができる。30分もあれば、到着できるだろう」


 ハリー・アップソンはそう言うと、ウィンに馬を貸してくれる。


「……ありがとうございます。アップソン副隊長」


「行ってきなさい。この街を守るために」


「……はい」


 ウィンは、馬に乗ると、一度振り返る。大通りの中央で僧兵たちと戦っているルカとニアと目が合う。


「後から追いかけるから気にするな」


「大広場までは一本道。もう、地図は必要ない」


「……ウィン様、ご無事で。いってらっしゃいませ」


 ソフィアが両手を合わせ、ウィンを見つめてくる。ウィンはソフィアに向かって一度小さく頷く。


「ああ……行ってくる」


 ウィンは馬の頭を南に向ける。僧兵が行かせまいと向かってくるが、第5隊副隊長のハリー・アップソンが、見事な剣技で一刀で打ち捨てる。


(よしっ、行くぞっ)


 ウィンは手綱を引き、大広場を目指すのだった。


【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

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