<38> 隠れ家にて
ーー開港祭当日、午前10時30分。
ポルティガの大広場はたくさんの人々や観光客で溢れており、足の踏み場もないほどである。
ちょうど三角州の部分を塞ぐ島のような形になっている大広場は、西と北と東の橋の3箇所からしか入ることができない。
その中央にはポルティガの象徴の時計塔があり、北の橋と時計塔の間にはステージが広がっている。ステージは100人のオーケストラが展開できるほどの広さがあり、背後に演劇用の壁と装飾された屋根をつけている。
年に何度か、このステージで開かれる演劇はポルティガの人々の楽しみでもあった。
この場所で、12時から王や来賓が参加する開港祭式典が開催されるのだ。
ステージの上には一際立派な王用のものも含め、すでにたくさんの椅子が置かれている。たくさんの人が壇上を忙しそうに歩き回っている。
「すでにかなりの人が集まっていますね……私たちに力があれば、式典を今すぐ中止にさせるのですが」
大広場の外側の建物の3階から双眼鏡を覗き込みながらそう言うのは、第15隊のヤン・ニースケンス副隊長である。
「でも、いま式典を中止させても、帝国はしらばっくれるだけだ。帝国が動き出した後にカウンターをかまして、動かぬ証拠を押さえるしかないってわけだ」
むしろそれが面白いとでも言うような表情でそう言うのは、第15隊のルイス・ガルシア隊長である。大柄な身体を黒衣の鎧で覆い、その上からカーキ色のローブを羽織ることで鎧を隠している。
背中にはトレードマークでもある両手剣を斜めに差している。
「そりゃあそうですけど……カウンターなんて、難易度が跳ね上がるんですよ。昨日ハックの話にあった三大将の炎のイヴァースとか、考えたくもないですよ……」
「まあ、俺たちにとってはいつものことだ」
「たまにはイージーなミッションがいいのですが……」
第15隊のミッションは、いつだって難易度はベリーハードだ。それはガルシア隊長のせいなのか、それともこういう星のもとに生まれた隊員が多いからなのか。
(巻き込まれ隊か……)
ヤンは、ウィンの顔を思い浮かべながら窓から振り返る。
部屋の中央にはダイニングテーブルが置かれている。けれども、机の上には料理ではなく、ポルティガの地図が広げられている。早朝の騎士館での打ち合わせでも使っていた、赤い石が各所に目印として置かれている。
この部屋は第15隊が市内にもっている秘密の部屋のうちの一つだった。第15隊はポルティガの中にいくつかこういった隠れ家を持っており、騎士館から姿を消した隊員たちは、昨日はそれぞれの隠れ家に身を潜めていた。
そして今日は計画通り、ヤンの指示に基づきポルティガの各所に移動している。
「それにしても、昨日1日で隊長と私はいったい何歩歩いたんでしょうね。ウィンに奢ってもらっても割に合わない働きです」
ヤンはやれやれと言うようにそう呟く。
「まあ、かわいい部下の頼みだ。しっかりと受け止めてやるのが上司の務めだ」
「受け止めると言うか、面白がっているような気もしますが……」
「それは気のせいというやつだ」
ガルシアはそう言うと、ガハハと大きく笑う。
「今頃ルカとニアがウィンを地下牢から救い出している頃だろう。奴が大広場に入れるように、オレは北の橋に行ってくるぞ」
「……よろしくお願いします。いつも隊長にはキツイ場所を任せてしまい申し訳ありません」
ヤンが真剣な表情で言う。盤面を組み立てたヤンにとって、全員が死力を尽くさなればならないことは分かっていた。
その中でも、肝となる場所がいくつかあった。
北の橋もその場所の一つだったのである。
「いいってことよ。隊長が身体を張らないと、今時の部下たちはついてこないからな」
ガルシアはそう言うと、ヤン副隊長に向かって右拳を出す。ヤンは目を細め、同じように右拳を出して、拳を軽く当てる。
「ご武運を」
「ああ、力仕事は任せとけ。頭脳労働は任せた」
「承知しました」
ヤンはそう言ってガルシアを見送る。
(さあ……もうすぐ11時です。ポルティガを守り切るために、私も動きますか)
ヤンはそう言うと、身を隠すローブを纏い、ガルシアとは違う方向に向かうのだった。
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