<27> 仕組まれた罠、司祭殺しの濡れ衣
エミール・ラ・クロワの断罪の声に合わせて、部下の騎士たちがウィンを取り囲む。ウィンを押さえつけ、後ろ手にロープを縛る。
「シスター・ソフィアっ!! お前も聖遺物を盗んだ罪で投獄だっ!!」
エミール・ラ・クロワは投獄という言葉に愉悦を感じているのか、どこか感極まったような表情を見せている。
「きゃっ」
ソフィアも騎士たちに腕を掴まれる。
「……司祭殺し?」
ウィンは言う。
「そうだっ! 証拠は上がっているのだ。助祭様は、第15隊の騎士が深夜に聖心教会に忍び込み、司祭様を殺し、教会を爆破し、逃走したとなっ!」
ウィンは事実と異なる話を、さも真実であるかのように語るエミール・ラ・クロワを冷徹に見つめながら、助祭と――聖心教会、つまり帝国と何らかの繋がりがあるのかと考える。
(想像以上に、早い動きだな)
まだ朝の7時にもなっていない。まるで待ち構えていたかのように、こんな時間に雁首を揃えている。
「ウィン様は司祭様を殺したりなんかしていません。司祭様を殺したのは助祭です」
「えぇぃっ! 何という妄言っ!! 恥を知れっ!! 助祭様は、気がふれたシスターが、教会に伝わる聖遺物の<赤いネックレス>を盗んで逃走したと話しておるぞっ」
エミール・ラ・クロワはまるで自分が演劇の主演俳優でもあるかのように、部屋の中で大きな声を出している。
ソフィアは、自分の訴えがまったく聞き入れられないことに絶望の表情を見せる。
「……俺は司祭を殺してはいない。証拠もないだろう? いつからポルト王国は証拠がない者を投獄するような国になったんだ?」
ウィンは落ち着いた低い声で言う。
「しょ、証拠ならあがっておるっ! 助祭様とたくさんの僧兵が証言しているんだぞ。言い逃れはできないっ!」
「司祭様を殺したのは助祭ですっ」
ソフィアが再び声を張り上げて言う。ウィンは不利な状況下でもそう言ってくれるソフィアに申し訳なさそうな表情を見せる。
「ええぃ、貴重な聖遺物を盗んだ大罪人の言う事と、大事な隣国の助祭様の言う事、どちらが正しいか聞くまでもないっ!」
エミール・ラ・クロワはそう言い放つと、ソフィアの頬を叩こうと右手を激しく振る。
室内に鈍くはじけるような音が響き渡る。
「あぁ……ウィン様」
ソフィアがか細い声で言う。
拘束されたままのウィンが踏み込み、ソフィアをかばったのだ。エミール・ラ・クロワの平手打ちがウィンの左頬に激しく打ち付けられた。
「き、貴様ぁ、ナ、ナイト気取りかっ!」
「……俺は騎士なんでね」
ウィンはエミール・ラ・クロワを見つめて言う。落ち着いた口調だった。投獄の宣言にも動じない第15隊の平騎士に、エミール・ラ・クロワは半歩後ずさる。
ウィンが睨みつけると、エミール・ラ・クロワはさらに半歩後ろに下がった。
「早朝から、随分と物騒なことだのう」
低く迫力のある言葉とともに、一人の初老の男が部屋に入ってくる。
朱色の文官着を纏い文官帽をかぶった男は、人を射抜くような怜悧な細い目をウィンとソフィアに向ける。恰幅がよく、背はそれほど高くはない。
「フォンテーヌ外務大臣様っ」
エミール・ラ・クロワが、窮地に助けがきたというように、すがるような声で言う。
男は、ポルト王国の外務大臣フォンテーヌだった。
「……お主のやったことはこの国の平和を打ち破る大罪であるぞ」
落ち着いた腹から響く声が、周囲の騎士たちを委縮させている。フォンテーヌは自らの言葉がどう相手に届くかを、充分に理解している話し方でウィンに向かって話す。
騎士隊が武の世界で生きているのに比べ、政の世界で生きている言葉だった。
けれど、ウィンはその言葉に怯えてはいない。まっすぐに、その声と視線を受け止めている。
「フォンテーヌ外務大臣様は、今回の件で帝国との外交関係に大きな亀裂が入ったと胸を痛めておられる。同じ騎士団に所属する騎士がこのような大罪を犯したとは、何たる恥、何たる失態っ!」
ウィンはフォンテーヌに追従するエミール・ラ・クロワの言葉はほとんど聞いていなかった。視線と警戒はフォンテーヌに向けられている。
「ウィンと言ったか。本来であれば今すぐこの場でお主の首をはね、詫びとともに差し出さねばならぬところじゃ。ただ、いろいろと確認したいこともあるから数日牢に入っておれ。最後は精々国のために素直に証言するのじゃぞ」
フォンテーヌは感情のこもらない口調でそう言うと、顎を少しだけ動かし、「取り上げよ」と言う。
「やめてくださいっ」
ソフィアの声が響き、騎士の一人がソフィアから<赤いネックレス>を奪う。騎士の手の中で、朝の光に似合わない真紅の宝石が鈍く輝く。
「……おお、これじゃこれじゃ」
フォンテーヌは<赤いネックレス>を手にすると、愛おしい物を見るかのように見つめる。
「これがあれば帝国の……」
フォンテーヌは、宝石に心を奪われたのか、思わず小さな声を漏らす。
「おお、それこそが盗まれた聖遺物――」
エミール・ラ・クロワが言いかける。その言葉を遮るように、扉の方から鋭い声が響いた。
「一体、何をしているんだっ!」
部屋に駆けこんできたのは、クリスだった。
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