<24> 平騎士、謁見を嫌がる
「今回の帝国の狙いは、この大広場に集中しています」
ヤンが指をさしたのは、港に面した小さな島となっている「大広場」である。
「あえて説明する必要もありませんが、ポルティガの南、三角州のような位置にあるこの小さな島は、現在大広場と呼ばれています。別名『聖女の島』と呼ばれる、ポルティガの象徴的な場所です」
ヤンが言う。
「『大広場』は、北、西、東の橋でポルティガの街に通じている」
クリスが説明する。それぞれの橋は約50メートルの長さを持ち、アルサール河がアルサール海峡に流れ出る河口にもなっている。
「先程のシスターの話だと、『ビッグウォール』を破壊するためのペンダントは、この大広場の中心にそびえ立つ、時計塔の上で使うようだ」
クリスが言う。
「そのための〈青いネックレス〉は、この大広場の少し北側にあるステージに来られる王妃様が首にかけてきます」
ヤンが指したのは、北側の橋と島の中央にある時計塔の間にあるステージと呼ばれる演説台だった。開港祭の12時に、そのステージの上で多くの国民の前でポルト王が開港祭のはじまりを宣言することになっている。
「ポルティガの街で同時襲撃をして警備を分散させ、大広場も襲撃する。その混乱の中で王と王妃を襲撃し、〈青いネックレス〉を奪う。そして時計塔に上がり、『ビッグウォール』を破壊する。そこからは、まあ--地獄絵図というやつですね」
ヤンが説明する。
「-ーオレの目が黒いうちには、こんな計画を、実現させるわけにはいかねえな」
部屋中に響く太く大きな声で、ガルシア隊長がそう宣言する。
「その通りです。ただ、この計画はいまのところ帝国の目論見通りにはなっていません」
ヤンはそう言ってポケットの中から、赤い宝石が埋め込まれたネックレスを取り出す。ヤンはウィンを見て小さくうなずいてから、ゆっくりとテーブルの上に置く。クリスがその昏く鈍く輝く赤い光に、思わず目を細める。
「帝国が欲してやまないネックレスは、こちら側にあるからです」
ヤンはそう言うと、意味ありげに微笑むのだった。
「……なるほど。確かにこの赤いネックレスはシスターが命懸けで託してくれたものだったな。このネックレスがこちら側にさえあれば、帝国の計画は実現しない」
クリスは得心が言ったかのように頷く。
「これが……例の赤いネックレスなのか」
そして、はじめて赤いネックレスを見たクリスは重ねてそう訊ねる。
「ええ。事前に魔法研究所のアリス・フェアフィールド様に鑑定をしてもらい、預かったものですから」
ヤンがアリス様のところに情感を込めて言う。
「……シスターから預かった後、俺が念のために頼んでいたんだ」
ウィンが言う。
「それで魔道具だということがわかり、ソフィアに理由を尋ねようと聖心教会を訪れ、色々あって今に至るというわけだ」
「色々ありすぎね」
ウィンの言葉に、エヴァがそう言って笑う。
「そうか。シスターの狙いは、いい方向に回っているということだな。じゃあ、この〈赤いネックレス〉をポルト王に持っていき、今回の経緯を説明しよう。〈青いネックレス〉はいまはまだポルティガ城の宝物庫に厳重に保管されているはずだ。王妃が開港祭にネックレスをつけていかなければ、帝国の『ビッグウォール』を破壊するという目的は達せられない」
「ええ、そうですね」
ヤンが言う。
「それでは、私がシスターを連れて王に謁見を申し込もう。開港祭まであと1日しかない。早く事情を説明し、王に帝国の脅威を知らせねば」
クリスは真剣な表情で言う。国を守るために危険を顧みず動く。それがポルト騎士団の行動に根付いている。
ヤンはガルシアを見る。ガルシアは一度大きく頷く。
「わかりました。それでは、この〈赤いネックレス〉とシスターはクリス隊長、アナタに預けます。国王に謁見し、帝国の狙いを伝えてください」
「ああ、任せてくれ」
「ウィン、アナタもクリス隊長とシスターについて行ってください。事情をよくわかっているアナタがいた方がいいと思います」
ヤンが重ねて言い、ウィンは驚く。
「……謁見なんて柄じゃない」
「ウィン、あなたもそろそろそういうことも覚えた方がいい年頃ですよ。3歳も若いクリス隊長が積極的にやっているのですから」
「そういうのは、エリート隊長様に任せるものだ」
「エリートじゃない平騎士でも、何事も経験だな」
ルカがそう言って口をはさみ、可笑しそうに笑う。
「ウィンが王に謁見って似合わないけど、まあ何事も経験じゃない?」
エヴァも可笑しそうに言う。
「まったく、面白がって……わかったよ」
ウィンは諦めたようにしぶしぶとそう言うのだった。
「本当にありがとう皆さん。第15隊の皆さんには、どの場所の警備に入ってもらうか、改めて伝令を飛ばさせてもらう。ありがとうガルシア隊長。貴殿と第15隊のおかげで、未曽有の国家の危機を未然に防ぐことができそうだ」
「気にすんな。帝国の兵士や聖心教会の僧兵たち相手に、どこでひと暴れするか楽しみにしているぜ」
ガルシアはそう言って豪快に笑う。
「それでは--おっといけない」
ヤンはポケットから『ポルティガ薬局』特製の胃薬を取り出して、それを口に含む。
「それでは皆さん、覚悟と準備はよろしいですか?」
ヤンが皆を見回して言う。その顔はどこかいたずらを仕掛ける少年のようでもあった。
(……まったく、頼もしいな)
ウィンはそう思ってガルシアとヤンを見る。
そのまま、会議室の窓の外を見る。東の空が、遠くから少しだけオレンジ色に輝き始めていた。
もうじき、開港祭1日前の朝が訪れようとしていた。
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