<19> 第15隊の戦い
「さて、誰からやる?」
「そうだな、まずはそこの弱そうな女からだ」
「いいね」
双子はそう言うと、歪な笑みを浮かべる。
双子はアンナに狙いを定め、まず大槍の男がアンナに向かって踏み込み、素早く大槍を複数回打ち込んでくる。
アンナは剣技でその槍先をかわす。
「くっ」
次の瞬間、アンナのすぐ脇に鉄槌が振り下ろされる。アンナは間一髪で鉄槌を避ける。風圧がアンナの金髪を激しく揺らす。
「うっ」
鉄槌を避けた瞬間、アンナの左脇腹を大槍がかする。軽鎧が抉られ、赤い血が滲んでくる。
かわした先に槍を突いてくる連携攻撃だった。
エヴァが素早く動き、アンナを連れ戻し、僧兵から距離を取らせる。
「連携」
「うまくいった」
「この調子」
「各個撃破」
双子の僧兵がそう言って顔を合わせて不気味に笑い合う。
次の瞬間、助走をつけたウィンが鉄槌の男の顔に両足で蹴りをくらわす。
スピードに乗った激しい蹴り。
その場にいた誰もが予想できない動きだった。
鉄槌の男の巨体がぐらりと揺れて、後ろに尻餅をつく。
「ーーんがっ?」
「オレの相棒に何をしやがる」
蹴りから地面に着地したウィンはそう言う。相棒のアンナを傷つけた責任をとってもらうとでも言うように。
何が起こったのか理解できないかのように、鉄槌の男がウィンに蹴られた左頬を押さえる。脳震盪になりかけるような、激しい蹴りの衝撃だった。
鉄槌の男は頭を振ってすぐに反撃しようとするが、自分の右手に鉄槌が握られていないのに気が付き、前を見る。
鉄槌は柄の部分が上に向かって床に置かれたかたちになっている。今のウィンの蹴りの勢いで鉄槌から手を離してしまっていたのだ。
「ひ、ひいっーー」
鉄槌の男は、大きく口を開く。次の瞬間、皆の隙間からまっすぐに走ってきたニアが鉄槌の柄を握り、その重さに振り回されるようにして、遠心力のまま鉄槌を男へと叩き落としたのだった。
「いぎゃあぁああーーーっ!!」
鉄槌の男の肩から右腕が、自分の鉄槌で打ち付けられる。
この場にいる誰よりも小さなニアが、小さな身体を文字通りバネにして重量級の武器を振り下ろすさまに皆が驚く。
「あ、兄者ぁーーーーっ!! 兄者に何をするっ!!」
大槍の男がニアに向かって槍を刺そうとするが、小柄なニアは素早く槍の動きを見切りかわしていく。
そこにルカが割って入り、華麗な剣さばきで大槍を下からはじき、槍先を上に向けられる。
大槍の男の胴体が無防備になる。
「あがっ……」
大槍の男の腹にエヴァが投げたダガーが深く食い込む。
「ぬぬぬ……ふんっ!」
大槍の男は力を込めて、筋肉で押さえつけていたダガーを弾き返す。ダガーは確実に入り込んだように見えたが、鍛え上げられた肉体で致命傷は避けたようだった。
「ふうっ、ふうっ……」
攻撃を畳み掛けられ、大槍の男は第15隊の面々を睨みつける。いかにも弱そうな、腑抜けた王国の騎士なんて簡単に捻り潰してやるとでも言うような表情である。
けれども、なぜか、追い込まれているのは自分たちの方だった。
そのことが信じられないような憤怒の表情だった。
「ーーんが?」
次の瞬間、ウィンが踏み込み、剣を一閃する。大槍の男は防ぐ間もなく、その鋭い切っ先を喉元に受けた。
大槍の男は信じられないというような表情で目を見開き、喉を押さえようとして、そのまま力なく床に崩れ落ちる。体からあふれ出す熱いものが、雨の日に水溜りが広がるように床を濡らしていく。
大槍の男の顔には驚きが刻まれたまま、再び立ち上がることはなかった。
「おおう、おおう……」
目の前で弟が崩れ落ちるのを見て、鉄槌の男がなんとか立ち上がる。そして、シスターの方に向かって走り出す。
「ひいっ、人質っ、人質っ」
鉄槌の男は、左手で感覚のなくなっている右腕を押さえながら、ドタドタと無様な足音を立てながらシスターに向かって行く。
「『ウィンドバースト』」
アンナの紡いだ詠唱が聞こえたかと思うと、剣を持ったアンナが猛スピードでジャンプし、背後から鉄槌の男に剣を振り下ろす。
「うぎゃああぁああっ……」
後頭部から背中にかけて切られた鉄槌の男の叫び声が響き、やがて聞こえなくなる。
アンナは背筋を伸ばして立ち、騎士学校の教本のように無駄のない所作で剣を鞘に入れる。
「第15隊は殺意のある敵には容赦しない」
アンナは真面目にそう言い放つのだった。
双子の僧兵との戦いが終わり、ウィンたちはシスターの元に駆け寄る。
シスターは激しい戦いの間も目を覚まさなかった。椅子に足と両手を縛り付けられており、頭をうなだれている。
「シスター、大丈夫か?」
ウィンはそう尋ねながら、両手と両足のロープをシスターに当たらないように気をつけながら切って外していく。
シスターの身体が自由になり、アンナがシスターの肩を何度か揺らす。
「ん、ん……」
微かに声が絞り出され、ゆっくりとシスターが目を開く。
シスターは最初自分がどこにいるのかわかっていないようだった。
深夜の深い闇の中、ドームのステンドグラス光が反射する屋根裏部屋ーー『星の間』。
「……騎士様?」
シスターは目の前にウィンの姿を見つけると、心の底から安堵したような表情になる。亜麻色の髪に色白な肌が、深夜に薄闇の中で透明に見える。
「騎士様……」
シスターの目にみるみる涙が滲む。けれど、シスターははっとしたような表情になると、すぐに大きな声を上げる。
「どうしてわたしを助けになんか来たのですか! あのネックレスを遠ざけてほしかったのに」
「大丈夫。ネックレスは信頼できる場所に置いているから。本当に申し訳なかった。俺は貴方を拉致しようとしたのが聖心教会だってわかって、逃げてきた相手に引き渡してしまったと思って……」
「そのためにこんな危険を冒して……」
シスターもその行動の重みをすぐに理解する。自分が聖心教会に軟禁されていたからなおさらである。
「それに俺たちは聖心教会ーー帝国が、あのネックレスを使って何をしようとしていたのか知らなければならない。ポルティガのーーポルト王国の平和のためにも」
「……ポルト王国に平和なんか訪れませんよ。まあ、アナタたちは、それを知ることなくここでお別れすることになります」
ふいに慇懃無礼な甲高い不気味な声が響き渡る。
ウィンたちは振り返り声の方を見る。
そこには、灰色のローブを着た背の高い男ーー助祭が立っていた。
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