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<18> 『星の間』の死闘、双子の僧兵

 聖心教会の天頂ドームの屋根裏に続く扉の前。


「鍵はかかってねえ」


 扉を見てルカが小声で言う。奥に向かって押して開くタイプの両開きの扉だった。


 ルカと並んで先頭に立っていたウィンは、後ろを振り返る。


「……行くぞ」


 第15隊の面々が頷く。


 ウィンが力を込めて扉を開く。


 広いスペースだった。青いドームの屋根裏ーー『星の間』だ。


 ドームに張り巡らされたステンドグラスが月光を乱反射させ、『星の間』の板張りの床を色取り取りの光で染め上げている。まるで、真夜中に咲いた季節外れの花畑だ。


 だが、その美しさとは裏腹に、『星の間』を支配するのは肌を刺すような冷気と、古びた木が放つ、どこか棺を思わせる乾燥した匂いだった。


 一筋の月光の先には、白いローブを纏ったソフィアが、折れた百合のようにうなだれて椅子に座らされている。


「シスター……」


「本当に来るとは」


「驚いたね」


 ウィンがシスターを呼ぶのと、2つの声が重なるのはほぼ同時だった。


 ウィンたちが立っている入口と、シスターがいる部屋の奥の間、部屋の中央辺り。左右の影の中から2人の男が現れる。


「シスター救出に来る者がいるかもしれないなんて」


「まったく信じていなかったけどね」


「つまらない警備なんてさせやがってって、腹ただしかったけど」


「たまにはアイツの言うことも聞いてみるもんだね」


 ステンドグラス越しの月明かりに照らされたのは、顔が酷似した2人の大男だった。まるで一つの脳を共有しているかのように、交互に言葉を繋げて話している。


(双子の僧兵……?)


 ウィンは他に誰もいないか、念の為に周囲を確認しながら、2人の男を見る。


 男たちは僧兵の服装をしている。2人とも2メートルあろうかという巨体で、一人は鉄槌を、もう一人は鉄の槍を手にしている。


 ただ、その槍の大きさは入口の門番が持っていたものよりはかなり大きい。双子の僧兵の巨体にふさわしい武器だった。


「……アイツは侵入者はどうするって言ってた?」


「殺していいって」


「そうそう、言ってた」


「いいねえ」


 双子の僧兵は無邪気に楽しそうに笑顔を見せると、一人が鉄槌を頭の上で振り回し、もう一人が大槍をウィンたちに向ける。


 ウィンたちは横に広がり、一人一人が距離を置く。大きな武器を振り回す相手に対し、密集陣形は格好の標的でしかない。


 数々の修羅場を潜り抜けてきた第15隊ならではの、瞬時の判断だった。


「……聖心教会って、危険な奴らしかいねえんだな」


「気をつけろ。こいつら相当やるぞっ!」


 ルカが毒づき、アンナが皆を引き締めるため短く叫ぶ。


「どぉーーーーんっ!」


 次の瞬間、ウィンに向かって鉄槌が振り落とされる。ウィンは右に飛び、その一撃を避ける。男が鉄槌を引き戻すわずかな隙を突き、ウィンは瞬時に踏み込み、剣を引き抜いて斬りかかる。


 鉄槌の男は見た目に反する素早い動きで、ウィンの剣をかわす。重いはずの鉄槌を片手で持ち上げ、今度は横に薙ぎ払ってくる。


 鉄槌が空を切るたびに、周囲の空気が渦を巻くような重圧感が迫ってくる。周りの空気ごと薙ぎ払うかのような空気の圧。


「くっ」


 ウィンは高く跳んで鉄槌の薙ぎ払いをかわす。次の瞬間、ウィンの影からエヴァが男の頭を狙って飛びかかっていく。右手に持ったダガーをつき出し、男の首を狙う。


「うるさいっ!」


 大男は左腕でエヴァの腕を掴むと、力任せに外側にはじき飛ばす。


「ううっ」


 壁に叩きつけられたエヴァは声を上げる。ただ、すぐに立ち上がり追撃に備える。


 大槍の男に対しては、アンナとルカが剣を抜いて戦っている。大槍をまるで軽い槍のように素早く扱い、2人の攻撃を受けきっている。


 2人の剣と大槍が打ち合う音が短く続く。『星の間』の薄暗い闇の中に火花が何度も弾ける。


(……強いな)


 ウィンは鉄槌の男と距離を保ちながら、周囲を見回す。ウィンとエヴァが鉄槌の男と戦い、アンナとルカが大槍の男と対峙している。


 ニアは入口の近くで仲間たちの戦いを見つめている。


「こいつら」


「大分ちょこまかしてるな」


 双子の僧兵はそう言うと、一瞬顔を合わせ、二人同時にルカに向かう。


「うおっ」


 ルカは慌てて元いた場所から転がる。ルカが立っていた場所には鉄槌と大槍が撃ち込まれていた。


 大槍の男が地面に転がったルカを蹴り上げ、ルカは床の上をさらに転がっていく。


 その場所に、素早くジャンプした鉄槌の男が鉄槌を振り下ろす。


 ルカは間一髪でさらに転がってかわす。


 鉄槌の衝撃で、床に穴が開く。周囲の床に亀裂が入り、その中央にポッカリと空間が広がっている。今の一撃でこんなに広範囲に床が抜けるのかと思える空間だった。


 床だった木の塊がそのまま吹き抜けの下に落ちていき、1階の木の椅子の上で鈍い音を立てて弾け飛ぶ音が響く。


「おいおい、床に穴開けんのかよ」


 転がった姿勢から立ち上がったルカは剣を構えたまま距離を置く。


「長引いたら、その内床全部抜けちまうぞ」


 大槍の男がニアに向かって大槍を向けてくるのを、ウィンが間に入って受け止める。小柄なニアは警戒心の強い小動物のようにするすると遠くに移動する。


「お前の相手はこっちだよ」


 ウィンは素早い剣さばきで、大槍の男の肩を切る。


「ぐあっ!」


 大槍の男よりも、ウィンの剣の速度のほうが速い。鉄槌の男が援護に入るが、ウィンは動き回りながら、大槍の男の死角に入り、鉄槌を振らせない。


 その周囲をエヴァが舞うように動き回り、ダガーを何度か肩や太腿に突き刺し、双子の僧兵を手数で上回っていく。外国の舞踏を踊っているかのように見惚れてしまうような動きだった。


「があっ」


 鉄槌の男がふいに叫ぶとタックルをして、ウィンとエヴァを弾き飛ばす。2人はすぐに立ち上がり、剣やダガーを構える。


「腹立たしい奴らだ」


「まあ、お遊びはこれくらいにしてやるぞ」


 双子の僧兵は一度下がると、2人で並ぶ。それぞれ鉄槌と大槍を改めて構える。


 彼らの体に、ドームのステンドグラス越しの月明かりが、まだら模様に反射していた。


【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

お好みのプラットフォームでお楽しみください。


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