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16/21

<16> 深夜零時、黒いマントの五人

 ーー午前0時。


 昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったポルティガの街。月明かりの中、遠くで、潮風が通りを抜けていく低い音が響いている。


 空気のなかに微かに混じる潮の香り。ウィンは少しだけ目を閉じると、ポルティガの香りを嗅ぐ。


 夜にはなぜか、その香りが少しだけ強くなるような気がする。


 目の前には黒いマントを羽織った第15隊の面々が足早に歩いている。夜闇に溶け込んでいるマントが揺れる度に、月明かりに照らされその輪郭がはっきりと浮かび上がる。


 ウィンのある意味わがままのような願いを受け入れてくれた仲間たち。決して簡単ではないミッションに、むしろ積極的に関わってくれている。


(……本当にありがたいな)


 改めてそう思う。


 前の4人が足を止める。ウィンが顔を上げると、濃い青色のドームが見えている。その天頂付近には円を描くように張り巡らされたステンドグラス。


 本棟があり、左右に別棟がある。建物の間は狭い路地になっており、1階では繋がっていない。見上げると、3階の高さに四面を壁に囲まれた連絡通路が伸びている。


 これから向かう場所だ。


 ウィンたちは足を止めて、別棟の角から本棟の入口を見る。


 ウィンが昼間並んで入った教会の正門は、深夜のこの時間には固く閉じられている。


 そして、こんな時間だと言うのに扉の左右には2人の僧兵が立っている。2人の僧兵は無駄話をするでもなく、槍を手にして、黙ったまま並んで立っている。まるでメデューサに睨まれて石になった彫像のように、身じろぎもしない。


「あの仕事は退屈そうだな」


 ルカがやだやだと言うように小声で言う。アンナがルカをキッと睨みつけ、ルカは肩をすくめる。


「やはり本棟の建物はダメだな。計画通り別棟から侵入する」


 このチームのお目付け役でもあるアンナが言い、皆小さく頷く。


「ーー『ウィンドバリア』」


 アンナが短い詠唱を唱えると、それまで吹いていた風の音が周辺だけ無音になる。周囲の様々な音を打ち消し無音にする風魔法。


「さあ、一仕事するかな」


 すぐにルカが扉の前にしゃがみ込む。木と鉄を組み合わせた頑丈そうな扉。


 細い針金を鍵穴に差し込む。


 本当はカチ、カチという音がしているはずだが、『ウィンドバリア』のおかげで音が聞こえない。


「よし、開いたぜ」


 わずか数秒でルカが顔を上げる。本当はギシギシと音を立てていそうな重い扉が、無音のまま開く。音がしないだけで、目の前の光景にかなりの違和感がある。


 5人はさっと扉の中に入ると、ウィンが最後に扉を閉める。


 別棟の1階はまっすぐ廊下が続き、正面に階段が見えている。左右にたくさんの扉があるが、すべて閉まっている。廊下の途中に薄暗い魔導ランプが一つだけ置かれており、周囲を青白く照らしている。


「まずは2階に上がる」


 地図が書かれた紙を持ったニアが先頭に立って走る。『ウィンドバリア』が発動しているので5人の足音は聞こえない。


「ニアちゃん、よくその髪で地図見えるね」


 ルカが不思議そうに言う。長い前髪が目を覆い隠しているので、ルカがそう思うのも無理はない。ニアはルカの軽口は気にせず階段を上って行き、踊り場で足を止める。


「2階の廊下に誰かいる」


 ニアが言う。ニアの地図魔法は現地にいれば索敵もできる。レーダーのように、周囲の空気の流れから人の気配を探り当てる。


「りょーかい」


 すっとエヴァがニアを追い越していく。エヴァは影のように素早く廊下を駆けていくと、2階の部屋から廊下に出てきた神父らしき男性の背後に回り静かに腕を回して首を絞める。


 わずかの間の後で男はがくりと気絶する。


「歯ごたえないわね」


「ないほうがいいだろう」


 床に倒れた男を横目にウィンが言う。暗殺者エヴァと言うのは物騒な呼び名だが、今の素早い動きは間近で見ると中々厄介だ。夜道では会いたくないなと思う。


「元の部屋に戻って朝まで眠っていてちょうだい」


 エヴァは神父を元の部屋に押し込むように戻して、扉を閉める。


「そのまま3階に行く」


 ニアが言って、5人はそのまま階段を駆け上がる。


「あの途中の道が渡り廊下」


 3階に出ても、先程と同じように単調な廊下が続いている。建物の途中あたりに左に折れる通路があり、ニアはそこを指さす。


「おいおい……なんだこりゃ」


 渡り廊下のところで左に曲がると、ルカが呆れたように言う。


(……ここまで順調と思っていたが、やはりなかなか簡単には通してくれないか)


 ウィンはそう思う。


 5人の前には渡り廊下の突き当たりの扉が見えていた。


 本棟へ入るための扉。


 その扉は鈍く明滅する赤い光に覆われていた。


【いつまき】は、より多くの皆様に届くよう『カクヨム』様でも同時投稿しています。

お好みのプラットフォームでお楽しみください。


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