<15> 『ホールマッピング』と深夜の作戦会議
「聖心教会はドーム状の5階建ての建物と、3階建ての別棟から成り立っています。帝国式の建築様式で、その美しさは……」
「ニア、建築様式はいいから、ポイントを教えてください。端的にお願いします」
ヤンが口を挟み、ニアが不服そうに口をとがらせる。
「ここからがいいところなのに……わかった。聖心教会に忍び込むとしたら、別棟から3階の渡り廊下を進むのが一番合理的」
ニアは黒板にチョークで書いた地図の別棟を指さして言った。ニアはポルティガの地図や建築物について、ポルティガで一番詳しいと言ってもいいだろう。
彼女の魔法『ホールマッピング』は、地図に関する様々な能力を持つ独自魔法である。その能力のひとつが、実際自分が訪れた場所の地図を描くことができるというものだった。
「本棟と別棟は1階では繋がっていない。それに本棟の1階には警備の僧兵がいて、夜になると正門には封印が施される。つまり、正々堂々と入れる場所じゃない」
ニアは説明の場所を地図上で指し示す。
「でも、事務所や僧兵たちの住居でもある別棟はそこまでの警戒じゃない。3階の渡り廊下からなら、封印はあると思うけど、まあ本棟に入ることができると思う。できるよね、ルカ?」
「仰せのままに」
演技じみた口調でルカが言う。
「いつもながら驚きの能力ね。自分が見たところでないと再現できなかったんだっけ?」
長机に足を組んで座っているエヴァがそう訊ねる。組んだ足から薄い黒ストッキングがすらりと伸びている。
「魔法の効きにもよるけど、大体半分くらい。たとえば反対方向からそれぞれ見て、魔法が効けば間の空白地帯の地図が繋がる感じ。だから、まっすぐ先の左に曲がった先の通路とかだと精度が低い」
ニアはそんなふうに言う。
「じゃあ、聖心教会の地図はなんでそんなに精緻なんだ。この辺なんて、今日俺が通った通路そのままだ」
ウィンは感心してそう訊ねる。信徒たちと説教を聞いた広場、司祭と助祭から隠れるために入った部屋、窓から屋上に飛び降りた廊下。すべての位置がほぼ合っているように見えた。
「気に入った建物は、観光客のフリして何回も行ってるからさっ」
ニアが小さな胸を張って、誇らしげに言う。
その言葉通り、彼女の記憶(脳内)にはポルティガ中の様々な地図がストックされており、必要に応じて黒板や羊皮紙にいつでも再現できる、いわば人間地図帳のような能力だった。
「まあそれで色々なところに忍び込みすぎて、第15隊まで来たんだけどな」
「好奇心旺盛すぎるのも考えものです」
ガルシアとヤンがやれやれと口を揃える。
多かれ少なかれ、第15隊の騎士たちにはこうした『致命的な癖』があった。騎士団の掃き溜めと揶揄される組織。
けれど、「平均点の騎士が何人もいるより、こっちの方がずっと面白い」。ガルシア隊長はよくそう言って豪快に笑っていた。
ウィンたちは皆、そんな破天荒な隊長に救われ、深い恩義を感じているのだ。
「――よし、話を戻しましょう」
ヤンが黒板をトントンと叩き、全員の視線を集める。
「ニア、『星の間』とやらは本棟にあるということでいいんですね」
ヤンがニアを見てそう尋ねる。
「うん。ほぼ間違いないと思う。怪しいのはーーここ」
ニアはそう言ってドームの中央を指さす。
「外から見たドームの中。行けてないから地図は空白だけど、ここに屋根裏のような部屋があるはず。外から見たときにドームにステンドグラスがあるから、掃除をしたりするための屋根裏部屋が必要。それに、5階の廊下からその部屋に上がる階段がある」
ウィンは本棟の吹き抜けの天井を思い出す。あの上に、屋根裏のような部屋があるのか。吹き抜けの左右には2階から5階まで、それぞれの階に手すりのついた通路があった。
「よし、ルートは別棟から3階の渡り廊下に決定。ルカが鍵を開けて、エヴァとアンナとウィンで脅威を退けながら、ニアが『星の間』に行くための道を見つける。そして、『星の間』に囚われているシスターを助け出し、速やかに脱出する」
ヤンがそうまとめ、ウィンたちは静かに頷く。
「作戦は深夜0時からはじめます。いいですか?」
「おう」
「承知しました」
「よしっ」
「わかりました」
「了解」
違う返事が同時に発せられ、ウィンたちは皆で笑うのだった。
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