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剣とパンと、ちょっとの夢   第1話

「勇者の聖戦」から15年後


「それじゃ母さん、行ってくるよ。元気でね」


そう言って、僕は最愛の母に別れを告げた。


今日は旅立ちの日だ。


冒険者になって独り立ちし、母さんを少しでも楽にしてあげたい。


そんな思いを胸に、僕は家を出た。


・・・・ああ、自己紹介がまだだった。


僕の名はグレー。


母一人、子一人の家族で育った。


家の周りは森ばかりで、母さん以外の人間をほとんど見たことがない――そんな山奥で暮らしてきたのだ。


友達といえば動物ばかりだった。


けれど、そんな僕でもある時気づいた。


僕には、父親という存在がいないのだと。


一度だけ、母さんに父親のことを聞こうとしたことがある。


でも、その時の母さんはひどく悲しそうな顔をした。


だから、僕はそれ以上聞かなかった。


そして、その時に決めたのだ。


僕は僕の人生を、自分の足で歩こう、と。


僕は母さんから、剣も魔法も教わった。


母さんは普段やさしいのに、修行の時だけは厳しかった。


おかげで、僕はずいぶん強くなったと思う。


12歳のころ、たまに下りる麓の町で聞いた話がある。


遠くにあるプラチアーナ公爵領には、冒険者ギルドというものがあるのだそうだ。


そこへ行けば、誰でも冒険者になれるらしい。


危険な依頼もあるが、比較的安全な依頼も紹介してもらえる。


だから挑戦してみてほしい――そんな話だった。


うん、これなら僕も独り立ちできるかもしれない。


そう思って母さんに相談したら、意外なほどあっさり賛成してくれた。


だから僕は決めた。


15歳の誕生日を迎えたら家を出る。


そして、冒険者になるためにプラチアーナ公爵領へ向かうのだと。


それからは、母さんがいろいろなことを教えてくれるようになった。


戦い方だけじゃない。


簡単な料理の作り方。


野営で身体に負担をかけない休み方。


一人で生きていくために必要なことを、少しずつ、丁寧に。


詳しくは話してくれなかったけれど、きっと母さんも昔は冒険者だったのだろう。


いつも笑顔で、僕に元気をくれる母さん。


強くて、りりしくて、頼りになって。


そして時々、どうしようもなく悲しそうな顔を見せる母さん。


世界で一番好きだよ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕は山奥の家から麓の町まで、山道を下っていた。


そこから先は長旅になる。


だから今日はまず、最初の町で宿を取ると決めていた。


何度か来たことのある町だったから、門番のおじさんにも顔を覚えられていた。


僕は笑顔であいさつをして町に入り、宿の一室でようやく一息ついた。


窓の外には夕暮れが見える。


本当なら、家からこの町までは半日もあれば着ける。


でも、どうしても母さんと別れがたくて、出発が昼過ぎになってしまったのだ。


今日はもう部屋から出ずに寝よう。


そして明日の朝一番に出て、プラチアーナ公爵領へ向かおう。


そう決めて、僕はベッドに横になった。


けれど、なかなか眠れなかった。


夜に一人きりになるのは初めてだったから、きっと緊張していたのだろう。


僕は昨晩、母さんから譲り受けたペンダントを取り出した。


このペンダントは、父さんと母さんの思い出の品なんだそうだ。


詳しくは聞かなかった。


でも、このペンダントのおかげで父さんは命を救われたことがあり、母さんもこれを身につけて冒険したことがあると言っていた。


その話をする時の母さんは、とてもきれいだった。


黒い瞳がきらきらしていて、僕はその顔を今でもよく覚えている。


母さんは僕に言った。


「お守りにこれを渡すわ。あの世にいるあなたのお父さんも、きっとあなたを見守っているわ」


嬉しかった。


でも、ちょっとだけ、父親という人に嫉妬もした。


母さんにそんな顔をさせるのが、僕じゃないという理由で。


それでも、僕にはこのペンダントが家族をつなぐ絆のように思えた。


母さんからもらった大事なものだ。


無くさないようにしないと――そう思いながら、僕はいつの間にか眠りに落ちていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その後、僕は無事にプラチアーナ公爵領へたどり着き、冒険者ギルドで登録を済ませた。


新人講習にも参加し、そこで出会ったキッド、リリア、カリンとパーティを組むことになった。


キッドは近接前衛。


リリアは弓使い。


カリンは魔法使い。


僕は剣も魔法も使えたから、その中間に立って状況に応じて動く役になり、自然とパーティの指示役も任されるようになった。


これだけの力をつけてくれた母さんには、本当に感謝している。


それからしばらく、四人で冒険者として活動した。


幸いにも活動は順調だった。


数年後には、パーティとしてCランクにまで上がることができた。


Cランクはちょうど中堅どころで、そこから上はなかなか上がれないらしい。


だから受付のお姉さんに、


「やっと君たちも一人前だね」


と言ってもらえた時は、素直に嬉しかった。


さらにそこから経験を重ね、いよいよBランク昇格の話が見えてきたころだった。


当時、Bランクパーティとして名を馳せていた「虹色の双剣」が、僕を引き抜きに来たのだ。


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