クラレット編ラストエピソード 第1作目プロローグ
「勇者の聖戦」から500年後
久しぶりに、赤髪の騎士はクラウド王国を訪れていた。
道ゆく国民の顔は、一様に明るい。
クラウド王国はいま、シルバー王国の傘下に入っているらしいが、その治世は穏やかであることがうかがえた。
赤髪の騎士は、王都の平民向けの酒場へ入ると、飲み物を頼もうとして、近くで給仕をしていた少女を呼び止めた。
「ぼくは――」
そう言いかけた瞬間、給仕の少女が嬉しそうに目を輝かせた。
「え~、あなた女の子なのに“ぼく”って言うの~~? ぼくっ娘いただきました~」
どうやら、いまクラウド王国では“ぼくっ娘”なるものが流行っているらしい。
少女はにまにまとした目でこちらを見つめてくる。
赤髪の騎士の見た目は、どう見ても女性だ。
今日は騎士の鎧も着ていない。軽装では、なおさらそう見える。
赤髪の騎士は、そこでふと自問した。
――ずっと“ぼく”と言ってきたけれど、これを機にやめようか。
――でも、今さら“わたし”というのもなあ・・・・。
――ぼくは・・・・いや、自分は・・・・。
そして、しっくり来る言葉を見つけた。
自分。
うん。
これからは、それでいこう。
そして――運命の日が来た。
創造神エクレア様より、緊急のお告げがあったのだ。
「ご主人様が、このブルー王国の町を拠点に置いて、冒険者として活動を始めるようです」
「あなたには、ご主人様の便宜を図るため、ブルー王国の騎士団へ入り、立場を盤石なものにしてほしい」
自分は、このお告げを受けて長い冒険者生活を終えることにしました。
創造神様の御命令により、ご主人様のお役に立つ日が来るとは思ってもみませんでした。
ブルー王国。
かつてはコバルト王国と呼ばれていましたが、王が貴族の支持を失って革命が起き、ブルー王国として再出発した国です。
400年前、あの革命以来、足を運んでいません。
あれから、どう変わったのでしょうか。
当時を生きていた人族は、もう誰もいない。
それほどの年月が過ぎているのです。
自分は創造神様へ、
「承知いたしました」
と短く答え、ブルー王国へ向かいました。
目的はただ一つ。
ブルー王国の騎士団に入団することです。
さっそく騎士団の詰め所へ行き、そこにいた騎士をつかまえて入団希望を伝えました。
「腕に自信があります。それと、王族の護衛経験もあります」
「ブルー王国の騎士団に入団したいので、どうか入団試験を受けさせてください」
自分は入団のために必死でアピールをしたつもりなのですが、騎士団の反応は思ったより良くありません。
詰め所の騎士の一人が、
「ん~、いやいや、騎士団はそう簡単に入団できないぜ」
「実績もそうだけど、スパイ防止のために身辺調査も入るし」
「それに女だろ、おまえさん。女性ってだけで基準は厳しくなるぜぇ。国外出身ならなおさらだ」
その時、隣の騎士が慌てたように口を挟んだ。
「おい!!」
「なんだよ?」
「この人、赤い髪だろ」
「いまどき珍しくもないだろ。どうした?」
「違うって。髪の色と目の色!どっちも赤いじゃないか!」
「・・・・あ」
ようやく何かに気づいたらしい。
「なあ。ひとつ質問なんだけど、あんた・・・・もしかして昔、冒険者ギルドで冒険者をしていたか?」
自分は素直に答えました。
「はい。以前、冒険者をしていました」
「やっぱり・・・・」
「も、もしかして、Aランク冒険者だったり・・・・します?」
「はい。その通りです」
その返答を聞いた騎士の一人が頭を抱えました。
「ほらー!やっぱりそうだよ!」
「お前・・・・あ、いや、あなた・・・・様は伝説の冒険者、赤髪の騎士様でしょう!」
「なんでそんな方が、うちみたいな小国の騎士団に入団したがるんですか!?」
ブルー王国は小国に分類される。
この国の騎士団にとって、自分の持つ実績はあまりにも大きすぎたようです。
結局、自分は騎士団長のもとへ直接取り次がれることになりました。
面談を受けた後、騎士団長は苦笑しながら言いました。
「・・・・ということで、入団試験は免除だ」
「身辺調査も・・・・まあ、免除だな。実績もあるし、冒険者ギルドからの信用もある」
そして最後に、こう聞いてきたのです。
「それとな。赤髪の騎士ってのは、冒険者ギルドで使っていた通り名だろ?」
「本名を教えてもらえるか?」
自分は、遠い昔にクラレットという名を捨てました。
そして創造神様の使徒となった時、新たな名をいただいたのです。
この500年、その名を誰にも教えたことはありませんでした。
ですが、これからはそういうわけにもいきません。
創造神様からいただいた名。
それは、自分の赤い髪と赤い瞳から連想されたもの――
「自分の名は、ガーネットと申します」
そう名乗り、まっすぐ騎士団長を見ました。
「特技は剣術。魔法は身体強化が得意です」
「これからよろしくお願いします、騎士団長どの!」




