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第3話

「勇者の聖戦」から450年後。


私――黒の治癒士。


エリューシオン教会では大聖女と呼ばれておりますが――は、久しぶりにピオニー商業国の王族から、パーティへの招待を受けました。


もう、あの国もすっかり代替わりしています。


かつて私に求婚してきた王太子はすでに即位し、第二王子も亡くなっていました。


今の国王陛下にも子供が生まれ、その子が王太子となるため、立太子のパーティを開くというのです。


月日の流れは本当に早いものですね。


そう思いながら、私は出席を承諾しました。


しばらく教会を空けることになるので、手の空いている聖女たちや司教見習いたちを集め、留守にすることを告げます。


すると、心なしかほっとしたような顔をする者や、笑顔になる者がいるような気がしました。


おかしいですね。


私はとても優しくしているはずなのに。


なぜだか、下の者たちには震え上がるほど怖がられているらしいのです。


声を荒らげて怒ったことなんて、一度もないのですよ?


・・・・まあ、笑顔が逆に怖いと言われたことはありますが。


理不尽ですね。


それはともかく、ピオニー商業国へ向かおうとしたその時――


なんと創造神様から声がかかりました。


しかも用件が、


「わたしもそのパーティについていこうと思います」


というのです。


珍しい。


というより、初めてのことかもしれません。


ですが、拒否できるはずもありません。


仕方なく、私の付きの見習い聖女という形で同行していただくことになりました。


・・・・うう。


よりにもよって、創造神様をお付きの見習い扱いだなんて。


胃が痛くなりそうです。


ピオニー商業国の王城では、すでにパーティが始まっていました。


会場には、名だたる商会が顔を揃えています。


一番目立っていたのは、やはりラズベリー商会でしょう。


かつて袂を分かったラズベリーさんが立ち上げた商会で、当時宣言した通り、今では中央平原中のどの国にも支店を持つ、随一の規模を誇る商会になっていました。


商人とは、品物だけでなく、人と国、そして技術をつなぐ者。


昔も今も、商会はそうして各地を結んできたのです。


ラズベリー商会は、まさにその言葉を体現する存在になっていました。


そのラズベリー商会の会長と、その娘であるフリージア・ラズベリーも、このパーティに参加していました。


フリージア・ラズベリー嬢は、まだ五歳。


それでも淑女教育をきちんと受けているのでしょう。


堂々とした挨拶を見せてくれて、10年後にはどれほど見事な女性になるのか、将来が楽しみになる子でした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


エクレアは、大聖女が挨拶を受けている間に、少し離れた場所へ移動していた。


周囲に誰もいないことを確認し、そっとフードを外す。


ほんの一瞬だけ、素顔があらわになった。


会場の熱気で息苦しさを覚え、夜風に当たりたかったからである。


今回、エクレアが無理を言ってまで大聖女の付き見習いとしてついてきたのは、この中央平原を代表する商会を、自分の目で見ておきたかったからだった。


どの商会がどことつながり、何を考え、どう利益を上げているのか。


それを知っておきたかったのである。


すべては、親愛なるご主人様のため。


生活に困らぬ程度の財を持たせるため。


だが、持ちすぎて目をつけられぬよう、ほどほどに整えるためでもあった。


目的を果たしたエクレアは、すぐに再びフードを被り、元のように目立たぬ姿へ戻った。


だが、その一瞬を、たまたま見てしまった者がいた。


ラズベリー商会の長女、フリージア・ラズベリーである。


熱気にあてられ、夜風に当たろうとテラスへ出た彼女は、そこでフードを取ったエクレアを見てしまったのだ。


その一瞬で見た、女神のような美貌。


それは、まぶたに焼きついて離れなかった。


そして、その瞬間――


フリージア・ラズベリーの中に、邪悪龍の塵が入り込んでしまったのである。


その後、彼女は高熱を出し、そのまま一週間寝込んだ。


だが、目覚めた時には、人が変わったようになっていた。


淑女としての作法。


勉強。


魔法の訓練。


そして、まだ五歳であるにもかかわらず、商会の仕事まで手伝い始めたのだ。


周囲の侍女たちは、その変貌ぶりに驚くばかりだった。


だが本人の心には、ただ一つの願いしかなかった。


もう一度、あの女神様に会いたい。



10年が過ぎた。


香るような美貌を持つと評判になっても、男など目にも入れず、彼女は目的のためだけに突き進んでいた。



20年が過ぎた。


両親が結婚を諦めようとした頃でさえ、フリージアは裏世界の住人である闇ギルドと手を組む方法を考えていた。


なんなら、自分の身体を使ってでも――


そう考えたほどだった。


もちろん、親が必死で止めたが。



30年が経った頃には、一介の商会に収まらぬほどの力を手に入れていた。


そしてラズベリー商会の情報網を総動員し、あの女神のような女性がどこにいるのかを探し始めた。


だが、見つからない。



さらに40年が経った頃、フリージアは気づいた。


目的を果たすには、もっと時間がかかる。


ならば、商会をさらに大きくし、不老の方法すら探さねばならない、と。


もはや執念としか言いようがない。


そしてその執念を支えていたのもまた、邪悪龍の塵の影響だった。


ついにフリージア・ラズベリーは、闇ギルドと手を組むことに成功する。


互いに欲しい情報を交換し合い、目的のために進むために。


闇ギルドの幹部は、創造神のいる世界へ行くための魔神具の情報を得た。


対してフリージアは、不老の方法と、女神がかつて姿を現して直接呪いを与えた国の情報を得た。


立場も違う。


性別も違う。


だが、目指しているものは同じだった。


二人は、邪悪龍の塵により欲心を増幅され、すでに正気を失いかけていたのかもしれない。


だが、そんなことに気づかぬまま、二人は欲望の赴くままに進み続けた。


それが、自らの人生を破滅へ導く道だとも知らずに。


(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇


この続きは、シリーズ第3作目のラストエピソードをご覧くださいね。


フリージア・ラズベリー様の末路が描かれておりますゆえ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 





あとがき


「僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です3」ラストエピソード第3話にエクレアが残した意味深なセリフ。これは、この話の内容が原因でした。エクレアはあの時に気づいたのです。長い伏線でした。


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