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第2話

その50年後――


つまり「勇者の聖戦」から450年後。


ぼく、赤髪の騎士は、プラチナ帝国傘下のある国を歩いていました。


冒険者ギルドからの依頼を終え、その帰り道だったのです。


どうやらこの国はかなり貧しいらしく、貧民の姿が目につきました。


その一方で、貴族たちは贅沢をしている。


さっきの依頼だって、美術品の輸送でした。


ぼくが受けた依頼に文句を言うのも妙ですが、そんなものに金をかけるなら、少しでも国を良くしようとは思わないのか。


少し憤りながら歩いていると、目の前に古びた服を着た子供が立っていました。


お腹を空かせているようです。


ぼくは持っていた食料の中から、食べやすそうなものを選び、差し出しました。


最初、子供は警戒して受け取りませんでした。


随分しつけがいいな、と思いましたが、やはり空腹には勝てなかったのでしょう。


やがて食料を受け取り、夢中でかぶりつきました。


「おねえちゃん、ありがとう」


その感謝の言葉に、ぼくは少しだけその子と話をすることにしました。


聞けば、その子の親は闇ギルド関係の施設で働いているらしいのです。


ただし、子供は怒ったように「親は闇ギルドの人間じゃない」と言っていました。


あまり良くない場所だということは、子供なりに分かっているのでしょう。


それでも、賃金が良いから生活のために働くしかなかったのかもしれません。


ぼくは、子供とこうしてゆっくり話をすることがほとんどありませんでした。


とても新鮮な時間でした。


そして子供の方もまた、親以外からこんなふうに温かく接してもらうのは、初めてだったのです。


やがて夜になり、ぼくは子供と別れました。


子供は嬉しそうに手を振りながら帰っていきます。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


子供は、とても嬉しかった。


こんなに親切にしてもらえるなんて。


しかも、見たこともないほど綺麗なお姉さんから、食べ物を分けてもらえるなんて。


子供は考えた。


――どうして、他の人はあのお姉さんみたいに優しくしてくれないのだろう。


――どうして、親は自分にそれほど構ってくれないのだろう。


その時だった。


ある偶然から、その子供に、50年前に赤髪の騎士たちが倒した邪悪龍の塵が取りついてしまったのである。


その塵には、欲心を増大させる効果があった。


誰にでも出るわけではない。


つまり、この子供は邪悪龍の塵に選ばれてしまった人族だったのだ。


塵の影響を受けた子供は、考えるようになった。


なぜこの世界は、自分に優しくないのだろう。


どうしたら、この世界をもっと楽しく生きられるのだろう。


「やっぱり賢くないとな。そして、周りの人間の顔色も見ないと」


ちょうどその時、近くにいた男たちが、小ずるいやり方で人を騙して小金を手に入れたことを、自慢げに話していた。


ただのくだらない自慢だった。


だが、子供にはそうは聞こえなかった。


さらに、別の男のこんな言葉も耳に入る。


「この世を創ったっていう創造神様だろう? 聖教会じゃそう教えてるじゃねえか」


「なら、その創造神とやらは全能で、何でもできるんじゃねえか?」


それを聞いた子供の頭の中で、一つの思い込みが生まれた。


――創造神に会えばいい。


――そうすれば、願いを叶えてくれる。


そこから、その子供は親の制止も聞かず、闇ギルドへ出入りするようになった。


そして闇ギルドの依頼を引き受けるようになっていく。


子供はやがて少年となり、青年となり、気づけば周囲から頼られる立派な闇ギルドの一員になっていた。


その能力の多くは、邪悪龍の塵から与えられたものだった。


さらにその青年は、闇ギルドの中でもひたすら上を目指し、力を求め、各地から噂を集めては、創造神のもとへ行く方法を探し続けた。


そして長年の執念が実ったのか、あるいは闇ギルドがそれだけ力を持っていたのか――


ついに、どこへでも転移できる魔神具があるという情報を得た。


その情報を持っていたのは、青年が直接仕えていた闇ギルド幹部だった。


その頃には、かつての子供は、闇ギルド最大派閥を束ねる幹部の右腕にまで上り詰めていたのである。


ある日、その幹部は、かつての青年の望みを聞き、面白がるようにこう言った。


「くっくっく。やはりお前は危険だな。だからこそ、俺の右腕にふさわしい」


「お前の望む魔神具は、いま俺が持っている」


「だがな、その望みを叶えるには、莫大な魔力をそこへ貯めなければならんのだ」


そう言って見せたのは、首飾り型の魔道具だった。


それこそが、どこへでも転移できるという魔神具だった。


「これは遥か昔から伝承のある品でな」


「極限まで魔力を貯めれば、この世界を創った神――創造神のもとへ連れて行ってくれ、願いを一つ叶えてくれるというのだ」


しかも、この幹部は、すでに200年以上前から各地で画策し、この首飾り型魔神具に魔力を貯め続けてきたという。


最初に大きく魔力を貯めることに成功したのは、かつてフクシア神教国で、大地の聖女と契約し、国民から魔力を奪った事件だった。


あの時は20年も貯められたが、それでもまだ足りなかった。


だから次は、一人のもっと強力な魔力の持ち主から奪おうと考えていたのだという。


その話を聞いたかつての青年は、昔聞いた「創造神に会えば願いを叶えてくれる」という話が、本当だったのだと感動に震えた。


その後――


彼はついに、直接仕えていた幹部を殺し、自分がその地位に取って代わった。


目的はただ一つ。


首飾り型の魔神具に極限まで魔力を貯め、創造神のもとへ行き、願いを一つ叶えてもらうこと。


そのためなら、罪のない者も、悪意を知らぬ聖女も、利用する。


その背後には、邪悪龍の塵の影響が色濃くあった。


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