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クラレット・ラベンダー共通エピソード2  邪悪龍の残したモノ  第1話

「勇者の聖戦」から400年後。


私、ラベンダーは今日もエリューシオン教会で、聖女や孤児たちに教育を施していました。


最近は、男の孤児たちに、聖女にはできないような貴族との関わりを持たせるべきかどうか、少し悩んでいます。


そんな中、少し時間が空いた時を狙ったかのように、冒険者ギルド総本部から連絡が入りました。


「今すぐ来てほしい」とのことです。


「ふう、まったく休む間もないわね」


そうぼやきながら、私は冒険者ギルド総本部へ向かいました。


久しぶりに顔を出した総本部は、相変わらず人の気配に満ちていました。


最近は支部のギルドにも顔を出していませんし、ピオニー商業国の件もあったので、なんとなく他の冒険者たちと顔を合わせづらかったのです。


「いらっしゃい」


元気よく声をかけてくれたのは、総本部の総代表でした。


年は六十を過ぎているでしょうか。支部時代の手際の良さを見込まれ、抜擢された方だと聞いています。


「これはこれは、黒の治癒士さま。お呼び立てして申し訳ない。・・・・おっと、大聖女様とお呼びした方がよろしいですかな?」


そう聞かれましたが、


「いえ、どちらでも構いませんよ」


と曖昧に返しました。


ふと横を見ると、そこに見知った顔の女性が立っていました。


クラレットくん――


いえ、今は赤髪の騎士様と呼ばなければいけませんね。


「赤髪の騎士様、お久しぶりですね」


久しぶりに、私は本音の笑顔で挨拶をしました。


赤髪の騎士様も嬉しそうに笑います。


「本当だね。久しぶりだ」


「ふふ、会えて嬉しいよ。ちょうど君に渡したいものもあったし」


「でもその前に、総代表から依頼の話を聞いてしまおう」


総代表から告げられた依頼。


それは、赤髪の騎士と黒の治癒士の二人で、ある魔道具を回収してほしいというものでした。


この100年ほどで、魔道具の数は一気に増えたように思います。


昔にはなかった種類のものまで出回るようになりました。


錬金術師たちも開発に力を入れているそうですし、付与魔法の使い手も引っ張りだこだとか。


便利な道具として需要が増え、供給が追いつかないほど、魔道具産業は盛んになっているそうです。


ですが――光が強くなれば、闇もまた濃くなる。


能力は上がるのに精神を蝕むもの。


装備すれば呪いにかかるもの。


そうした危険な魔道具まで、数多く出回るようになっていたのです。


その多くに、やはり闇ギルドが絡んでいるらしい。


この400年のあいだに、私も何度か闇ギルド絡みの事件に遭遇し、凶悪な魔道具を見てきました。


一体、闇ギルドの目的は何なのか。


ただ人々を苦しめるためだけに動いているようには思えません。


何か別の目的があるように感じるのです。


そんなことを考えていた時、私はふと、隣にいる赤髪の騎士様の首に、何の変哲もないペンダントがかかっているのに気づきました。


でもそれは、とても見覚えのある品でした。


「ま、まさか、それ・・・・」


赤髪の騎士様は、少し照れたように笑いました。


「ふふ、気づいた?」


「これ、ホワイトがつけていたペンダント」


そう。


遠い日に私の手元から離れていった、あのペンダントです。


ホワイト君との思い出の品。


どうしてそれを、赤髪の騎士様が持っているのかしら。


赤髪の騎士様は、そっとそれを外して私へ差し出しました。


「返すよ。もともと君の持ち物だったんだし、ホワイトが返したのも君にだ」


「いつか返そうと思って、持っていたんだよ」


一般的な魔道具の付与効果は、能力の5パーセント増――つまり1.05倍程度が普通とされています。


10パーセント増なら大成功で、その値段は一気に跳ね上がる。


20、30パーセントともなれば、もはや平民が持てる品ではなく、商会でも扱えず、国や教会が保管するような国宝級の品になるそうです。


かつてホワイト君――いえ、ご主人様へ渡したこのペンダントにも、私の手で国宝級の付与を施していたはずでした。


ですが、付与された魔力は、魔道具本体がそれに耐えられなければ霧散してしまいます。


また、使いすぎても失われることがあります。


だからでしょうか。


いま目の前のペンダントからは、何の魔力も感じません。


本当に、ただのペンダントにしか見えないのです。


でも、それでいい。


私はありがたく、そのペンダントを受け取りました。


そして、このペンダントをどうするか、すでに心を決めていたのです。



私たちはすぐに依頼の回収へ向かいました。


内容は、闇ギルドが各地から集めていた危険な魔道具の回収です。


作業自体は、無事に終わりました。


二人で動いたのですから、闇ギルドの構成員程度では実力差がありすぎます。


問題になりませんでした。


しかも闇ギルドは一枚岩ではないようで、今回の件も、内部で勢力を盛り返したいと考えた小規模な幹部が、呪いの魔道具を集めていたにすぎなかったようです。


ろくでもないものを集めていた隠れ家もすぐに探知できました。


即座に急襲し、幹部の身柄を押さえ、魔道具の回収を完了したのです。


――ですが。


その時、私たちも闇ギルドの幹部も予想しなかったことが起きました。


回収した魔道具の中に、封印の魔道具が混ざっていたのです。


しかもそれは、私たちの魔力に反応して、封印が解けてしまいました。


そこから現れたのは――


なんと、創造神がつくりし「七つの邪悪な災厄」の一つ、邪悪龍だったのです。


その封印の魔道具は、ゴールド王国以前に栄えていた、古い歴史書にしか残っていない時代――魔導技術共和国パールの頃に作られたものでした。


ただ、幸いだったのは、その邪悪龍が以前討伐した暗黒邪虎ほど強くはなかったことです。


私と赤髪の騎士様の二人で、なんとか討伐することができました。


おそらく、長い封印によって弱っていたのでしょう。


赤髪の騎士様も、そう言っていました。


ですが、邪悪龍の厄介さは、その強さでは終わりませんでした。


本当に恐ろしいのは、滅びた後――その身体が塵になってからだったのです。


その塵には、人族の欲心を増幅させる効果がありました。


もちろん、すべての人族に作用するわけではありません。


ですが、誰かがその影響を受け、自らの欲望のままに動き出すかもしれない。


非常に厄介です。


それでも、まずは依頼完了です。


危険な魔道具の回収は終わりました。


依頼を終えた後、私は創造神エクレア様のもとへ向かいました。


そして赤髪の騎士様から返していただいたペンダントを取り出し、そっと差し出しました。


「エクレア様。ホワイト君が使っていたこのペンダント、預かっていただけませんか」


「いつかホワイト君――いえ、ご主人様が生まれ変わった時、エクレア様からこのペンダントを渡してあげてほしいのです」


そう言って、私はホワイト君との思い出のペンダントを託しました。


私にとって、このペンダントは、ホワイト君との絆そのものでした。


ですが、だからこそ――その思い出は、私一人で抱えていてはいけないと思ったのです。


創造神様をはじめ、ご主人様に仕えるメイド全員で共有すべきものなのだと。


以前から、そう考えてはいました。


ただ、どうしても踏ん切りがつかなかった。


ですが、赤髪の騎士クラレットくんから返してもらったことで、やはりこの思い出はエクレア様へ渡す運命なのだと感じたのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


黒髪の大聖女ラベンダーのその想いを、エクレアはすべて理解したうえで、静かにペンダントを受け取った。


その後、エクレアはそのペンダントへ自ら付与魔法をかけた。


与えた効果は、反射神経と動体視力を百倍にするもの。


さらに疲労回復、眼精疲労の回復、肩こりの回復まで持たせたという。


創造神エクレアも、黒髪の大聖女ラベンダーも、想いは一つだった。


――いつか、親愛なるご主人様の役に立ちますように。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


同じ頃。


赤髪の騎士クラレットもまた、創造神エクレアから「ホワイトとの思い出を忘れなさい」と告げられていた。


クラレットにとっての思い出の品は、赤い石である。


遠い昔、ホワイトから渡された赤い石。


ラベンダーにとってのペンダントと同じく、クラレットにとってはご主人様との絆とも言える品だった。


だが、それももう過去の思い出。


これからは、今後生まれてくるご主人様へ心を尽くさねばならない。


過去に囚われていては、余計な雑念が生まれ、ご主人様へ仕える妨げになる。


エクレアは、そんなクラレットへそっと言った。


「黒髪の聖女は克服しましたよ」


「あなたは、いつまでご主人様にもらった赤い石へ執着するのでしょうね」


「本当に困ったものだわ」


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