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第3話

国を興すには土地が要る。


その話を聞いて、私はすぐに、ある場所を思い出しました。


ちょうどいい土地があります。


国ですらない、見捨てられた土地。


貧しさゆえに、周囲の国から相手にもされなくなった集落一帯です。


ですが、国を挙げて商売をするのなら、土地そのものが痩せていても、なんとかなるかもしれない。


そう思って、その地を紹介することにしました。


その土地とは――元ウィスタリア聖教国だった場所です。


この土地が貧しいのには、はっきりした理由があります。


今から300年ほど前。


創造神様の怒りに触れ、「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つである暗黒邪虎が天より遣わされ、ウィスタリア聖教国は滅びました。


当然、建物も土地も人も、すべてが破壊されました。


さらに暗黒邪虎の瘴気の影響で、水は枯れ、地は力を失い、人が生きていくのも難しい土地へ変わってしまったのです。


滅びた直後は、誰も住みつこうとはしませんでした。


ですが、時間が経つにつれて少しずつ人が入り始めます。


ただし、土地の力は戻らず、作物は十分に育たない。

貧しさはずっと続いていました。


それが気の毒で、私は時折その土地を訪れては、魔力を流して地を整えたり、魔物を討伐したり、手助けをしてきたのです。


さらに、ある時その集落一帯に疫病が広がった際、私は回復魔法で大勢を治療しました。


それ以来、その土地の人々は私を黒髪の聖女と呼び、信仰するようになったのです。


今もなお、彼らは貧しく厳しい暮らしをしています。


私は折を見ては、その地を訪れて様子を見ていました。


そのため、集落の人々の間では、代々私のことが「黒髪の大聖女」として語り継がれているらしいのです。


しかも、今の私は本当にエリューシオン教会の大聖女ですから、あながち間違いでもありません。


私を慕ってくれている土地です。


私が頼めば、新たな国を作ることを許してくれるかもしれない。


そう考え、私はピオニーさんを連れて、元ウィスタリア聖教国の土地へ向かいました。


ですが、足を踏み入れてすぐ、私は嫌な汗をかきました。


よそ者を見るような目で、住民たちがこちらを見ているのです。


・・・・そういえば、前に来てから50年は経っています。


生活が少し良くなってきたこともあって、最近は足が遠のいていたのでした。


まさか、もう私のことを誰も覚えていないのでは――


そう思った、その時です。


目の前を歩いていた子供が転び、怪我をしてしまいました。


私は反射的に、その子へ回復魔法をかけて治療しました。


すると、その様子を見ていた母親が、血相を変えて叫んだのです。


「黒髪の大聖女様が帰ってきた!!」


私は思わず目を丸くしました。


隣のピオニーさんは、さすが、と言わんばかりの顔をしています。


それからは早かったです。


村長と、大勢の若者たちが慌てて駆けつけてきました。


「むうう。伝承にある通りの美貌、そして回復魔法の使い手。髪も瞳も確かに黒い。言い伝え通りじゃ」


とまで言うのです。


驚いている間にも、村長はますます興奮してしまいました。


「皆の者!黒髪の聖女様が、この地へ50年ぶりにお戻りになったぞ!!祭りじゃ!!宴の用意をせよ!!」


これは絶対に面倒なことになります。


私は慌てて止めに入りました。


「そんな大げさなことはしないでください」


すると村長は、感動に打ち震えたような声で言いました。


「うむう・・・・これも伝承通りじゃ。なんと謙虚な聖女様じゃ・・・・」


・・・・話が進みません。


私はすぐに本題へ入りました。


この地に新しい国を作りたいこと。


税を取るわけでも、皆さんへ迷惑をかけるわけでもないこと。


できれば土地を貸してほしいこと。


村長はすぐには答えられないとしながらも、こう言ってくれました。


「重要な話ゆえ、即答はできません」


「ですが、黒髪の聖女様の頼みであれば、ほかの集落も嫌とは言いますまい」


「なんせ黒髪の聖女様がこの地を救って以来、300年。初めての頼み事なのです」


「やっと御恩に報いることができるのですわい」


その笑顔を見て、私はようやく胸を撫で下ろしました。


こうしてなんとか、ピオニーさんの望みは叶えられることになったのです。


新たに作られる国の初代国王は、もちろんピオニーさん。


国名は――ピオニー商業国。


商業国というのは、あまり聞きませんよね。


ですが、説明しなくても分かりやすいから、という理由でこの名に決めたそうです。


ええと。

もう「ピオニーさん」ではなく、ピオニー国王陛下とお呼びしないといけませんね。


こうしてピオニー商業国は誕生しました。


もともとこの土地に暮らしていた人々の間では、今も黒髪の聖女への信仰が根強く残っています。


ですので、この国の運営が軌道に乗るまでは、私も黒髪の聖女として協力することにしました。


それから十数年。


建国当初、周辺諸国はピオニー商業国を国として認めませんでした。


まあ、当然の反応でしょう。


「いやしい商人が勝手に国を名乗って王様ごっこをしている」


そんな噂まで流れて、笑いものにされていたのです。


それに対し私は、大聖女としてエリューシオン教会がピオニー商業国を支持する旨を発表し、支援も行いました。


すると意外なことに、プラチナ帝国もまたピオニー商業国支持を表明したのです。


あとでこっそりイオニア様に伺ったところ、今回の騒動の原因は、帝国の皇族が贅沢のために、イオニア様へ黙って商会への税を引き上げたことにあったそうです。


その責任を取らせる意味も込めて、犠牲になったピオニー商会――ひいてはピオニー商業国を支持することにしたのだとか。


そして現在、ピオニー商業国はプラチナ帝国の傘下に入り、順調に国を挙げて商売を進めています。


他に大きな変化と言えば、ピオニー国王陛下の片腕だったラズベリーさんが独立したことでしょうか。


ラズベリーさんは、新たにラズベリー商会を立ち上げました。


中央平原中の国へ支店を作ってみせる、と豪語していたそうです。


ですが独立の原因は、やはりピオニー国王陛下と、エルダー商会会長の妻との不適切な関係にありました。


しかも、子供まで作ってしまった。


そこまで不道徳なことには、どうしても納得できなかった――とラズベリーさんは言っていたそうです。


それは、まあ・・・・無理もありません。


さらにもう一つ。


エルダー商会との決着もつきました。


長らく敵視されていましたが、今ではピオニー商業国のほうが国という形を取ってしまった以上、組織としてはかなりの差があります。


ところがある日、エルダー商会会長のご子息だという青年が、ピオニー商業国へやって来たのです。


そして、とんでもないことを言いました。


「私はピオニー商業国の国王の血を引いた、実の子供だ」


・・・・これは、双方にとって醜聞以外の何ものでもありません。


この対応には、大変苦慮したと、後でピオニー国王陛下から聞きました。


最終的にどうしたのか、私は聞いていません。


ですが、血を分けた実の子供を処分するようなことだけは、していないといいのですが。


というのも、国を成り立たせる条件として、かつての王族の血を引く女性との間にできた子供が必要だったからです。


ですので、仮にその青年がピオニー国王陛下の実子だったとしても、後継者にはなれないのです。


・・・・はあ。


こういう男女の不適切な関係は、本当に子や孫の代にまで悪い影響を残すものなのですね。


ラズベリーさんが離れていったのも、分かる気がします。


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