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第4話

さらに数年が経ちました。


ピオニー商業国が国として認められてからは、夜会のような社交の場も徐々に開かれるようになり、私も招かれることがありました。


最初にピオニー国王陛下たちと出会ってから、もう20年以上が経っています。


ですが、私の容姿はまったく変わりません。


そのことを深く問われることはありませんが、どうやら


魔力が強大だから


人族ではなく別の種族だから


あるいは聖女かもしれないから


と、色々噂されているようです。


エリューシオン教会に出入りしていることも知られていますので、正式には言われなくても「聖女なのでは」と思われているみたいですね。


なので年齢も関係ないし、美しい人は衰えないのだ、と割と雑に解釈されているそうです。


・・・・それでいいのでしょうか。


ある時、私はピオニー商業国の王城で開かれる夜会へ出席しました。


久しく顔を出していなかったので、どうしても顔を見たいと国王陛下にせがまれて、渋々参加したのです。


ですが――これが失敗でした。


その夜会で、幼い頃から見知っているピオニー商業国の王太子殿下から、真剣な求婚を受けてしまったのです。


この王太子殿下こそ、ピオニー国王陛下と、かつて滅んだ王族の血を引く女性との間に生まれた子供でした。


その方は、うっとりした眼差しでこう言いました。


「永遠の美を持つ黒の治癒士様。願わくば、私に、あなた様の隣へ永遠に立つ栄誉を与えてほしい」


はあ?


ええと、つまり――


求婚ですね。


「見る者すべてを魅了するその美貌。偉大なる魔力。そして国民からの厚い信仰」


「完璧です。どうか私の妻となり、この国を支えてください」


熱く熱く語ってくれましたが、私はまず思いました。


あなた、婚約者がいますよね?


婚約者がいるのに、何を求婚しているのでしょう。


ですので私は、きちんと説教させていただきました。


「婚約は重大な契約です。あなたは王族です。何よりも信用される振る舞いをしなくてはなりません」


「それに、ここは商業の国でしょう。商売は信用が大事なのですよ」


そう言いながらも、王太子の婚約者である令嬢からの冷たい視線が怖かったです。


それに私は、もうずっと昔に心を捧げた方がいます。


ホワイト君――今はご主人様ですが、その方のことを愛しているのです。


ですから、この求婚を受けるはずがありません。


そもそも王太子からは、10歳を過ぎた頃から、夜会のたびに冗談とも本気ともつかない求婚をされてきました。


ですが、来年には婚約者との結婚が決まっているそうです。


今日が最後の機会とでも思ったのでしょう。


どうか、その婚約者様と仲良くしてください。


・・・・しかし、世の中にはしつこい男性もいるものですね。


それが、ピオニー商業国の第二王子でした。


王太子の求婚を断った直後、今度は第二王子がこう言ってきたのです。


「兄上が諦めたのなら、その権利を私がいただいても構わないでしょうか」


もう勘弁してください。


私から見たら、あなたたちは孫かひ孫のようなものなのです。


恋愛対象になどなりません。


ですが、その時私は、第二王子の瞳に薄暗い感情が宿るのを見逃しませんでした。


大丈夫だとは思いましたが、少し警戒することにしたのです。


案の定、夜会のあと、第二王子はエリューシオン教会にまで押しかけてきました。


最初は穏やかな態度でしたが、徐々に言葉も態度も傲慢になっていきます。


それを見ていた聖女や見習いたちが、ひそひそとこう言っている始末です。


「大聖女様って、男性にはモテるけど、少し男運が悪いのでは・・・・」


放っておいてちょうだい。


教会にこれ以上踏み込めないと分かると、今度は私がたまに顔を出す冒険者ギルドへ圧力をかけようとしました。


「私は王族だぞ。こんなギルドなど潰されたくなければ、おとなしく言うことを聞け」


「黒の治癒士を、ピオニー商業国専属の冒険者にするよう説き伏せるのだ!!」


・・・・そもそも冒険者ギルドは、そういう貴族権力に対抗するための組織です。


そんな脅しで屈するわけがありません。


しかも、ピオニー商業国は小国ですし。


ですが、受付嬢からその話を聞かされた時は、恥ずかしいやら申し訳ないやらでいっぱいでした。


元をたどれば、私もこの国の建国に関わっているのですから。


ギルドへ圧力をかけても駄目だと分かると、次は私へ直接説得をしに来ました。


「冒険者なんて危険なことを、愛するあなたにさせておけない」


「どうか私の妻になって、贅沢な暮らしをしてみないか」


・・・・はあ。


そもそも私は贅沢が好きではありませんし、ピオニー商業国を豊かにした功績の一端は私にもあります。


何より、私には心に決めた大事な方がいるのです。


私は感情を込めず、丁寧に断りました。


「謹んで、お断りいたします」


相手は腐っても王族ですからね。


あくまで礼儀は守ります。


ですが第二王子は、悔しそうな顔で私を見つめ続けていました。


そしてその後も、数年にわたり求婚は続いたのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ピオニー商業国の国民たちは、第二王子の態度に怒っていました。


この国の国民の多くは、代々黒髪の聖女を崇めてきた人々です。


その黒髪の聖女へ、なんという失礼な態度を取るのか、と。


この国では、王族といえど絶対の権力を持っているわけではありません。


行き過ぎた振る舞いをすれば、処分は免れないのです。


もともと、この国は黒髪の聖女の助けがあってこそ発展してきました。


その聖女へ迷惑をかけ続けていると知り、ついにピオニー国王は第二王子へ罰を与えることを決めました。


「どうしてですか、父上!!私が何をしたと言うのです!」


「平民の声など無視すればよいではありませんか!!下賤な平民など取るに足りません!!」


その言葉を聞き、かつて平民だったピオニー国王は、諦めたような表情で答えました。


「それを言うなら、私も元は平民だ」


「それもしがない商会の会員であった。それが、黒の治癒士殿の助力を得て、ここまでの地位を築けたのだ」


「それに、王族は偉いとお前は言うが、その考えこそ、私が最も嫌うものだ」


「私が国を作ったのは、他国の王族の横暴に負けぬためだ」


「それなのにお前は、まさに私が嫌う王族そのものになってしまった」


その言葉を聞いて、第二王子はようやく自分の立場に気づいたのです。


もっとも、結局、第二王子に処罰は下りませんでした。


別の有力高位貴族の令嬢との婚約がまとまったからです。


その令嬢は、「黒髪の聖女様を守るため、自分が犠牲になるつもりで承諾した」と言っていたそうです。


そして彼女は、第二王子にこう告げました。


――黒の治癒士。


――国民が黒髪の聖女と崇めるあの女性は、本当はエリューシオン教会の頂点に立つ大聖女なのだ、と。


黒の治癒士が大聖女であることは、本来なら秘密事項です。


その令嬢は、黒髪の聖女を恋い慕うあまり、身辺調査をしすぎてしまい、その事実を知ったのだそうです。


この情報は、第二王子からピオニー商業国の王族へ伝えられました。


しかし同時に、王族の秘密として外へ漏らすことは固く禁じられたのです。


そしてピオニー王族は、このことを代々王族だけに伝える秘密にすることを決めました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「勇者の聖戦」から500年後。


ピオニー商業国の王城にて。


ピオニー商業国の第一王子は、父である国王から王族の秘密を伝えられていた。


「・・・・よって、今この国があるのは、あの方のおかげなのじゃ」


「この方、黒髪の聖女様は、エリューシオン教会の頂点に立つ方らしい」


第一王子は驚いて尋ねる。


「ですが父上。たしか、エリューシオン教会の代表は男性の大司教殿ではありませんでしたか?」


「うむ。どうやら表向きには大司教を立てておるようじゃ」


「おっと、これも誰にも言うてはならぬぞ。我が国に伝わる秘密なのじゃ」


「そもそも、歴代の大司教たちも、皆この黒髪の聖女様が育てたとか」


「大変厳しい方らしくてな。普段あれほど威張っておる大司教ですら、黒髪の聖女様の前では借りてきた猫のようにおとなしくなるらしいぞ」


国王は目を閉じ、しみじみと秘密を語っていた。


その横で、第一王子は黒髪の聖女の絵姿を見つめている。


顔が分からないと困るため、ピオニー王族は代々、黒髪の聖女の絵姿を保管しているのだ。


「きれいな黒髪と、黒い瞳だ・・・・」


第一王子は、キラキラした目でその絵姿を眺めていた。


だが、国王はなおも話を続ける。


「我がピオニー商業国が、エリューシオン教会と商談をせねばならぬ時が来たなら、あの黒髪の聖女様に同席していただければ話は早いかもしれぬな。むふふ」


その言葉を聞き、第一王子は真顔で尋ねた。


「黒髪の聖女様ほどのお方が、たかが小国のピオニー商業国のためにお付き合いくださるでしょうか?」


国王は少しだけ黙り――


「・・・・そこは、うまくやれ」


とだけ答えた。


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