第3話
こんにちはこんばんは、おはようございます。
大魔導士イオニーアです。
ご主人様の遺命を受け、こうしてプラチナ帝国を治めてまいりましたが、あれからもう300年近くになるのですね。
人族にとっては長い年月でしょうけれど、わたくしにとっては一瞬に過ぎません。
それでも、国の運営というのは難しくも面白いものです。
人族の営みを間近に見られることは、ある意味では幸せなのかもしれません。
・・・・もっとも。
私の周りには、少々直情的というか、欲情的というか、侍女でありながら私の裸を見ようとする者までおりますので、そのあたりはあまり褒められたものではありませんけれど。
さて、今日は王族――いえ、いまは皇族ですね。
皇子たちの教育の様子をお話しようと思います。
歴代の皇子は、皆わたくしの手で養育し、教育を施してきました。
何につけても、教育が一番大事なのです。
ところが、その中に一人だけ、どうしても思想の偏った皇子がおりました。
平民を見下し、令嬢を顎で使う。
態度が実によろしくない。
・・・・はあ。どこで育て方を間違えたのかしら。
他の皇子と同じように育てたはずなのに。
親である皇帝陛下と皇后陛下も、ひどくおろおろしておりました。
いいえ、あなたたちの責任ではありませんわ。
自分を責めるのはやめなさい。
ただし、この性格が成人する十八歳までに治らなければ、荒療治が必要です。
そして――十八歳になりました。
残念ながら、あの傲慢さはとうとう治りませんでした。
ですので、皇子にはある魔法をかけることにしました。
えいっ。
ふふっ。
どんな魔法かと言いますと、ある平民男性と魂を入れ替える魔法です。
つまり、皇子の魂はいま、帝都から遠く離れた田舎の一平民の身体に入ったのです。
今ごろ、さぞ驚いているでしょうね。
いままで当然のようにわがままが通り、周囲の大人たちが傅いてくる生活だったのです。
それが一転、平民の身に落ちたようなもの。
少々厳しいかもしれません。
ですが仕方ありません。
あの性格のまま皇族に居続けても、プラチナ帝国にとって益にはならないのです。
では、水晶越しに皇子の様子を見てみましょう。
・・・・・・・・
・・・・
やはり、相当苦労していますね。
あっ。暴言を吐いて、お父さんに殴られ怒鳴られました。
何かわめいていますが、誰も気にしません。
「処刑するぞ」ですって。
冷めた目で見られていますわね。
お母さんも、あまり構う余裕がないようです。
それほど生活に余裕がないのでしょう。
痛さにのたうって横になっていますが、誰も治療する気配がありません。
あれが平民の家では当たり前なのかしら。
・・・・おや。
お母さんが「ご飯だよ」と呼んでいます。
やはり、あの程度は日常茶飯事なのですね。
平民、おそるべし。
一週間後。
しばらく見ないうちに、家の仕事を黙々とこなすようになっています。
もともとの能力は高いのでしょう。
見よう見まねでも、だいぶ形になってきました。
あっ。
「うまくなったな」
お父さんにそう褒められて、嬉しそうにしています。
一か月後。
お父さんと何か話していますね。
「税が高すぎないか?」
「たしかに高い。だが、領主様は俺たちのために川の補修をしてくれている。そのために今だけ税が高いんだ」
「くっ・・・・しかし、私ならもっと・・・・」
なるほど。
この領主は、ちゃんと領民をまとめているようです。
ですが皇子は、まだ納得していない様子。
「これだけ働いても食うに困るんだ。こんなの領主が悪い。皇帝が悪い」
・・・・いえいえ。
あなた、皇子ですよ。
しかも税金を一番無駄遣いしていた側です。
あ、皇帝の悪口を言うなと、お父さんにまた殴られましたね。
泣いています。
1年後。
忙しくて、皇子のことをしばらく忘れていました。
今ごろどうしているやら。
・・・・おお。
ちょうど村へやってきた商会の者と交渉していますね。
「え、高すぎる?そんなことを言うならもう村には来ないぞ?」
むぅ。
商会のほうは、だいぶ足元を見ていますね。
まあ、無理もありませんが。
おや。
皇子が何か考えています。
顔つきも、一年前とはまるで違います。
・・・・あら、薬草を出しました。
「なになに、村の奥地で採れた薬草?」
商会の者が驚いていますね。
どうやら、魔法薬の材料として優秀な薬草のようです。
ふふ。
皇子教育で教えた錬金術の基礎知識を、ちゃんと役立てたのですね。
変わりましたわ。
何の産業もない村を変えようと、自分の足で探し回ったのでしょう。
そして村の奥地で、その薬草を見つけた。
貧しい村のために、自分に何ができるかを必死で考えてきたのですね。
よろしい。
これで十分でしょう。
魂の入れ替えを元に戻します。
えいっ。
「それは安すぎる!!これを欲しいと言っている商会は他にもあるが、あなたはこの村をずっと贔屓してくれた。だから先にあなたの商会へ――あ、あれ?」
ちょうど値段交渉の最中だったのでしょう。
この一年、皇子の身体はずっとこちらで保管していました。
そして今、魂を元へ戻したのです。
ちなみに平民だった魂の方は、皇子の身体へ入るのを拒み、ずっと魂のままで彼の様子を見守っていました。
ですので、向こうは向こうで問題なく戻れそうです。
さて、皇子です。
周囲を見て、ここが城の中だと気づいたようですね。
姿見を見て、自分が皇子の身体に戻っていることにも気づきました。
その直後――
彼は猛烈な勢いで内政改革へ打ち込み始めたのです。
とくに、中央の目が届きにくい田舎の村をどう発展させるか。
そのことに強い関心を持つようになりました。
一時的な支援ではなく、末永く栄えさせるには、その土地ならではの産業が必要なのです。
どうすればそうした産業が育つのか。
それを支える政策を中心に、彼は動くようになりました。
その姿を見て、わたくしは彼を正式に皇太子へ任命したのです。
任命式では、すべての皇子たちと、皇帝陛下、皇后陛下が並ぶ中で、わたくしはいつものようにこう言い聞かせました。
「あなた方皇族は、尊い血筋だから皇帝になれるのではありません」
「民を守る。その義務と責任に誇りを持ち、それを実行することを誓うからこそ、皇帝になるのです」
そして、さらに続けます。
「プラチナ帝国は、創造神様によって存続を許されています」
「創造神様が、あなたたちに帝国を治めよ、帝国民を幸せにせよという使命を与えたからこそ、あなたたちはこの帝国の統治を許されているのです」
「創造神様があり、帝国民があって、ようやくあなたたち皇族の存在が許されている」
「このことを、決して忘れてはなりません」




