大帝国へ~女神の手のひらで~ 第1話
「勇者の聖戦」から292年後
40年ほど前。
シルバー王国は、周辺諸国の連合軍を打ち破り、もはやどの国も手出しできないほどの大国へと成長した。
その様子を見て危機感を抱いたのだろう。
プラチナ王国もまた、周囲から強く警戒されるようになっていた。
ただ魔法と魔術を研鑽しているだけ――そう言い張ることもできなくはない。
だが、魔法使いたちの力は年を追うごとに強くなっていく。
それを脅威と見なされたのかもしれない。
あるいは、冒険者ギルド本部を擁し、中央平原中の優秀な冒険者を抱えていることが危険に映ったのか。
もしくは、エリューシオン教会と強固に結びつき、「聖女の派遣」先を事実上自在に決めていることが、羨望と反感を呼んだのか。
妬まれる理由には、いくらでも心当たりがあった。
そして、ついにアプリコット王国とビスター王国が手を結び、プラチナ王国へ宣戦布告してきたのである。
とはいえ、アプリコット王国もビスター王国も、100年前ならいざ知らず、今のプラチナ王国とは国力に大きな差があった。
その差は、騎士団の規模にまず表れていた。
さらにプラチナ王国は、必要とあれば臨時で冒険者ギルドへ依頼を出し、優秀な冒険者まで戦力に組み込める。
しかも負傷者が出れば、エリューシオン教会から呼ばれた聖女がすぐに回復魔法を施す。
それほどまでに、プラチナ王国魔法騎士団は充実していたのだ。
結果、両王国の騎士団は撃退された。
そしてその勢いのまま、プラチナ王国魔法騎士団は両国へ攻め入り、ついには併合が決まったのである。
この一連の戦争で、大魔導士イオニーアは一切手を出していない。
国王陛下をはじめとする重臣たちだけで、この戦争に勝利したのだ。
そしてこれを機に、プラチナ王国は、140年ほど前に属国としたマゼンタ王国も併合し、プラチナ帝国へと名を変えた。
王政から帝政への移行である。
帝政への移行に伴い、アプリコット王国、ビスター王国、そしてマゼンタ王国、それぞれの王族は公爵として臣下に下り、帝国へ忠誠を誓うことになった。
それまでにすでに公爵家だったマリーゴールド家、アマランス家を合わせ、彼らは五大公爵と呼ばれるようになる。
後世に「魔法国家プラチナ帝国」と呼ばれる大帝国の原型が、ここに形づくられたのである。
もっとも、攻められたから攻め返したとはいえ、戦争が起これば多くの民が戦禍に巻き込まれる。
二度とこのような侵略戦争を起こさないため、プラチナ帝国は以後、武力ではなく外交によって近隣諸国を従える方針へ切り替えた。
聖女の派遣。
冒険者ギルドの設置。
そして、魔法知識の提供。
それらを条件に外交上優位へ立ち、相手国を傘下へ置いていくのである。
この方法は、大成功だったと言っていい。
フクシア教国、アイボリー王国、アイリス都市連合国、ブルー王国、ブラウン王国。
多くの国を傘下に収めることができたからだ。
こうして中央平原は、三強が外交と軍事でしのぎを削る時代へ入っていく。
多種族を辣腕でまとめ上げる大宰相を擁する神聖ゴールド聖教国。
弱き者を守ることを掲げる常勝無敗の大将軍が率いるシルバー王国。
そして、聖女と冒険者ギルド、さらに強大な魔力を誇る大魔導士が守護する魔法国家プラチナ帝国。
時代は、まさに三強鼎立であった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大魔導士イオニーアの専属侍女は見た
どうもこんにちは。
私は、栄えある大魔導士イオニーア様付きの専属侍女でございます。
専属侍女を拝命してから、早2年。
月日とは本当に早いものですね。
もともと私は、しがない貧乏男爵家の八人兄弟、その五番目でございました。
ですので、ほとんど口減らしのような形で、有力貴族のもとへ奉公に出されたのです。
ですが私は、寡黙で勤勉、しかも容姿も地味。
そこが逆に良かったのでしょう。
「こういう子の方が安心できる」と見込まれ、やがて王城の侍女へ。
さらにそこから、大魔導士イオニーア様のお側へ行くことを許され、2年前にようやく専属侍女へ昇格したのでございます。
実は幼い頃、たまたま領地巡視に訪れた大魔導士イオニーア様のお姿を、遠くから拝見したことがありました。
その時、隣にはまだ小さかった弟もいたのです。
私は、あの時からずっと、イオニーア様のお側で侍女として身を立てたいと思っていたのでしょう。
念願叶って専属侍女になれましたが、実はその上に上級専属侍女という立場もあるのです。
なので、私なんかはまだまだでございます。
ですが、それでも他の者よりイオニーア様のお姿を拝見する機会は多いでしょう?
これが、私の密かな自慢なのです。
・・・・もっとも。
この2年で、大魔導士イオニーア様のお姿を拝見できたのは、それこそ月に一、二回あるかどうかという程度でございますけれど。
ですが、世の中にはラッキースケベという言葉がございます。
もちろん女性同士にも、それは起こり得るのでございます。
先日、上級専属侍女の方が、イオニーア様の湯あみの最中に、誤って目隠し用のカーテンを落としてしまうという事件がございました。
あの方はお優しいので、その程度でいちいち叱責なさることはありません。
しかし、その時たまたまタオル持ちの当番だった私は――
なんと大魔導士イオニーア様の、一糸まとわぬお姿を目にすることが叶ってしまったのです。
オホホホホ。
うらやましいでしょう?
私もその時は、興奮のあまり鼻血が出そうになりました。
本当に、興奮すると鼻血って出そうになるのですね。
あの時のお姿は、今も目に焼きついて離れません。
だって、同じ女性とは思えないほどのプロポーションなのですもの。
私も日々、肉体を使う仕事をしておりますから、それなりに整った体つきだとは思っておりました。
ですが、比べることすら失礼なくらい違いました。
腰は細い。
胸は大きいのに、形は美しく整っている。
首も腕も、すらりと細く長い。
もう、あれは眼福という言葉では足りませんわね。
私もいつか上級専属侍女となって、もっとお側へ近づきたいですわ。
ああ、その日が来るのが楽しみでなりません。
あとね。
あとね。
あの方のお側って、何とも言えないいい香りがするんです。
香を焚いているわけでもないのに、衣服にも、使用したタオルにも、ふと手を離れたハンカチにさえ、その香りが残っているのです。
もう、すっごくいい香りなんですよ。
多分、私だけではなく、他の侍女たちもみな、その香りに魅了されていることでしょう。
一度でもあの香りを嗅いでしまうと・・・・何と言いますのかしら。
オブラートに包まずに言えば、男でいう発情したような感覚になるのでございます。
本当に、良い女性というのは外見だけではないのですね。
内面まで蠱惑的だからこそ、ああいう香りをまとうのでしょうか。
あともう一つ、暴露してしまいましょうか。
実は、私たち大魔導士イオニーア様付き侍女団の宝物は、月に一度、湯あみの場で見つかるイオニーア様の髪の毛でございますの。
見ればすぐわかる、腰まで届くプラチナブロンドの長い髪。
あれは、どう見ても大魔導士イオニーア様の髪の毛で間違いありません。
それを侍女団の数十人で少しずつ分け合うのです。
私もこの2年で、随分たまりましたわ。
何がすごいって、その髪の毛に、いまだイオニーア様の香りがきちんと残っていることです。
ですから私は、部屋でこっそりその香りを嗅ぐたびに、やる気と――少しばかり危険な高揚感が湧いてまいりますの。
え? 変態ですって?
いえいえ。この程度では、まだまだですわ。
本当の変態は、隣の部屋から明らかに自分を慰めている声を漏らしている方々のことを言うのでございます。
私は、そこまでではありませんので。




