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第5話

シルバー王国、王城。


国王、政務大臣、軍務卿が会議を開いていた。


「では、国境の砦が使い物にならないという情報は、古かったということか」


政務大臣が軍務卿へ問う。


軍務卿は渋い顔で答えた。


「は、さようでございます。すでに数か月前から、大将軍どのの手で堅固なものへ作り替えられていたようです」


それを聞いて、国王はぱっと表情を明るくした。


「おお、さすがは大将軍どのであるな!このような事態を想定し、すでに砦を整備しておくとは!」


「さすがだ、さすがだ!」


だが軍務卿は、なおも渋い顔を崩さない。


「しかし、これは問題ですぞ。軍務を担う私へ何の報告もないとは。おかげで・・・・」


「ん? 何が問題なのだ?」


「いろいろ事情があって報告が遅れた、申し訳ないという謝罪の連絡があったではないか」


「逆ならともかく、何をそんなに渋い顔をしておる」


「はあ・・・・まあ、そうなのですが」


「それに兵も、すでに二万も国境へ集結させていたというではないか」


「そなたへ報告がなかったとしても、これで王国は救われたのだ」


「それに、大将軍どののおかげでそなたも救われたのだぞ」


「先ほどから、まるでそんなことをしてほしくなかったような顔をしておるぞ」


「え、いや、ぶ、ぶるる・・・・そのようなことはございません」


「そうであろう」


その答えに満足した国王は、さらに続報を待っていた。


そこへ、軍から伝令兵が駆け込んでくる。


「国王陛下!大将軍シェーラ様よりお手紙が届いております!!」


届けられた報告には、こうあった。


国境沿いの主砦の守備は万全。


ただし、そのすぐ隣にある別の砦は守りが薄い。


幸い、連合軍はそのことにまだ気づいていない。


ゆえに、すぐさまそこへ兵を送ってほしい。


という内容である。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「――と、スパイから報告がありました」


セダムは、自信満々に各国王と重臣、将軍たちへ告げた。


「目の前の砦から少し離れた砦は、守りが手薄とのことです」


スパイの報告なら間違いない。


そう信じた王たちは、すぐにその砦へ夜襲をかける案に賛成した。


本隊に気づかれぬよう、夜の闇に紛れて進軍する。


兵数は六万のうち半数、三万。


「これでシルバー王国に侵入し、背後から主砦を崩してくれるわ!!」


セダムは高笑いしながら、その時を待った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その頃。


大将軍シェーラは幕僚たちを集め、全軍出撃を命じていた。


「これより敵連合軍は、隣の砦へ夜襲を仕掛けます」


「我が軍はこの好機を逃さず、全軍で横腹を突き、敵軍を撃破します」


「その勢いのまま、本軍へ攻撃を加えます」


幕僚たちは命令に従うつもりだった。


だが、一人だけ疑問を口にする。


「大将軍シェーラ様。なぜ相手が夜襲を仕掛けると分かったのでございますか?」


シェーラは、ついに打ち明けた。


「もう諸君らへも話してよいでしょう」


「実はシルバー王国には、国王の近くに連合軍のスパイがいます」


幕僚たちの目が見開かれる。


「私は、そのスパイに偽の情報を与えてきました」


「食料がないのに“ある”と報告したのも、そのためです」


そして静かに続ける。


「本来なら、こちらには長く睨み合う余裕はない」


「だから決戦を急ぐ必要があった」


「ゆえに、この砦のすぐそばにある砦が攻めやすいという偽情報を流したのです」


「相手は、こちらの内情を知っていると思い込んでいる。ならば、必ずその情報を信じて夜襲をかける」


シェーラは敵陣の火を指差した。


「見なさい。あの火の動きを。松明を持った兵が移動している」


「これから、どこかへ向かうと教えているようなものです」


「そして、彼らがどこへ向かうかは、こちらには分かっている」


「ならば、どこを通るかも分かる」


「つまり――夜襲を仕掛けられるのは、こちらなのです」


そして、号令が響いた。


「全軍、出撃!!」


命令とともに、砦の全軍が一斉に動き出す。


連合軍三万は、まさか自分たちが攻められるとは思っていなかった。


しかも夜闇の中、横合いからの急襲である。


瞬く間に大混乱へ陥り、大勢が討ち取られた。


セダムもその軍の中にいた。


だが、逃げ切ることはできず、シルバー王国軍に捕らえられる。


そしてシルバー王国軍は、その勢いのまま、動かなかった残り三万の本軍へ向かって攻め込んだ。


こちらも、やはり攻められるとは思っていなかった。


将兵たちは我先にと逃げ出し、連合軍は総崩れとなる。


さらに追撃を加えた結果、大将軍シェーラは、ついに各国王をことごとく捕らえることに成功した。


シルバー王国軍の大勝利である。


後にシルバー王国の軍学校では、この四か国連合との戦いを、『戦争に勝つには情報戦を制する力が必要である』という好例として、教本に載せたという。


この戦争を制したことで、シルバー王国はこの地域で最大の国力を持つ国となった。


もはや、正面から戦争を仕掛けられる国はない。


ノーボバリナ王国、ユーハチサ王国、フネニアス王国、そしてダリア王国は、それぞれシルバー王国へ組み込まれることになった。


国王たちが捕らえられている以上、命を助けたければ条件を呑むしかなかったのである。


ただし、ダリア王国だけは別だった。


そこでは、もともと平民が王政打倒を望んでいた。


大将軍シェーラはその動きを助け、ダリア王国はダリア共和国となった。


そして、シルバー王国傘下の国として存続することになる。


王宮へ戻ったシェーラは、すぐに軍務卿を呼びつけた。


「軍務卿よ。そなたのおかげで、このたびの大戦に勝利することができた。功績は大である」


その言葉に、軍務卿は無表情で返した。


「それは嫌味ですかな、大将軍どの」


「ずっと私に偽情報を与え、連合軍を躍らせていたのですか」


「なぜ、私がスパイだと分かったのです? 私は30年も前から、この国の民として馴染むよう振る舞ってきたはずなのに」


シェーラは、あっさり答えた。


「ふふ。そなた、人族のふりをしているがエルフ族でしょう」


「なのに、人族のように振る舞おうとするから、怪しまれるのよ」


長年の秘密を、あまりにもあっさり暴かれた軍務卿は、もはや言葉もなかった。


自分は最初から、敵う相手ではなかったのだ。


そしてもう一人、王宮へ連れて来られたのが、連合軍の最高指揮官セダムである。


四か国を説得し、連合軍を結成し、大将軍シェーラへ真っ向から挑んできた男。


国王は彼へ問うた。


「シルバー王国を倒そうとした理由は何だ?」


「他の国なら、貴族制度を揺るがす我が国を嫌うのも分かる。だが、エルフ族は身分にこだわらぬはずだ」


そして返ってきた答えは、意外なものだった。


「くっ・・・・パロットだ!!」


「パロットが大将軍シェーラに誑かされたから、殺そうとしたのだ!!」


「パロットは、私の婚約者だったのだ!!」


「それなのに突然婚約を破棄し、人族の世界から帰ってこなくなった! その理由が大将軍シェーラだと知ったからだ!!」


パロット。


エルフ族であり、シェーラの腹心の部下だ。


彼女は、シェーラの素顔を見て一目惚れし、そのままずっと付き従っている。


・・・・もし今の言葉をパロット本人が聞いたら、どう思うだろうか。


ちなみに、軍務卿はセダムの友人であった。


セダムの頼みで30年前からシルバー王国へ入り込み、エルフ族であることを隠してきたのである。


このあと、二人のエルフ族はシルバー王国から追放された。


しかし、連行される間際にセダムが浮かべた、何かをまだ諦めていないような笑みの意味を、この時は誰も知らなかった。





あとがき


大将軍シェーラの戦いや采配をもっと読みたい方は、別で公開しているシェーラ短編「七万の兵を飢えさせるな ―大将軍シェーラ兵站戦記―」もおすすめです。本編とは違う形で、大将軍として異名にふさわしい活躍を書いています。ご興味があれば、ぜひそちらもお読みください。




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