第4話
大将軍シェーラは、すでに連合軍へ備えて万全の布陣を敷いていた。
迎撃用の砦の工事も終えている。
砦には二万の兵を待機させていた。
唯一の難点は、食料だった。
残念ながら、十分な量を確保できなかった。
理由は、南で飢饉に近い不作が起きていたからである。
本来なら軍へ回すはずだった食料を、南へ送ってきたのだ。
つまり、連合軍が長期戦を仕掛けてくれば、シルバー王国軍は負ける。
その事実を知っているのは、大将軍シェーラと、そばに控える数名の幕僚だけだった。
幕僚の一人が、恐る恐る尋ねる。
「食料の件は、どうなさるのですか?」
すると別の幕僚が顔色を変えた。
「無論、王国に援助を求めるに決まっているだろう!そのようなことは言われずとも察して動くべきだ!」
問いかけた幕僚は、青ざめて頭を下げる。
「そ、そうでございました。申し訳ございません」
そして慌てて王都への使いを出そうとした、その時だった。
シェーラが止めた。
「その件は無用です。この私が直々に伝えます。そなたたちは、食料救援の使いを出さなくてよい」
その言葉に、幕僚たちは怪訝な顔をした。
どう考えても、食料がなければ軍は持たない。
今、目の前にいる敵は自軍の三倍以上。
広い平野で野戦を仕掛けることはできない。
平野では、兵数差がそのまま響く。
だから、この砦で迎え撃つしかない。
そうなれば食料は必須だ。
そんなことを、目の前の大将軍が分からないはずがない。
幕僚たちはいろいろ考えた。
だが最終的には、やはりシェーラへの信頼が勝った。
その空気を見て取ったシェーラは、伝令兵を呼んだ。
「今からシルバー王国の国王陛下へ報告を送ります。私の言葉を、そのままお伝えなさい」
「敵軍は我らより兵数こそ多いが、砦は堅固であり、食料も半年以上は持つほど備蓄がある。安心召されよ――以上です」
その命を受けた伝令兵は、「ははっ」とだけ答え、王都へ向けて駆け出した。
だが、それよりも驚いていたのは幕僚たちだ。
食料が十分にあるというのは、明らかな虚偽だった。
だがそれでも、誰も問いたださない。
大将軍シェーラに任せておけば、必ず何かある。
そう信じていたからである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一方、ノーボバリナ王国、ユーハチサ王国、フネニアス王国、ダリア王国の連合軍では、各国王と重臣たちが集まっていた。
兵は各国から出している。
そしてそのうえで、連合軍全体をまとめる総指揮官がいた。
その者へ、ノーボバリナ王国の国王が問う。
「本当に勝てるのか?」
「ご安心ください、国王陛下。そして各国の将軍方」
「勝利は目前です。シルバー王国の威信は、目の前の軍とともに消え去ることでしょう」
澄ました顔でそう言うこの男こそ、今回の連合軍をまとめ上げた立役者であり、最高指揮官でもある。
名をセダム。
エルフ族であり、人族よりはるかに長命である。
その長命を活かし、彼は100年にわたって大将軍シェーラの戦い方を研究してきたのだ。
そして各国へこう言って回った。
「自分なら、大将軍シェーラに勝てる」
その言葉で各国を説き伏せ、今回の連合軍を作り上げたのである。
「ご承知の通り、私セダムは長命でございます」
「ゆえに、大将軍シェーラの戦い方を100年、つぶさに見て研究してまいりました」
「そして今回は、決して負けぬための策も施してございます。しかも、30年前から」
その言葉に、各国の国王と将軍たちは息を呑んだ。
そこまで準備してきたならば、今度こそあの常勝無敗の大将軍シェーラを倒せるのではないか。
そう思わせるだけの説得力があった。
周囲の信頼が高まったのを見て、セダムはさらに続ける。
ちょうどその時、密使が新たな報告を運んできた。
彼はそれを広げ、にやりと笑う。
「ほら、こうしている間にも、私がシルバー王国へ潜り込ませたスパイから情報が入ってきます」
「どれどれ・・・・ふむ。シルバー王国軍の兵数は二万。ふはは。我らの三分の一以下でございますな」
「・・・・しかし、食料の備蓄は半年分以上ある、か」
セダムはそこで眉を寄せた。
「残念ながら、我が方はそこまでの余力はありません。無理に攻めづらい砦を攻めても、被害が広がるばかり」
「これは、少し考えねばなりませんな」
彼は焦りを覚えていた。
食料については、こちらも手を打ったはずだった。
南が不作に見舞われた時、南の領主たちへ“シルバー王国はお前たちを見捨てるのではないか”と煽った。
案の定、シルバー王国は大量の食料を南へ回したと聞いている。
さらに、国境の砦は老朽化し、兵もすぐには集められないとスパイから報告が来ていたはずだ。
それなのに――現実には、砦は堅く見え、二万もの兵が集結している。
戦略に、少しずつほころびが見え始めていた。
それでもセダムは考え直す。
相手は、あの大将軍シェーラなのだ。
多少の誤差はあって当然。
何よりこちらには、敵中にスパイがいる。
まだ優位は揺らいでいない。
そう思い直した矢先、新たな報告が届いた。
今度こそ、勝利につながる情報であれ――そう思いながら紙を開いた彼は、次の瞬間、顔色を変えた。
「こ、これは・・・・!!本当か!?本当なら、勝てる!!」
「シルバー王国軍と大将軍シェーラに、勝てるぞ!!」




