第3話
ついに、周辺諸国がシルバー王国へ大きな危機感を抱き、国力のある複数の国が連合して攻めてくるという事態が起きた。
シルバー王国が掲げる「貴族の横暴を認めない」という思想に、周辺国の貴族たちが激怒
したのである。
このようなことはいずれ起きるだろうと、大将軍シェーラは以前から予測していた。
ただ、これまでは瘴気から発生する魔物の被害や、気象不順による不作などで、戦争を仕掛ける条件が整っていなかったのだ。
ところがここ数年、魔物の発生は落ち着き、天候も良好だった。
貴族たちが長年望んでいた、対シルバー王国戦争の条件が、ついにそろってしまったのである。
そして、その怒りに各王国の国王たちも同意していた。
一国ではなく複数国家の連合を成立させるには、優れた政治力を持つ外交官が必要だ。だが、そういう人物もいた。
こうして、
ノーボバリナ王国
ユーハチサ王国
フネニアス王国
ダリア王国
この四か国による軍事同盟と連合軍が結成された。
総勢、六万超。
その報告を聞き、シルバー王国の大臣たちはしばらく悲鳴しか上げられなかった。
ようやく騒ぎが落ち着いた頃、国王が政務大臣へ尋ねた。
「政務大臣。このシルバー王国が動かせる軍は、何人ほどなのだ?」
国王は四十を超えてなお若々しく、その美貌も衰えていない。
だが今はさすがに顔色が悪い。
問いを受けた政務大臣は、国王の幼なじみでもあり、長年側近として政治に携わってきた優秀な男だ。
だが、その顔も青ざめていた。
「陛下。正直に申し上げれば、傘下のポインセチア王国の支援を受けても三万が限界かと」
それを聞いた国王は、ぐったりと王座にもたれかかった。
「三万・・・・半数以下か」
「しかもそれは、傘下の国の兵まで合わせた数なのだろう?」
さらに顔色を失う国王に、軍務卿が口を開いた。
「陛下。国境沿いの守備兵からも兵を回せば、もう少し増やせまする」
「徴兵した兵を砦に集めて迎撃すれば、すぐに王国が滅ぶようなことはありますまい」
皆を安心させようとした発言だったが、政務大臣がすぐさま切って捨てた。
「いや、軍務卿。その方も知っての通り、国境の砦は使い物にならぬ」
「それに仮に砦へ兵を集めても、連合軍が複数に分かれて侵入してきたら迎撃しきれぬぞ」
そう。
シルバー王国は、これまで組み込んできた諸国をそのまま領土にした結果、国土が広くなりすぎていた。
防衛には不向きな形だったのだ。
連合軍はまさにそこを突いてきた。
軍務卿は悲壮な顔で言う。
「陛下。ここは大英断をもって、降伏も選択肢として考慮すべきでは・・・・」
国王の眉がぴくりと動いた。
「降伏?」
その言葉に、政務大臣が激しく反応した。
「馬鹿な!!まだ一戦もしていないうちから、どうして降伏など!!」
「到底認められぬ!!それに、我が国には大将軍シェーラ様がいるのだぞ!!」
国王も力強くうなずいた。
「その通りだ」
「そもそもこの事態に対応する戦略を考えるのが、そなたの役目ではないのか」
軍務卿は困ったような顔をした。
「そうは言いましても・・・・私は軍務卿とはいえ、実質、軍部全体は大将軍シェーラ様がすべて取り仕切っておられます」
「私など、とても口を挟めませぬ」
「それに、さきほどの降伏案も、あくまで選択肢の一つとして申し上げただけでございますれば」
そう言われると、国王も政務大臣も反論しづらい。
空気を変えるように国王は話題を変えた。
「して、大将軍シェーラ殿は今どちらにおられるのだ?」
「まさか、この国家存亡の一大事をまだご存じないのではあるまいな」
政務大臣がすぐ答える。
「いえ。大将軍シェーラ様には、すでに早馬を出して知らせてございます」
「お忘れですか、陛下。大将軍シェーラ様は南の領地へ向かっておられます」
それを聞いて国王は思い出した。
南で、飢饉に近い不作が起きていた。
そのため、南を治める領主たちが国への不満を募らせていたのだ。
シェーラはすぐに支援物資を手配し、自ら南へ赴いていたのである。
「こんな時に限って・・・・」
国王がこぼすと、政務大臣が低く言った。
「いえ、むしろこの時を狙われたのかもしれません」
「いや・・・・南の領主たちの不満そのものが、連合軍側の策略だった可能性すらあります」
「本来なら、あそこまで不満が爆発するほどではなかったように思えるのです。今になって考えれば、少し違和感があります」
軍務卿は、その頭の回転の速さに内心舌を巻いた。
とはいえ、すぐに口を挟む。
「いや、そのようなことはありますまい。南の貴族たちは、以前から王国側の扱いに耐えてきたようでございます」
「積もり積もった不満があったのかもしれぬと、大将軍シェーラ様もおっしゃっていましたし」
それを聞いた国王は、途端に表情を緩めた。
「なるほど、そうであったか。大将軍シェーラ殿にはいつも迷惑をかける」
「本当に、あの方がいてくださってよかった」
国王はいつもそうだ。
大将軍シェーラの話になると、思考を止めて褒めることしかしなくなる」
軍務卿はそう見ていた。
政務大臣が話を戻す。
「しかし、このままではどうする?国境を破られるのも時間の問題だぞ。軍務卿、何か策はないのか?」
軍務卿は「早速作戦を考えて参ります」と言ってその場を離れた。
だが、その顔には、明らかな嘲りの笑みが浮かんでいた。




