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大将軍、シルバー王国を護る~常勝の理由は剣にあらず    第1話

「勇者の聖戦」から259年後



シルバー王国。


かつてシルバーナ男爵領だった時代から、ずっと変わらず、シェラ――大将軍シェーラが領政を取り仕切ってきた。


男爵領から公爵領へ。


さらに公国として独立し、今ではついに王国へと成り上がった。


王国の内部では、初代スレート・シルバーナ男爵以来の悲願である、孤児や弱者に優しい国づくりが進められている。


食料、生産、税の徴収。


それらを円滑に回しながら、民が少しでも生きやすい国にするため、大将軍シェーラは長年にわたって心を砕いてきたのだ。


そして何より――戦争に勝ち続けたこと。


戦えば必ず勝つ。


それがシルバー王国軍だった。


国民は王国軍を必勝軍と呼び、それを率いる大将軍シェーラを常勝無敗と称えた。


近隣諸国にとっては、畏怖の対象である。


シルバー王国は建国以来、250年以上にわたり周辺諸国をねじ伏せてきた。


とはいえ、領土拡張そのものが目的ではない。


あくまで、無理な政策を民へ押しつけたり、貴族が平民に無体な真似をしたりするのを止めるためである。


その結果として、いくつもの国が滅び、シルバー王国へ組み込まれていった。


その様子を見た周辺諸国の中には、シルバー王国と戦っても勝てないと判断し、自国の政策を見直し、貴族に対して平民への態度を改めるよう命じる国も現れ始めていた。


シルバー王国と大将軍シェーラは、そうした変化をきちんと把握している。


そして、そのように態度を改めた国とは、同盟を結ぶ形で交流を続けることにしていた。


一方で、そうではない国にも安易に戦争は仕掛けない。


シルバー王国軍の圧力を背景にしつつ、外交で従属国にするなど、近年は極力戦争を回避する方針を取っている。


この先、シルバー王国が目指す体制は、複数の国と結びつく連合王国だ。


いくつもの国を傘下に置き、経済圏を築いていく。


少し離れた地域では、似たような政策を取る魔法国家プラチナ王国も存在する。


あちらもまた、周辺国を傘下に収めつつあるらしい。


王国へ放った諜報員からは、プラチナ王国はいずれ帝政を敷くのではないか、という報告も届いていた。


だが、シルバー王国は違う。


傘下の国が増えても、プラチナ王国のように序列を明確にして優劣をつけるつもりはなかった。


あくまで相互に、軍事と経済の両面で助け合う体制を作りたい。


それが大将軍シェーラの考えだった。


さらに彼女は、将来的に立憲君主制への移行も見据えていた。


国王は君臨する。


だが、政治には深く関わらせない。


それは、王族を見捨てるためではない。


むしろ、王族という仕組みを長く残すために考えた体制だった。


この世に永遠に続くものはない。


とくに国や王族など、いずれ滅びる運命にある。


だが、立憲君主制であれば、政治責任のすべてを王族が背負わずに済む。


最悪でも、王族そのものの断絶は避けられるかもしれない。


もちろん、今すぐ移行するつもりはない。


200年、300年という長い時間をかけて、ゆるやかに変えていくつもりでいる。


そして今日もまた、王族への教育の時間が始まる。


今日は剣術を教える日だった。


大将軍シェーラは、いつも通り黒い布で顔を隠している。


素顔を見せないためだ。


それでもシルバー王国の王族たちは、その姿を不気味がるどころか、むしろ慕っていた。


目をきらきらさせながら、大将軍シェーラから一本取ろうと挑んでくる。


今、教えを受けているのは三人。


15歳の王太子。


13歳の王太子の弟。


それに20歳の、現国王の弟。


訓練の方式は昔から同じだ。


三人同時にかかり、大将軍シェーラの身体に少しでも木剣がかすれば勝ち。


勝てば、黒い布を取り、素顔を見せる。


その約束が交わされてから、もう5年になる。


最初に言い出したのは、今の王太子だった。


10歳の頃の彼は、この国の英雄から剣術を教わるだけでは飽き足らず、その素顔が見たいと願ったのだ。


その場で顔を真っ青にしたのは、王太子の父である国王だった。


だが、大将軍シェーラはあっさりと受け入えた。


「一本取れれば、見せましょう」


それ以来、王太子の弟も、国王の弟も参戦し、三人がかりで必死に一本を狙うようになった。


おかげで、この5年で三人の剣の腕は飛躍的に上がった。


今や王国の近衛騎士たちよりも上だろう。


それでも、大将軍シェーラにはまったく届かない。


むしろ、剣の腕が上がれば上がるほど分かるのだ。


自分たちと彼女の間にある、とてつもない差が。


そして数年が過ぎた。


もう三人とも、剣術の初歩を学ぶ年齢ではない。


この教育の時間も終わりを迎える。


素顔を見せるという約束も、ここで時間切れだ。


「ふふふ。長く剣術を見てまいりましたが、今日この時をもって、剣術の稽古は卒業でございますよ。王太子殿下?」


大将軍シェーラは軽やかにそう告げた。


だが王太子は、その言葉を無視して必死に剣を突き出す。


結果は、やはり同じだった。


「くっそううう!!」


悔しがる王太子を横目に、大将軍シェーラはそのまま稽古場を後にした。


その場にいた国王は、そっと息子に近づいて言う。


「余もな、昔、大将軍シェーラ殿に同じことを申したことがあるのだよ」


「結果は、今の其方と変わらなかったがな」


どこか懐かしむような、少し物悲しげな顔だった。


国王は、その時から婚約者を探し始めたという。


そして今の王太子もまた、大将軍シェーラの素顔を見ることを諦め、婚約者を探し始めたらしい。


どちらも、もし素顔を見られたなら、大将軍シェーラへ求婚するつもりだったのだ。


どの時代の王族も、大将軍シェーラに恋焦がれる。


そして、どうしても手が届かないと知ってから、ようやく婚約者を探し始めるのである。


そんな国王と王太子の様子を、王妃――現国王の正妃であり、王太子の母でもある女性が、どこか慈しむような眼差しで見つめていた。


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