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クラレット編エピソード5  違法摘発をします。地下室のことは、できれば聞かないでください    第1話

「勇者の聖戦」から231年後


冒険者ギルドに、新しい依頼が届いた。


しかも、Sランク冒険者としてぼくに直接出向いてほしいという。


そう、冒険者ギルド本部の総代表から告げられた。


内容は、現地へ着いてから伝える極秘任務。


まさに、国を相手にする種類の依頼だった。


Sランクの依頼には、こういう手合いが多い。


ただ今回、少しばかり事情が違った。


向かう先の国が、ぼくにとって因縁の深い国だったからだ。


もちろん、断る気はない。


ただ、少しだけ気が重かった。


その国の名は――神聖ゴールド聖教国。


今でこそ、シルバー王国やプラチナ王国と並ぶ大国の一つだが、もともとはぼくが貴族として仕え、主君として仰いでいた国でもある。


また、200年以上前に起きた勇者の聖戦では、勇者の認定式を執り行い、勇者への支援も積極的に行った国だ。


勇者の聖戦後は、創造神を祀る聖教会の教皇という役職まで、この神聖ゴールド聖教国の国王が兼ねるようになった。


政治と宗教、その両面で中央平原最大級の影響力を持つに至った国である。


そして――かつて、ぼくがそこの王太子だったという、厄介な因縁もある。


いまはその地位を捨て、冒険者として生きている。


それでも、この国にはいろいろと思うところがあるのだ。


勇者の聖戦のころは、ぼくもそれなりに働いたつもりでいる。


とはいえ、あれから200年以上。


今さら人族でぼくを覚えている者はいないだろう。


ただし、人族以外の種族も多く住むこの国では、いまだにぼくを知る者がいる。


だから少し面倒なのだ。


依頼の内容も、この国に来てからでなければ伝えられないと言われている以上、行かないわけにはいかない。


ぼくは覚悟を決め、神聖ゴールド聖教国へ向かうことにした。


当時はまだゴールド王国と呼ばれていたが、国を出てから200年以上が経っている。


そういえば、勇者の聖戦が終わってすぐ、ぼくはあの国を出奔したのだった。


王太子ではあったけれど、神聖ゴールド聖教国に長く滞在していたわけではない。


だから、故郷という感傷はない。


むしろ、この国の名を聞くたびに、ぽつぽつと別の思い出が浮かぶのだ。


嬉しかったこと。


そうではなかったこと。


孤児だった自分に、実は親がいたと知ったこと。


幼なじみが勇者の認定式を受け、祝福されたこと。


故郷ウィスタリア聖教国に魔物が襲い、その危機をホワイトが命を捨てて食い止めたと聞いたこと。


そして、ホワイトが――


・・・・やめよう。


やはり思い出の大半は、ホワイトに関わることばかりだ。


何度も忘れようと思った。


思い出さないようにしてきたつもりだ。


ぼくは過去に引きずられそうになる気持ちを押し込みながら、神聖ゴールド聖教国の首都へ入り、指定された場所――王城へ向かった。


そこでぼくを出迎えたのは、この国で最も大きな力を持つ人物といってもいい、大宰相ホーネント様だった。


大宰相ホーネント様。


神聖ゴールド聖教国の軍事、政治、外交、そのすべてを実質的に担っている方だ。


多種族から成るこの国の民から、絶大な信頼を得ている。


特に軍事面では、この国には「聖教六武威」と呼ばれる六人の将軍がいるが、その六武威にすら大きな影響力を及ぼしている。


この国で、この方が白と言えば、黒でも白になる。


それほどの存在だ。


そして、その大宰相ホーネント様が、ぼくに微笑んだ。


「お久しぶりでございますね。王太子クラレット殿下。・・・・くす」


「う・・・・お戯れを。ホーネント様。その名では、もう呼ばないでくださいませ」


「うふふ。少しからかってみただけよ。ごめんなさいね」


実は、大宰相ホーネントという名は表向きのものだ。


世を忍ぶ仮の姿。


その本当のお姿は、創造神様の隣に並ぶ存在。


そして、本当の名はホーネットという。


ぼくは創造神様の使徒だから、使徒だけは本名で呼ぶことを許されているのだ。


ホーネット様は、すぐに依頼の本題へ入った。


「実は、あなたに頼みたいのは、この神聖ゴールド聖教国内で起きている違法行為の調査なのです」


「それも、一つや二つではありません。奴隷売買、違法な魔術行使、違法賭博・・・・どうも、そのあたりが行われているようなのです」


そして、申し訳なさそうに目を伏せる。


「本当に恥ずかしい限りです。私の力が至らないばかりに、このような恥をお見せすることになってしまって・・・・」


そう言って、ホーネット様は頭を下げた。


「どうも我が国の貴族が関わっているらしく、私ですら容易に動けないの」


「だから、この国にしがらみのない一冒険者として、あなたに調べてほしいのです」


つまり、ぼくが外部の冒険者として証拠をつかみ、報告すれば、国として正式に動けるということらしい。


ホーネット様はさらに言った。


「それに、人族以外の種族が被害者になっているようなの」


「面倒ではあるけれど、どうか調査をお願いしたいわ」


人族以外――龍族、魔族、エルフ族、ドワーフ、獣人族。


この国ではさまざまな種族が共に暮らしている。


その誰かが被害を受ければ、種族間の対立に発展し、下手をすれば戦争になる。


事は思った以上に重大だった。


ぼくは、慎重な調査を行うことを条件に、その依頼を引き受けた。


ホーネット様からは、調査すべき場所のおおよその見当も聞いている。


ぼくはさっそく、一つずつ潰していくことにした。


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