第4話
大聖女です。
・・・・あれから20年が経ちました。
ことの始まりは、一人の中級聖女がフクシア神教国の異変に気づいたことでした。
その聖女の名はエアニー。
かつてフクシア神教国へ派遣されたデイジーの、一人娘です。
あの後、デイジーは教会育ちの青年と結ばれ、幸せに暮らしました。
子宝にも恵まれたのです。
その一人娘エアニーは、二年前に聖処女神エリューシオン様から聖女と認められ、総本山で厳しい修行を積み、立派な中級聖女となって他国へ派遣されていました。
派遣先では蔑まれることもなく、聖女として歓迎され、人々へ癒しを与え続けていたそうです。
お世話をしてくれる侍女とも、きちんと信頼関係を築けていました。
そして、その侍女が仕入れてきた噂話から、隣国フクシア神教国の”異変”が耳に入ったのです。
エアニーは、母デイジーからフクシア神教国での出来事を聞いていたため、その国へ関心を持っていました。
そして、侍女から聞くうちに、どうもフクシア神教国の様子がおかしいと気づき、私へ報告してくれたのです。
そこでようやく、私は異変に気づきました。
――あの時以来。
大地の聖女の活躍により国王から「聖女は必要ない」と言われて以降、フクシア神教国への聖女派遣はずっと止めていました。
派遣要請も来なかった。
ただ、アマランス公爵家だけは何度も教会へ派遣を求めてきていました。
ですがエリューシオン様から「無視して構わない」とお許しを得ていたため、この20年間、何もしなかったのです。
そして私は、これを自分の失態だと思いました。
私がもう少し気にかけていれば。
もっと早く異変に気づけたはずです。
そうすれば、ここまで深刻な状態にはならなかったかもしれない。
私は責任を感じ、自らフクシア神教国へ出向くことにしました。
もちろん、異変をこの目で確かめるためでもあります。
入国してすぐに気づいたのは、国民たちの疲れ切った表情でした。
顔色が悪いだけではありません。
足取りまで重い。
もともとこの国の国民は聖属性が高いはず。
ここまで生気が失われるのは、やはり異常です。
そう思っていた時、目の前へ一人の女性が現れました。
白いローブに身を包み、清らかな雰囲気をまとっている。
おそらく、今代の大地の聖女でしょう。
その女性はにっこり笑って挨拶しました。
「大聖女様、お久しぶりでございます」
「噂どおり、本当にお歳を召さないのですね。あの頃と変わらぬ黒髪に黒い瞳、大変お美しいままで」
「私は、今代の“大地の聖女”を務めております。どうぞお見知りおきを」
「・・・・なお、あの時の大地の聖女であった王女様は、すでに亡くなられました」
私はその言葉に、強い衝撃を受けました。
やはり。
あの王女は死んでいたのです。
「王女様がいつ亡くなられたか、知りたいというお顔をなさっていますわね。お教えいたします」
「王女様が亡くなられたのは、大聖女様が国を出られてから、たった1年後でしたわ」
たった1年後。
「ええ。たった1年しか持たなかったのです」
「後を継いだ大地の聖女様も、その後を引き継ぎました。ですが皆、すぐに生気を失って命を落とされていきました。まるで・・・・」
「まるで、生命力と引き換えに癒しの力を得ているようでした」
彼女は唇を噛みながら続けます。
「大聖女様が出て行かれてから、約三十人もの方がお役目を引き継ぎ、そして皆、命を落としました」
「この20年で三十人です。つまり、1年に一人も持っていないのです」
私は衝撃で、めまいを覚えるほどでした。
「そして先日、私が今代の大地の聖女に任命されました」
「そのおかげで、これまでの方々がなぜ命を落としたのか、理由が分かったのです」
「王女様の代から、この魔道具を受け継いでいたのですが・・・・」
そう言って、彼女は指輪を見せました。
たしかにただの指輪ではありません。
魔力だけではない、禍々しい気配がある。
「おそらくこれが、原因かと」
「このようなものを使ってきた理由は・・・・ただ、聖女に負けたくない。それだけなのでしょう」
「ですが私は、そこまでして“大地の聖女”の名を守る必要はないと考えております」
そして彼女は、私をまっすぐ見ました。
「20年前、私は不治の病にかかっておりました。家族からも、大地の聖女からも見捨てられていました」
「ですが、そんな私を救ったのは、大聖女様が起こした奇跡でした」
「あの時から、私の中の“聖女”は、大聖女様だけなのです」
「幸運にも大地の聖女として後を継ぐことを許された私は、大聖女様をこの国に認めさせるために動こうと思っておりました」
「そのためにも、大聖女様に恥を忍んでお願いいたします」
「このままでは国民は皆、生気を抜かれて死んでしまうでしょう」
「私は、まだその原因を掴みきれておりません。どうか、原因を見つけ、この国を救ってください」
「どうか、昔の遺恨を水に流し、この国をお救いくださいませ」
涙を流しながら頭を下げるその姿には、かつての王女がとった傲慢さはなく、人々を救いたいという必死さだけがあったのです。
それはまさしく、聖女を名乗るに相応しいものでした。




