第3話
大聖女です。
私は、デイジーからフクシア神教国で受けた仕打ちをすべて聞き、そのうえで彼女を慰めました。
その後、デイジーはどこの国にも派遣されることはありませんでした。
幼い頃から共に育った、教会育ちの青年と結婚し、幸せに暮らすことになったのです。
ですが――。
アマランス公爵家からは再び抗議が入りました。
もう一度、フクシア神教国へ聖女を派遣してほしい、と。
これ以上ほかの聖女へ嫌な思いをさせたくなかった私は、自分が出向くことに決めました。
大聖女である、この私が。
その頃、フクシア神教国では大きな流行病が広がっていました。
“大地の聖女”である王女は、必死に病人へ回復魔法をかけていましたが、効果が弱く、追いついていませんでした。
死者が出始めた頃、私はフクシア神教国へ到着したのです。
国王は事情を説明し、この流行病を治してほしいと私へ懇願しました。
私はその要請を受け入れ、王城の外へ出て病人たちを救おうとしたのですが――そこへ、大地の聖女が現れました。
「あなたが大聖女様でございますか?」
「ふん。大聖女なんていう大層な肩書を持つからには、このような病、一瞬で治せるのでしょうね」
挑発するような物言いでしたが、私は一瞥すらせず、さらりと答えました。
「その通り、一瞬で治せます」
「今からフクシア神教国全体を対象に回復魔法をかけ、国じゅうを一度に癒してしまいます。よく見ていてください」
そう言って私は魔力を練り上げ、静かに詠唱します。
「全体回復」
その瞬間、癒しの力がフクシア神教国全体へ行き渡りました。
流行病で苦しんでいた者はもちろん、少しの怪我や、長年の古傷に悩んでいた者まで、全員が一斉に癒されたのです。
国民たちは、大いに喜びました。
そして“大地の聖女”ではなく、新たな信仰対象を見るような目で、私を見るようになったのです。
国全体を一度に癒し、しかも古傷まで治す。
その奇跡を前にすれば、無理もありません。
ですが、それをよく思わない者がいました。
言うまでもなく、大地の聖女である王女です。
王城では、いくら侍従たちが王女の耳に入れないようにしても、私を讃える声がそこかしこに響きます。
「やっぱり本物の聖女様は違うなあ」
「大地の聖女様は、あれだからなあ」
「本物の聖女様の奇跡を見たら、今まで信じてきた大地の聖女様って何だったんだろうって思っちゃうよなあ」
そうした声は、王女の心を確実に傷つけていきました。
やがて王女は、私を追い落とすため、闇ギルドの甘い囁きに手を伸ばしてしまったのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大地の聖女であり、王女でもある私。
私は、目の前にある魔道具を暗い瞳で見つめていた。
「こうなったら仕方ないわね。闇ギルドの者たちから献上された魔道具を使うことにしましょう」
「あの者たちの条件を飲んででも、これ以上聖女の好きにはさせないわ」
その日から、私の回復魔法は急激に強くなっていきました。
私は国じゅうへ現れては人々を癒し、その力はついに“聖女”すら凌ぐものだと評されるようになりました。
もともとこの国には大地の聖女信仰が根づいていたのです。
評判がひっくり返るのも早かった。
ですが、その活躍とは裏腹に、私の体調は急激に悪化していきました。
「ぐふっ・・・・」
口からこみ上げる血を押さえながら、私は肩で息をしていました。
明らかに、この魔道具を使い始めてから体調がおかしい。
ですが、それも闇ギルドから聞かされていた通り。
今は、多少無理をしてでも評判を取り戻すべき時。
たとえ命を落とそうとも後悔はない。
そこまでの覚悟を持っていました。
私の目は、体調の悪さと引き換えに、異様な光を帯びていきました。
その魔道具は、生命力と引き換えに魔力を高める品。
闇ギルドの者は欠陥品だと言っていた。
ですが私は、それでもよいと借り受けたのです。
彼らは、ずいぶん昔にもクラウド王国で同じような魔道具による失敗をしていました。
その失敗を踏まえて改良された品もあるらしいのですが、今回はそれが手元になく、この欠陥品しかないと言っていた。
しかし、その時の私は、それでも構わないと思えたの。
目論見どおり、大地の聖女の評判は持ち直した。
国王はそれを見て、聖女の派遣はもう不要だと言い始めました。
やったわ!私の勝ちね。
大聖女を名乗るあの女は、その決定に異を唱えず、静かに国を去ったのよ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大聖女です。
急に、フクシア神教国の国王から、聖女の派遣をやめるので国へ帰るよう言われました。
私は何も言わず、その決定に従うことにしました。
ところが、私が帰った後も、アマランス公爵家は再び聖女を派遣してほしいと要請してきました。
ですが私は、公爵へこう伝えました。
「フクシア神教国の国民は“大地の聖女”を篤く信仰し、回復魔法による癒しも受けています」
「このうえ聖女を派遣する必要は感じられません」
アマランス公爵は、それ以上何も言い返せなかったのです。




