第2話
こんにちは。
大聖女です。
・・・・照れますね。
まだ、大聖女、と名乗るのは抵抗があります。
今日は、聖女デイジーのその後についてお話ししたいと思います。
デイジーは、しばらく教会でゆっくり過ごした後、次はフクシア神教国へ派遣されることになりました。
本当はもう派遣などさせず、総本山で穏やかに過ごしてもらおうと思っていたのです。あんな辛い目に遭ったのですから。
ですが、どうしてもと要請されまして。
その要請をしてきたのは、アマランス公爵家です。
アマランス公爵家は100年ほど前、侯爵子息と中級聖女の恋愛をきっかけに生まれた家。
現在の公爵夫人はフクシア神教国出身です。
どうやら夫人の意向が強かったようですね・・・・。
アマランス公爵家からは、エリューシオン教会へ少なくない支援をいただいています。
そのしがらみで、今回の要請を断り切れなかったのです。
・・・・はあ。お金って嫌ですわね。
フクシア神教国は、他国とは少し違う特徴を持っています。
国民の多くが聖属性の魔力を持ち、穏やかで思いやり深い国民性なのです。
これほど穏やかな国なら、デイジーももうあんな目には遭わないはず――そう押し切られたこともあり、派遣が決まりました。
この国は、勇者の聖戦以前にはゴールド王国にあった聖教会と長く対立してきた地域でもあります。
創造神への信仰は特に篤く、その原因の一つもまた、聖属性を持つ者が多かったからでした。
またこの国は、聖属性を持つ者が多く生まれるため、別名「聖女候補の生まれる国」とも呼ばれているそうです。
・・・・まさか、それがあのような形で問題になるとは、この時の私には思いもよりませんでした。
フクシア神教国へ派遣されたデイジーは、到着後、国を挙げて歓待されました。
ですがその中に、歓迎とは別の視線が混じっていたのです。
歓迎の宴の場で、一人の女性がデイジーの前へ現れ、こう言いました。
「はじめまして、聖女様。本物の聖女様にお会いできて光栄ですわ」
「ですが、このフクシア神教国には、聖女様の代わりに“大地の聖女”というものが存在しておりますのよ」
「果たしてどちらが本物の聖女様と言えるのか・・・・ふふ、楽しみですわね」
挑発的な言い方でした。
デイジーは、最初その意味が分からなかったそうです。
聖女とは、聖処女神エリューシオン様が認定した者だけを指すはず。
それ以外に本物も何もない。
けれどこの国では、そうではないらしい。
“大地の聖女”という存在がいて、国民の尊崇を集めている。
そう聞いたデイジーは、また厄介な国へ来てしまったものだと、内心ため息をついたそうです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
どうも、中級聖女デイジーです。
この国へ来てしばらく経ち、分かったことがあります。
フクシア神教国には“大地の聖女”と呼ばれる方がいて、国民から非常に篤く信仰されているということです。
その大地の聖女は、他の国民より少しだけ聖属性が強く、回復魔法も使えるようです。
ですが、その効果は中級聖女である私の回復魔法より、かなり落ちます。
にもかかわらず、大地の聖女は、200年以上前にこの国へ現れた“大地の勇者”を偲んで生み出された信仰の対象であり、国民の心の支えになっていることが分かりました。
私は、みなの信仰対象をあえて傷つける必要はないと考え、積極的には関わらないようにしていました。
ところが、向こうから絡んでくるのです。
特に今代の大地の聖女は王女でもあり、私が治療の場へ行くたびに姿を見せ、自分も回復魔法を使って張り合ってきます。
国民の皆さんは、明らかに私の回復魔法のほうに効果を感じている様子でした。
逆に、大地の聖女の回復魔法にはそこまでの効果を感じていない。
それでも、長年信仰されてきた存在であり、しかも王女です。
国民の皆さんは「同じくらい効く」と言うしかなかったのでしょう。
ある夜。
フクシア神教国の王城で、私をねぎらう夜会が開かれました。
その場でも王女は私へ突っかかってきたのです。
「ねえ聖女様。皆は聖女様が聖女様がと言うけれど、回復魔法の効果だって私と変わらないし、地位も美貌も私のほうが上よね」
「本当に、あなたに聖女としての価値があるのかしら?」
私はため息を飲み込み、静かに返しました。
「王女様は、一体何をおっしゃりたいのでしょうか」
すると王女は笑って言いました。
「いやねえ。別に深い意味はありませんの」
「でもね、この“大地の聖女”という称号は、ただの称号ではないの」
「200年以上前、この国の片隅にあるウェッジの村で“大地の勇者パウダー様”がお生まれになったと伝えられているの」
「そして、その勇者様を手助けしたと謳われているのが“聖女ケイト様”」
「この方こそが、大地の聖女の始まりだと言われているわ」
「聖女ケイト様は慈悲深く、慈愛の心で勇者様を助けたと伝えられているの」
「私も、そのような聖女ケイト様を目標にしておりますわ」
「あなたには、そういう高尚なお気持ちがあるのかしら?」
どう答えれば、これ以上面倒にならずに済むか。
少し考えてから、私は正直に答えました。
「あるかと言われれば、そのような高尚なお気持ちはないかもしれません」
「私たち聖女は、敬愛する大聖女様から、ただただ聖処女神エリューシオン様に感謝し、求める方へ癒しを与えなさいと教わってきただけですから」
それを聞いた王女は、鼻で笑いました。
「ハンッ。そのような低俗な志では、この国にはふさわしくありませんわ」
「どうかご自分から身を引き、この国を出て行ってくださらない?」
その言葉を聞いた時、私は思いました。
――もう、いいか。
「・・・・それがお望みなら、そういたします」
「いままで、大変ご迷惑をおかけいたしました」
この夜会を境に、私はフクシア神教国を出ることに決めました。
国王からは引き止められましたが、
「この国の“大地の聖女”とおっしゃる方から、聖女は必要ないと言われましたので」
と答えると、黙ってしまうのです。
これではどうにもなりません。
私は諦めて、プラチナ王国へ戻ることにしました。




