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ラベンダー編エピソード3 婚約していないのに破棄されました。そのうえ、国を出ていけと言われました。一体、聖女を何だと思っているの?  第

「勇者の聖戦」から213年後


『黒髪の聖女』でもあり『大聖女』でもある私は、今日もエリューシオン教会で、聖女たちの指導にあたっています。


見習い聖女を厳しく鍛え、一定以上の水準に達したと判断すれば「中級聖女」の資格を与え、各国へ派遣することがあります。


いわゆる「聖女の派遣」ですね。


聖女はどこの国も欲しがっているようですが、どこへ派遣するかは、所属先であるプラチナ王国の最高指導者――大魔導士イオニーア様と相談して決めています。


俗な言い方をすれば、「聖女の派遣」もまた政治的取引のカードなのです。


もちろん、私も、大魔導士イオニーア様も、聖女を認定なさる聖処女神エリューシオン様も、すべて承知の上で行っていることですので問題はありません。


今回の話し合いでは、先ほど中級聖女へ昇格したばかりの聖女デイジーを、グレープ王国へ派遣することになりました。


少し遠い国ではありますが、デイジーには聖女としての務めを立派に果たしてほしいと思います。


頑張り屋で、民への思いやりもある子です。


きっと皆から愛されることでしょう。


「頑張ってくるのですよ。デイジー」


私はエリューシオン教会総本山の正式な場で、聖女デイジーを呼び、派遣を告げました。


デイジーは私の目をまっすぐ見つめ、


「はい」


と、はっきり返事をしたのです。


それから1年後。


聖処女神エリューシオン様から、私に緊急の指示が届きました。


――至急、グレープ王国へ向かいなさい。


理由は分かりません。


ですが私は、すぐにグレープ王国へ向かうことにしたのです。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


グレープ王国、王宮の大広間。


王太子が、聖女デイジーを前に高らかに宣言した。


「聖女デイジー、お前との婚約は破棄する!!ここに集まる貴族たちがその証人となるだろう!」


「お前のような傲慢な女が聖女などと、よく言えたものだ。将来の王太子妃になるなど、想像するだけでおぞましい」

「だが、私も鬼ではない。私の怪我を癒す専属聖女になると誓うなら、妾として側に置いてやらんでもないぞ」


とんでもない暴言だった。


それを聞いた聖女デイジーは、小さくため息をつき、冷静に言い返した。


「以前にも申し上げましたが、聖女とは王族だけを癒す存在ではございません。重い傷を負った者に、広く癒しを与える存在です」


「また、私はあなた様との婚約をお受けした覚えもございません」


「勝手に婚約したことにされ、勝手に破棄されるなど・・・・聖女を軽んじておられるのですか?」


その言葉に、王太子は顔を真っ赤にした。


「うぐぐぐ・・・・そ、その言い方が気に食わん!!」


「俺は王太子だ!!父上である国王が今いない以上、この国で一番偉いのは俺だ!いずれ国王にもなる!」


「そんな俺の言うことが聞けないのか!!」


そしてとうとう叫ぶ。


「お前のようなものを我が国に置いておけるか!今この時をもって国外追放だ!!さっさと出ていけ!!」


勝手に婚約をでっち上げ、勝手に婚約破棄を宣言し、そのうえ国外追放。


ひどい話です。


しかも周囲の貴族たちは、誰一人として王太子を咎めようとはしません。


聖女デイジーをかばうこともなく、むしろ嘲笑している始末でした。


つまり、この国では王族も貴族も、聖女を完全に見下していたのです。


それだけ、聖女が王族や貴族に回復魔法をかけることが当たり前になり、奉仕する存在としか見られていなかったのでしょう。


デイジーはしばらくその場に立ち尽くしていましたが、やがて近衛騎士が近づき、彼女を国外へ連行しようとした――その時です。


「何ですか、この騒ぎは!!」


待ったをかけたのは、エリューシオン教会の頂点に立つ大聖女――つまり私でした。


少し前から転移魔法で王宮に入り、この一部始終を見ていたのです。


「王太子たるものが、勝手に聖女へ婚約をでっち上げたうえ、婚約破棄に国外追放ですか?」


「聖女の扱いに関する権限は、すべてエリューシオン教会にあります」


「それを承知の上で、聖女へこのような仕打ちをなさるのですね?」


「では、この国はエリューシオン教会へ敵対する、そう認識してよろしいのですね?」


私が厳しく問うと、王太子はたじろいだ。


「そ、それは困る!それに、困っている者に救いを与えるのがお前たち聖女の務めだろう!?」


「困っている方がいれば癒しを与えることに異論はありません」


「ですが、それを盾に聖女の扱いをおとしめるのは本末転倒ではありませんか?」


私はきっぱり告げた。


「このような国に、大切な聖女を置いておくわけにはいきません」


「デイジーは教会へ連れて帰ります」


「そして今後、この国へ二度と聖女が派遣されると思わないでください!!」


すると王太子は逆上した。


「うおおおお!!生意気を言うなぁ!!教会などへ帰らせるか!!」


「この城に閉じ込めて、一生俺の治癒をさせてやる!!」


そう叫び、王太子は魔力を練り上げ、強力な氷属性魔法を放った。


もともと王太子に、ここまでの魔法を撃てるだけの力はありません。


彼は魔力を増幅する禁断の魔道具を身につけていたのです。


この魔道具は、闇ギルドが作成したものでした。


かつて200年以上前、クラウド王国でも惨劇を引き起こした類の魔道具です。


当時の品は生命力を削る欠陥品でしたが、長い年月をかけて改良されていました。


もっとも――生命力を削らない代わりに、欲望を肥大化させる副作用を持つようになっていたのですけれど。


改良と呼べるかは微妙ですが、少なくとも使い続けても死にはしなくなった。


その副作用によって、王太子の聖女に対する歪んだ欲望も膨れ上がっていたのでしょう。


放たれた強大な氷魔法は、しかし、私の張った防御結界にあっさり弾かれました。


たとえ王太子の魔力が増幅されていようと、私との格が違いすぎたのです。


「もう安心ですよ、デイジー」


「いままで、よく頑張りましたね。聖処女神エリューシオン様は、あなたの働きをきちんと見ておられましたよ」


「さあ、教会へ帰りましょう」


そう言って私は転移魔法を発動し、デイジーを連れてその場を去りました。


その後、私の宣言通り、グレープ王国に二度と聖女が派遣されることはありませんでした。


もともと聖女頼みで、医療技術が大きく遅れていた国です。


病が流行ると、貴族も平民も関係なく多くの人が死にました。


それが原因で国力は大きく落ち、のちにその責任を問われた王太子は、国王によって廃嫡され、平民へ落とされて町へ追放されたそうです。


しかし「この男のせいで聖女が来なくなった」と国中に知れ渡っていたため、元王太子はすぐに民衆に叩き殺されたと聞きました。


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