第3話
ぼくはすぐに、エリーの願いを受けてアリーたちのもとへ向かった。
彼女たちの錬金工房は、大きく立派で、遠くからでもよく目立った。
中へ入ると、数人の錬金術師が大きな釜を囲んでいた。
だが、誰もこちらを見ようとしない。
それほどまでに作業へ没頭しているのだ。
中心で指揮を取っているのは、やはりアリーだった。
「これでどう?・・・・うーん、やっぱり駄目ね」
「・・・・この方法じゃないということか」
アリーの手には、強い魔力を帯びた魔道具がある。
だが、その程度では彼女を満足させられないらしい。
そして、ぼくが見た限り――アリーの生命力は、以前よりずいぶん減っていた。
体から感じる生気が薄い。
相当無茶をしている。
そう確信したぼくは、彼女を説得することにした。
だが、結論から言えば、止めることはできなかった。
アリーは冷たい口調で言った。
「そうおっしゃいますがね、赤髪の騎士様。私は私一人のためにやっているのではありません」
「錬金術師全体の未来のために、命を削っているんです」
「その崇高な使命に、部外者であるあなたが水を差さないでください」
そしてさらに、言葉を強める。
「そもそもあなたに、私たちのような“持たざる者”の気持ちなど分かるはずがないでしょう?」
「不老のような、人族の叶わぬ夢を持っているあなたに――私たちを止める権利などありません!!」
ぼくは、それ以上何も言えなかった。
だがアリーを見て、一つだけ気づいたことがあった。
念のため、伝えておく。
「それでも・・・・そんな無茶をしていては、お腹の新しい命が失われるかもしれません」
「どうか、ご自愛ください」
その瞬間、工房の空気が静まり返った。
「え・・・・?」
アリーは呆然と、自分のお腹に手を当てる。
そして、その隣にいた男性が、彼女を支えるようにそっと肩へ手を回した。
その顔には、喜びが浮かんでいた。
「アリー・・・・僕たちに、子供ができたのかい」
アリーの周りには、彼女を気遣う人がちゃんといる。
ならば、きっとどんなことがあっても守ってくれるだろう。
ぼくはそう信じることにした。
それから10年後。
ぼくは、友人ともいえる錬金術師エリーの家へ向かった。
この十年で、錬金術師ギルドにはさまざまな事件が起きた。
中でも最大のものは、錬金術師たちの作った新型魔法薬を使ったある国の王族が死んだことだろう。
この事件で、その薬を作った錬金術師たちだけでなく、ギルド全体が大きな打撃を受けてしまった。
その時のぼくは、冒険者ギルドの依頼で遠方にいた。
だからアリーたちを守れなかった。
そのことに、ずっと罪悪感があった。
エリーに会いに行けなかったのも、そのためだった。
久しぶりに再会したエリーは、以前と変わらぬ笑顔で迎えてくれた。
だが、頬はこけ、身体は病人のようにやつれていた。
エリーは静かに語る。
「妹のアリーたちは、不運が重なったんです」
「あの問題の新型魔法薬も、アリーたちはまだ未完成だから使うなって、ちゃんと止めたんです」
「でも、あの国の王子は暴力を振るって、無理やり薬を奪って飲んだんです」
「そして、結果として魔力が暴走して死んでしまった・・・・」
「なのに、あの国の人たちは、その責任を全部、私たち錬金術師に押しつけてきたんです」
「アリーは・・・・犯罪者として処刑されました」
エリーの声には、悔しさがにじんでいた。
優しい彼女だからこそ、妹の代わりに怒っているのだろう。
ぼくは、錬金術師たちのために何かできないかと思い、再び、昔二人と出会った採集場所へ向かった。
もし困っている錬金術師がいたら、どんな小さなことでも助けたい。
そんな思いだった。
だが幸いにも、そこには困っている錬金術師はいなかった。
・・・・そんな都合よくいるわけないか。
そう自嘲しながら帰ろうとした、その時だった。
一人の少女が、うずくまっているのが見えた。
今にも泣き出しそうな顔をしている。
その姿を見た瞬間、ぼくは昔のエリーとアリーを思い出した。
やはり、その少女も錬金術師だった。
名をエリアルという。
話を聞くと、錬金術師としてのランクが低くて素材を集められず、自分でここへ来たが、魔物が強すぎて帰れなくなってしまったらしい。
・・・・どこかで聞いたような話だ。
ぼくはすぐにその少女を連れて、エリーのもとへ向かった。
事情を話し、この子を預かってもらえないか相談する。
エリーも、その夫も、少女エリアル本人も驚いていた。
だが最終的には、三人とも納得してくれた。
エリアルは親のことを聞かれたくない様子だった。
帰る場所もないようだった。
エリーはもともと母性が強く、子供好きな女性だ。
けれど彼女自身には、子供は授からなかったらしい。
そして何より、エリアルはどこかアリーに似ていた。
そのこともあって、エリーは受け入れる決意をしたのだという。
ぼくもまた、あの場であのような形でエリアルと出会ったことに、運命のようなものを感じていた。
だから、彼女をエリーのもとへ連れて行ったのだ。
その後の三人――エリー、エリーの夫、そしてエリアルは、本当の親子のように仲睦まじく暮らしていった。
後で聞いた話では、とくにエリーとエリアルはすぐに深く打ち解けたという。
エリアルは、自分の親について話そうとした。
だが、その話をしようとすると辛そうにしてしまう。
そんな彼女に、エリーはこう言ったそうだ。
「エリアル。あなたがどんな親から生まれた子でも、私の子供よ」
「だから心配しないで」
「本当に話したくなった時に、話してくれればいいの。ね」
「・・・・でも、あなたのその顔、本当に私の妹によく似ているわ」
その夜から、エリーとエリアルの関係は、本当の意味で親子のものになっていった。




