第2話
あれから、5年。
ぼくは一度も、あの姉妹に会っていなかった。
ふと、姉のほうに会いたくなったぼくは、依頼を終えた足で、記憶を頼りに彼女が住んでいた家へ向かった。
扉を叩くと、出てきたのはやはり姉のエリーだった。
大人びた顔立ちになり、以前よりさらに綺麗になったように思える。
これだけの美貌なら、周りの男たちは放っておかないだろうな――そう思っていたら、隣に一人の男性がいた。
聞けば夫だという。
あれから結婚したらしい。
同じ錬金術師で、互いに高め合いながら研鑽できる相手なのだそうだ。
二人の雰囲気からは、普段から穏やかで、お互いを大切にしていることがよく伝わってきた。
「特に用があったわけじゃないんです。元気にしているかなと思って」
そう言うと、ぼくは家へ招かれ、その後の話を聞かせてもらうことになった。
そこで驚いたのは、妹のアリーもまた、ギルドの中で大きな地位を得ており、ついには錬金術師ギルドの顔と呼ばれるまでになっていたことだった。
けれど、その話をした直後、エリーは急に表情を曇らせた。
「どうしたの?」
ぼくが尋ねると、エリーの夫が口を開いた。
「すみません。この先は、私から話させてもらっていいでしょうか」
「妻にとって、妹の現状を話すのは辛いと思うので」
ぼくが黙ってうなずくと、夫は静かに話し始めた。
アリーたち一部の有力な錬金術師は、錬金術師の地位をもっと向上させようとしている。
だが、そのやり方が最近かなり過激になってきているという。
そのため、ギルドの中でも、その考え方ややり方についていけない者が出始めているらしい。
そもそも、世間から錬金術師に求められる役割は、主に魔道具の作成と薬の生産だ。
だが魔道具については、支援魔法使いの付与魔法でも代用できる。
しかもそちらのほうが安価な場合が多い。
薬、とくに回復薬であるポーションに関しても、薬師の領分と見なされている。
つまり、今のままでは「錬金術師でなければ作れないもの」が少ない。
だから他職からは常に低く見られ、アリーたちはそれが我慢ならないのだという。
アリーたちが考えたのは、人体に多少の悪影響があっても、飲めば従来を超える力を得られる薬を作ることだった。
たとえば、魔力を限界以上まで増幅する薬。
あるいは身体能力を飛躍的に高める薬。
ぼくは思わず尋ねた。
「そんな強い魔法薬を、錬金術で作れるんですか?」
するとエリーが、顔をしかめながら答えた。
「・・・・今の錬金術では、無理だと思います。たとえ龍族の鱗や爪みたいな高価な素材を使っても」
「でも・・・・妹のアリーなら、それができるかもしれないんです」
エリーはさらに顔を曇らせ、うつむいた。
隣では夫が心配そうに見つめている。
「エリー、もうこれ以上は・・・・」
夫が止めようとしたが、エリーはそれを遮った。
「いいえ、言わせてください。誰かがあの子を止めないといけないんです。でも、私じゃ無理・・・・」
「お願いします、赤髪の騎士様。あの子を・・・・アリーを助けてください」
話を整理すると、両親が残した錬金術のレシピ本の中に、錬金術の禁じ手とも言うべき方法が書かれていたらしい。
それを使えば、従来とは比べものにならないほど高い効果を持つ錬金術が可能になる。
だが、その方法は高度な魔力制御を必要とするだけでなく、なんと術者の生命力を魔力へ変換して使うのだという。
つまり、使えば使うほど寿命を削る。
しかもその方法は、姉のエリーにはできなかったが、天才である妹のアリーにはできてしまった。
だからエリーは怖かったのだ。
両親の残した知識のせいで、妹が早死にしてしまうのではないかと。
さらにアリーたちは、その禁じ手を使って、もう一つ大きなことを成し遂げようとしていた。
それは、新しい魔道具の創造である。
魔道具そのものを作ることは珍しくない。
だが、彼女たちが狙っているのは、これまでにない性能を持つ魔道具だった。
一般に、付与魔法で作られたものも、錬金術師が作ったものも、ひとまとめに「魔道具」とされている。
だが厳密には、両者は同じではない。
錬金術による魔道具は錬金術の魔力を帯び、付与魔法による魔道具は付与魔法の魔力を帯びる。
両者は互いに反発し合い、効果を二重三重に重ねることができない。
けれど、その欠点を解消できればどうなるか。
錬金術と付与魔法を重ね、従来よりはるかに強力な効果を持つ魔道具が作れるかもしれない。
アリーたちは、禁じ手を使えばそれが可能かもしれないと考えているのだという。
まだ実験段階で、完成はしていない。
だがそんな危険な方法を繰り返していては、生命力が尽きてしまうかもしれない。
「・・・・ということです」
「どうか私からもお願いします。妻の妹にあたるアリーさんを、止めてもらえませんか」
「私は、これ以上妻の悲しむ顔を見たくないのです」
夫の悲痛な願いを聞き、ぼくはしばらく言葉を失った。




