第2話
「大変です!!マゼンタ王国から正式に我が国へ宣戦布告がなされました!これよりプラチナ王国とマゼンタ王国は戦争状態へ突入します!!」
「それに伴い、我が国へ運び込まれる予定だった食料や物品の一部が停止するとのことです!」
王宮の謁見の間でこの報告を受けたのは、第11代プラチナ王国国王シスタス・プラチアーナだった。
「以前から不穏な動きがあると報告は受けていたが、本当に我が国と戦をするとはな」
「こうしてはおれん。至急、王国軍、王国騎士団を編成し、いつでも迎撃できる準備をせよ」
「ははっ!!」
その傍らで、王妃が心配そうに尋ねる。
「国王陛下。我が国は大丈夫でしょうか?」
「心配はいらぬ」
国王は落ち着いた声で答えた。
「たしかにマゼンタ王国は、これまで我が国が相手にしてきた国とは段違いの国力を持つ」
「しかし、向こうはこちらが保有する冒険者ギルドの力と、エリューシオン教会の聖女の力を欲している」
「裏を返せば、我らには他国が欲してやまぬ、冒険者ギルドと聖女の力があるということだ」
そこでいったん言葉を切り、国王はにやりと笑った。
「そして何より――」
「我が国には、大魔導士イオニーア様がおられる。あの御方に任せておけば大丈夫だ」
そう言って国王は高らかに笑い、謁見の間を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
マゼンタ王国にも冒険者ギルドはあった。
だが、プラチナ王国はその本部。
マゼンタ王国にあるのは支部にすぎない。
そのため、冒険者の質という点でも本部に及ばない。
しかし、それを差し引いても、マゼンタ王国の冒険者ギルドへの扱いはひどかった。
冒険者に対する態度は常に横柄。
依頼金を相場より安くしようとするのは当たり前。
相談もなくギルドへの税を引き上げ、冒険者が命がけで持ち帰った素材を安く買い叩く。
挙げ句の果てには、冒険者の持つ性能のよい武器防具を勝手に取り上げようとしたことすらあったという。
あまりの酷さに、冒険者ギルドがマゼンタ王国から支部を引き払おうとすると、王国側は多額の損害賠償を請求しようとした。
ここに至って、ギルドは怒った。
そして本部へ、実力行使の要請を出したのである。
こういう時に出番が回ってくるのは、決まってSランク冒険者だ。
設立当初のSランク冒険者たちとは違うが、今の時代のSランク冒険者は、メイザリンという魔族の男だった。
大柄で、美形。だが顔つきは強面である。
彼は120年ほど前、ウィスタリア聖教国滅亡の原因となった「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つ、暗黒邪虎の討伐に関わった冒険者であり、その功績によってSランクへ昇格していた。
魔族ゆえ長寿であり、120年という時を経ても、ほとんど年を取っていない。
冒険者ギルドは、そのメイザリンと、最近Aランクへ昇格したエルフ族の女冒険者パロットの二人を、マゼンタ王国へ遣わした。
プラチナ王国へ宣戦布告したマゼンタ王国は、国力に物を言わせて大軍で攻め込んできた。
だが二人の冒険者は地の利を活かし、国境付近でその進軍を足止めする。
その間に、メイザリンとパロットは敵軍の野営を妨害し、輸送部隊を襲撃し、食料を届かなくした。
狙い通り、マゼンタ王国軍の士気は大きく落ち込む。
そこへ、大魔導士イオニーア率いる正規のプラチナ王国軍が到着した。
士気を削がれたマゼンタ王国軍に対し、イオニーアと王国軍の精鋭が一気に襲いかかる。
兵力差は五倍以上。
それでも、マゼンタ王国軍はろくに戦うこともできず逃げ去り、戦いはプラチナ王国軍の圧勝に終わった。
たとえ味方が負傷しても、従軍していた聖女たちが即座に傷を癒やす。
だから兵士たちも、思い切った行動を取れたのである。
その様子を見たイオニーアは、勢いのまま進軍を継続し、ついにはマゼンタ王国の首都へ迫った。
王城を攻められた王族と国王は、これまで自国が攻め込まれた経験などなかったため、それだけで戦意を失い、プラチナ王国軍へ降伏した。
大魔導士イオニーアは、その降伏を受け入れた。
そして、マゼンタ王国を属国として扱うことに決めたのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は、栄えあるプラチナ王国において、大魔導士イオニーア様付き侍女団を束ねる侍女長でございます。
この役目に、私は誇りを持っております。
もともと私は伯爵家の出身。
侍女の条件である上級貴族に、ぎりぎり届く程度の家柄です。
ですが、そんな私をイオニーア様は見出してくださり、侍女長という大きな権限を持つ役職に任じてくださいました。
こと侍女に関する権限においては、公爵はもちろん、王族であろうとも口を出させません。
侍女長となって20年。
多くの上級貴族令嬢がイオニーア様付きの侍女を望む中、私は常に自分の目で人を見極め、イオニーア様が王城内で安心しておくつろぎになれるよう心を砕いて参りました。
この使命に、私は命を懸けております。
ところが。
令嬢たちのイオニーア様への恋慕は、たとえ害意がなくとも、ときにイオニーア様のお心をかき乱します。
最近入ってきた筆頭侯爵家の令嬢は、イオニーア様への想いが強いこと自体はすぐに分かりました。
ですが、その様子は異常でした。
先日は、湯あみの途中でイオニーア様のお身体を見て鼻血を出す始末。
もう二度と湯あみには入れませんけれどね。
ほかにも、使用済みのタオルを処分せず、自室へ持ち帰ろうとしていました。
もちろん、その場で取り上げましたけれど。
同性同士とはいえ、そういう行為はあまり気分のよいものではありません。
相手は筆頭侯爵家の令嬢です。
ですが、あまりにひどいようなら侍女から外し、実家へ返すしかないとも考えておりました。
ところが、その旨を本人へ伝えたところ――泣き出し、興奮し、そしてそれを引き金に、なんと彼女の中に眠っていた魔力が解放されたのでございます。
その侯爵令嬢は、侍女でありながら、王国軍の兵士や王国騎士にも匹敵するほどの魔力を持つことになってしまいました。
結果、彼女は従軍侍女として戦場へ同行することになったのです。
もちろん、従軍侍女は魔力に優れているだけでは務まりません。
自分の身を守れるだけの強さも必要ですから、これから訓練を受けてもらわねばなりませんが。
本人は、目を輝かせてこう申しておりました。
「私はやればできる子!!人生、気合だ、気合だ、気合だーー!!」
「これでイオニーア様の戦場でのお世話もできるようになったわ!!戦場ではきっと湯あみも満足にできなかったでしょうけど、私にお任せください!!」
その様子をご覧になっていたイオニーア様も、さすがに呆れ顔でございました。
・・・・とはいえ。
さすが筆頭侯爵家の血を引く方です。
魔力が目覚めて、あそこまで強くなるとは。
本人は「愛の力ですわ!」などとほざいておりましたけれど。




