大魔導士、信仰を編み、愛に惑う~プラチナ王国への道~ 第1話
「勇者の聖戦」から155年後
4年前、シルバー公国は王国として独立を果たした。
それに倣うべきだという声は、プラチナ公国内でも大臣たちだけでなく民の間にまで広がっていた。
大魔導士イオニーアは頃合いを見極め、ついにプラチナ公国をプラチナ王国として独立させた。
もちろん、神聖ゴールド聖教国への根回しは万全である。
百年ほど前、まだプラチアーナ公爵家だった時代に建てられたプラチナ魔法軍学校。
そこから、一人の天才戦術家が現れた。
彼は、魔力だけに頼らないプラチナ公国軍を築き上げた。
しかし、その戦術家が寿命で世を去ると、軍は再び魔力主体へと戻ってしまった。
軍事面ではむしろ後退したと言っていい。
だが一方で、文化、内政、魔法技術は着実に発展し、周辺諸国の追随を許さぬほどになっていた。
冒険者ギルドの本部があり、中央平原中から冒険者が集まる。
エリューシオン教会の総本山もあり、聖女も数多い。
周辺諸国にしてみれば、羨ましくて仕方がない国だった。
ゆえに、それらを目当てに、プラチナ王国は以前にも増して戦争を仕掛けられるようになっていた。
この時期のプラチナ王国軍は、周辺諸国からの侵攻を退ける防衛戦争に追われていたと言っていい。
そんな中、大魔導士イオニーアは国の筆頭将軍として軍を率い、自ら戦場へ立つ。
常に先頭に立ち、惜しみなく魔力を振るい、味方へ勝利をもたらし続けたのである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ただいま、大魔導士イオニーア様が戻られました!!急ぎ、出迎え班の者は整列を!」
侍女長様の号令が、王宮に響き渡る。
「お部屋班!イオニーア様がすぐにおくつろぎになれるよう、ゆったりしたお召し物を用意しておいて!!飲み物もすぐ出せるように!」
「あと、分かっていると思うけれど、浴槽の準備は万全にしておきなさい!!」
五月雨のように飛んでくる指示のもと、私たち専属侍女はすぐに動き始めた。
先ほど、先触れが来た。
大魔導士イオニーア様が、ようやく王宮へ戻られるというのだ。
戦場へ出られて一か月。
さぞお疲れのことだろう。
そんなイオニーア様を丁重にもてなし、心身ともにお癒やしし、少しでも気持ちよく過ごしていただく。
それが、私たちイオニーア様専属侍女団の使命である。
イオニーア様専属侍女団は、ほとんどが上級貴族の令嬢で占められている。
とても人気の高い役目で、プラチナ王国内の令嬢たちの憧れの職と言っていい。
なにせ、あの大魔導士イオニーア様のお世話を、直接することが許されているのだ。
お側に近づく機会もある。
湯あみのお世話ともなれば――イオニーア様の、一糸まとわぬお姿を拝見できることだって・・・・。
ふごっ!!
あ、いけない。
想像したら興奮して鼻血が。
う、げふんげふん。
やーね。
やらしいことなんて考えておりませんわ。
なんせ同性同士ですもの。
裸なんて見慣れていますわ。ほっほっほ。
ふふ。
何を隠そう、わたくしもイオニーア様専属侍女団の一人でして、しかもプラチナ王国の侯爵家令嬢なのですのよ。
長女として生まれた身ですから、本来なら貴族の義務として婚姻するか、あるいは家を継いで婿を取るべき立場でした。
ですが私は、イオニーア様に一目会ったその日から恋に落ちました。
この方のお側に生き、この方のお側で死のうと決めたのです。
両親に泣いて頼み込み、ようやく侍女になることを許してもらいました。
憧れの専属侍女になれたと知った日の感激は、いまだに忘れられません。
嬉しすぎて、その場で失神してしまったほどです。
そんな私を、両親は呆れ顔で見ていたそうですが。
・・・・はっ。
どうやら、イオニーア様が王宮へお戻りになったようです。
ええと、私は・・・・あ、はい。
えっ、先に湯あみをなさるので、湯あみの手伝いに行けと。
やったーーーーーー!!
ついに!
ついに念願の湯あみ係ですわ!!
侍女長様、ありがとうございます。
専属侍女になって早二年。ようやく湯あみに関われることになりました。
ぐへへ・・・・おっと、いけない。
淑女は心の中でも「ぐへへ」などと言ってはいけませんわ。
淑やかに。淑やかに。
イオニーア様がお疲れを癒やす大切な湯あみなのですから、邪な心など捨てて、職務に励まなければ――
・・・・・・・・
・・・・はっ。
湯あみ、終わってしまいましたわ。
・・・・あれ?
いつ手伝ったのでしょう?
記憶にあるような、ないような・・・・。
あれれ? あまりに尊すぎて、記憶が飛んでしまったのでしょうか?
イオニーア様の、服の上からでも分かる素晴らしいお身体を直に拝見できるはずでしたのに・・・・。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大魔導士イオニーア――改め、イオニアの心の声。
はあ。
どうでもいいけれど、王宮の侍女団、わたくしに対して邪な思いを持ちすぎじゃないかしら。
私の裸が見たくて侍女をしている令嬢が多すぎる。
淑女教育はどうなっているのかしら。
別に、裸を見られることそのものが恥ずかしいわけではないのだけれど。
まあ、私のすべてを見ていいのは、誇らしきご主人様だけですので。
また湯あみを手伝う侍女たちには、催眠魔法をかけて意識を奪うことにしましょうか。
特に、侍女になって二年目という、あの侯爵令嬢。
湯あみの時のあの目。
血走っているのよ。
しかも侍女長も気づいていないみたいだけれど、処分を命じられた私の使用済みタオルを、こっそり持ち帰っていたりするし。
気持ち悪くて、そのタオルを私室でどう扱っているのか知りたくもないわ。
さすがの私でも、ちょっと引く。
侍女長に命じて、今度からあの侯爵令嬢は外してもらいましょう。




