第2話
大将軍シェーラは、戦争が起きれば常に前線に立ち、兵を率いた。
その戦いぶりは変幻自在だった。
進むと見せて退き、退くと見せて進む。
兵たちは完全に大将軍シェーラを信じきっている。
ゆえに、ただその指示のまま動き、敵を見れば剣を振るう。
将軍と兵士の完全な信頼関係によって成り立つ軍の前では、兵数の差など意味をなさなかった。
ひとたび大将軍シェーラの軍が動けば、町や村は次々と解放される。
そこにいた平民たちは歓喜し、圧政から救ってくれた軍を歓迎した。
中には、そのままシェーラの軍へ志願する若者も少なくない。
だからその国の首都へ迫る頃には、もとの兵数から何倍にも膨れ上がっていることすら珍しくなかった。
相手国も首都だけは死守しようと大軍を集める。
だが、シェーラの巧みな戦術と高い士気の前には及ばず、やがて首都は陥落する。
こうして大将軍シェーラとその軍は、いくつもの国を攻め、多くの平民を解放して回った。
後にシルバー王国の歴史家は、この時代のシェーラの活躍をこう記している。
「ある時は万を率いる将として戦場を支配しつつ敵を撃破し、ある時はその戦略の巧みさにより敵味方を翻弄した。その活躍は古今無双なり」
――と。
だが、そんなシェーラが、ある戦場で「手強い」と感じる将に出会う。
その将は激しい攻めを繰り出し、兵の損傷を最小限に抑えたいシェーラにとっては、いささか厄介な相手だった。
複雑な戦術だけで翻弄しようとすれば、こちらの被害もかさむ。
そう判断したシェーラは、自らの武力を使って敵軍を砕くことにした。
本来、彼女はできるだけ自分の武を表に出さないようにしてきた。
頭脳と策略で戦う将軍――そう周囲に印象づけたかったからだ。
それにもかかわらず武力を切った。
それだけ相手を高く評価したということでもある。
この100年の中でも、将軍としての力量は一番有能だ。
これほどの将は他にいないだろう。
興味を抱いたシェーラは、その将を生け捕りにした。
意外なことに、相手は女性だった。
しかも人族ではなく、エルフ族。
その独特の身体的特徴が、それを物語っていた。
彼女の名はパロット。
エルフ族の元冒険者である。
シェーラの見立てでは、将軍としても有能だが、冒険者としての才はさらに上だった。
少し鍛えればAランクに届くほどの実力を秘めている。
シェーラは、自分に仕えないかと勧誘した。
するとパロットは、鼻で笑ってこう言った。
「はん!!勧誘?勧誘するならねえ、せめて兜を取って顔ぐらい見せなさいよ!!」
「素顔も見せずに勧誘だなんて、馬鹿にするにもほどがあるわ!!」
それを聞いたシェーラは、たしかにその通りだと思った。
「・・・・すまない」
そう謝りながら兜を取って素顔を見せる。
その瞬間だった。
「うおおおお美形いいい!!ぜひ!!どこまでもついていきます!!どんなことでもさせていただきますうううう!!」
一も二もなく、パロットはシェーラの虜になった。
シェーラは考えがあって、あえて彼女を使徒にはせず、エルフ族の冒険者のまま従えることにした。
パロットは非常に優秀だった。
時にはシェーラとともに軍を率いる将軍として活躍し、時にはエルフ族特有の隠密性を活かして諜報を担う。
こうしてパロットは、すっかり大将軍シェーラの腹心に収まったのである。
長い遠征を終えた大将軍シェーラとその軍は、ついにシルバー王国へ凱旋した。
彼女たちを迎えたのは、多くの王国民。
中でも、シルバー王国第10代国王スロバキンス・シルバーナは、シェーラの帰還を心待ちにしていた。
国王は、全身を黒く覆う鎧姿のシェーラを見つけると、ぱっと顔を輝かせた。
「おおーい!こっちだよー!大将軍シェーラ様!!」
「いやー、このたびの遠征も見事なり!五つの国と十八の都市を征服したと報告を受けているよ!」
親指を立て、歯を見せて笑う。
本人としては最高に格好いいつもりらしいが、あいにくシェーラはまったく興味がない。
「はあ。さようですか。国王自らの出迎え、光栄です」
棒読みで応じ、そのまま歩を進める。
相変わらずの塩対応だが、国王はむしろそれを楽しむようになっていた。
「・・・・だが、それがいい」
だが、その時。
国王はシェーラの後ろを嬉しそうについていくエルフ族の女に気づく。
「誰だ、あれは。シェーラ様の後ろをあんなに楽しそうについていく者は。私の知らない顔だ」
国王はすぐにパロットへ声をかけた。
「やいやいやい!そこのエルフ族の女!!ちょっと待てい!」
「そなたは何の権限で大将軍シェーラ様の後をついていくのだ!うらやましい!私に代われ!!」
パロットは、自分に言われていることに気づいた。
「あー、あなたが私のシェーラ様に懸想してる残念王様?」
「悪いけど、国王陛下にだって私は敬意を払わないわよ?私が仕えてるのはシェーラ様だからね」
それを聞いた国王のこめかみがぴくりと動く。
「私のほうが付き合いは長いんだからな!!」
「なによ!全然相手にされてないくせに!!私なんか、遠征中に同じテントで寝させてもらったんだからね!!」
「なにおー!!それを言うなら私だって、五歳までは一緒に寝てもらっていたぞ!!」
・・・・どちらがシェーラと親しいか。
まるで子供のような自慢合戦が始まった。
シェーラは少し離れた場所で、そのやり取りを聞きながら思う。
案外、この二人は相性がいいのかもしれない。
後にパロットは、伸び悩んでいた神聖魔法をシェーラに鍛えられ、冒険者としても復帰し、大いに活躍するようになる。
そして冒険者ギルドからAランク昇格の通知を受けた。
その戦いぶりは、まるで暴風雨のようだったことから、彼女は冒険者たちの間で「風神」という二つ名で呼ばれるようになったという。




