表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/65

大将軍、法を敷き、王国を護る~シルバー王国への道~  第1話

「勇者の聖戦」から151年後。


「シルバー公国は、この時をもって神聖ゴールド聖教国より独立し、名をシルバー王国と改める」


この年の独立式をもって、シルバー王国は神聖ゴールド聖教国から正式に独立を果たした。


この宣言を行ったのは、初代スレート・シルバーナ男爵から数えて10代目のスロバキンス・シルバーナ。


まだ二十代の若き君主である。


もっとも、神聖ゴールド聖教国側への根回しを済ませ、禍根を残さぬ形で独立へ持ち込んだのは、言うまでもなくシェーラだった。


シルバー王国を独立させた理由の一つは、領土と領民が増え、従来の体制では国をうまく治めきれなくなってきたからだ。


シェーラの目標は、国王に実権を集中させず、君主として君臨させる一方で、政治は法の下に有能な大臣たちへ任せる体制を築くことにあった。


立憲君主制である。


この後、すでに「大将軍シェーラ」と広く呼ばれていた彼女を最高指導者とし、シルバー王国はゆるやかにその体制へ移行していくことになる。


また、シルバー王国の大きな目的の一つは、平民に無体な真似をしない世を作ることにあった。


シルバー王国は、自国だけでなく近隣諸国にまで目を光らせ、そのような振る舞いをする国がないか監視している。


今日も王城の執務室で、国王が報告書を読んでいた。


「ふむ・・・・このような不埒な真似をする国が、これほど多いとはな」


「この報告を知れば、大将軍シェーラ様はさぞ心を痛められることだろう・・・・」


ため息をつくのは、シルバー王国第十代国王スロバキンス・シルバーナ。


初代スレート・シルバーナ男爵の面影を思わせる端正な顔立ちで、憂いを帯びた表情さえ絵になる男だ。


その姿に侍女や女官たちから密かに人気を集めているが、本人は女性に一切興味を示さない。


「と、言いますか。この諜報活動を命じたのは大将軍シェーラ様ですからね。とっくにご存じですよ」


報告書を持ってきた側近は、少し呆れたように答えた。


「大将軍閣下はすでに麾下の将兵を招集して、報告書に上がった国々を攻める準備を進めておられます」


その言葉に、スロバキンス国王は椅子から跳ねるように立ち上がった。


「なんだと!?本当か!?こうしてはおれん!」


「シェーラ様のような可憐なお方を、これ以上軍事の総大将に置いてはおけない!」


「私が!シェーラ様の!代わりに!軍を率いる!!」


彼の頭の中では、すでに都合の良い未来が描かれていた。


国を攻め、功績を立てれば、シェーラ様も私を見直してくださるはず。


もう、いつまでも子供扱いされる私ではない。


そして、いずれは私の大事な女性として――。


「いやあ、そんなにうまくはいきませんよ」


側近は一刀両断した。


この側近は、国王がまだ幼い頃からの付き合いだ。


もちろん、それもシェーラの采配である。


だからこそ、この若き国王のひどい妄想癖も、大将軍シェーラへの叶わぬ恋慕も、よく知っていた。


「やめとけって言っても聞かないんでしょうねえ・・・・また愚痴に付き合わされるのかなあ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


大将軍シェーラは、近隣で圧政を敷く国を攻め、平民を解放しようと考えていた。


思い通りに動かせる兵の数は、ようやく二千を超えたところ。


一国の兵としては少ない。


だが、彼らはシェーラが鍛えに鍛え上げた精鋭中の精鋭だった。


シルバーナ男爵領の時代から、こつこつと領地経営を行い、内政を優先して100年以上。


その結果ようやく整えた戦力である。


貴重な税を、孤児や病人が安心して暮らせる福祉の充実に回した結果、そのしわ寄せは軍備に来ていた。


シルバー王国の兵数は、周辺国の中でも最低水準だ。


それを補っているのが、大将軍シェーラの戦略と、兵一人ひとりの能力の高さだった。


だからこそ、シェーラは兵を無駄に損じる戦い方を取らない。


可能な限り損耗を抑え、最大限の成果を挙げる。


そのためには、将軍として一分の隙もない戦略が必要になる。


・・・・なのに。


そんな自分の仕事を、いつも邪魔しに来る者がいた。


「大将軍シェーラ様!!私も!私も戦場に連れて行ってくれ!!」


目をきらきらさせながら駆け寄ってくるのは、国王スロバキンス・シルバーナその人である。


はっきり言って邪魔だ。


控えめに言っても邪魔だ。


不敬を承知で言っても、やはり邪魔だった。


シルバー王国第10代国王スロバキンス・シルバーナ。


個人として見れば、決して無能ではない。


むしろ有能な部類――いや、歴代でも上位に入るほどの能力を持つとシェーラは評価している。


シェーラは王族の教育の一環として、幼い頃から軍へ放り込み、実地で鍛えるやり方を取ってきた。


その中でも、この王は王子の頃から戦場への適応が異様に早かった。


それだけではない。


内政にも外交にもその才能を発揮し、安心して留守を任せられるほどだった。


それなのに。


この国王は、シェーラが戦場へ出ようとするたび、必ずついて来たがるのだ。


め・い・わ・く。


将軍として有能では足りない。


ちょっとやそっとの有能など問題にならない。


古今絶無――それほどの能力が必要なのだ。


極力兵を損なわず、最大の戦果を挙げる。


それが最低条件という厳しい立場に、シルバー王国はあるのだから。


だからシェーラは、いつも国王へこう告げる。


「また来たのですか、国王陛下。何度申し上げればお分かりいただけるのでしょうか」


「戦場へは、このシェーラが参ります。尊い御身である陛下は、後方にて王城を守っていただくのが最善と申し上げたはずです」


そう言うと、この王は決まってしゅんとした顔をして、


「ごめん・・・・分かっている。でも、でも、私の気持ちを分かってほしくて・・・・」


そう呟いてから、「城へ戻るよ」と言って帰っていく。


シェーラは、いつも頭を押さえながらその背を見送るのだった。


もちろん、この王も幼い頃からシェーラが教育係として関わってきた。


「甘えた態度だけは、小さい頃から変わらないな・・・・」


今の国王が、自分を親のように慕い、師として敬い、さらには男女の情をも含んだ感情を向けていることを、シェーラは理解していた。


だが、その感情に応えるつもりはない。


むしろ、そうした想いを向けられるたびに、彼女はあの日を思い出すのだ。


麗しき主人、ホワイトが亡くなる時のことを。


ご主人様は、最後に彼女たちへこう遺した。


「もう一つは、友人のスレートとベルフラワーを助けてやってほしい」


「二人には、それぞれ返しきれない恩がある」


「彼らは自分の信念で領地を栄えさせようとしている。その手伝いをしてほしいんだ」


たったそれだけで、シェーラはすべてを捧げることができた。


たったそれだけで、使命に殉じることができる。


大切な主人からの命令。


守ることができなかった主人。


「だからせめて、この命令だけは遵守したい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ