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ラベンダー編エピソード2   黒髪の大聖女    第1話

「勇者の聖戦」から113年後。


私――「黒の治癒士」が、神聖ゴールド聖教国のリコリス伯爵領の都市で治癒士として働き始めたのは、今から80年以上も前のことです。


赤髪の騎士とともに、ウィスタリア聖教国を滅ぼした魔物の討伐にあたったのも同じ頃でしたから、やはりそれだけの年月が過ぎているのでしょう。


月日の経つのは、本当に早いものですね。


特に使徒となってからは、それをいっそう実感します。


私は相変わらず、回復を専門とする冒険者を続けていました。


本当はSランク冒険者なのですが、回復役に専念したかったので、そのことは伏せてもらっています。


おかげで、どのランクのパーティからも引っ張りだこになってしまいました。


そのせいか、「黒の治癒士」という二つ名も、すっかり冒険者たちの間で有名になってしまっています。


治癒士というからには、もちろん回復魔法は使えます。


けれど本当は、それ以外の魔法も使えるのですよ。


ただ、「黒の治癒士」として回復役ばかりしていたせいでしょうか。


周りからは、回復魔法しか使えないように思われているみたいですね。


通常、回復魔法の使い手として思い浮かべられるのは、エリューシオン教会の聖女様です。


でも、私は聖女には認定されませんでした。


少し残念ですね。


そんなことを考えながら、冒険者ギルドへ依頼を受け取りに向かおうとした、その時でした。


突然、創造神様の声が頭に響いたのです。


「次は、エリューシオン教会へ向かい、リューシェの指示に従いなさい」


突然のご神託ではありましたが、創造神様の命令です。


私は迷わず従い、プラチナ公国にあるエリューシオン教会へ向かうことにしました。


リューシェ様とは、創造神エクレアーナ様とともにおられる女神様のお一人。


この世界では、聖処女神エリューシオン様とも呼ばれています。


私は一度だけ、遠目からそのお姿を見たことがあります。


サファイアのような青い瞳に、腰まで流れるブロンドの髪。


女の私でも見とれてしまうほどの美しさでした。


さすが「聖月美神」の名に恥じない美貌です。


そんなリューシェ様に、またお会いできる。


それだけでも胸が高鳴りました。


それに、創造神様から直接ご神託を受けたのは、100年前に使徒となった時以来です。


また新たな命令をいただくのでしょうか。


少し緊張しながら、私はエリューシオン教会の扉を開けました。


中には数名の聖女がいるばかりです。


「何の御用でしょうか?あ、治癒ですか?まだ治癒の時間ではないので、お待ちいただけますか」


その場にいた中で一番年かさの聖女が、丁寧に声をかけてくださいました。


「えっと・・・・」


私がどう説明しようか迷っていた、その時です。


突然、その場にいた聖女たちが一斉にひれ伏しました。


何事かと周囲を見回すと、上の方から声が聞こえてきます。


そう。


聖処女神エリューシオン様が、この教会にいる聖女全員へ、思念で声を届けたのです。


聖女ではない私にも。


その内容は、こうでした。


「いま、目の前に来た者こそ、我が教会をより良き方向へ導く人物です。聖女はすべて、この者の指導を仰ぐように」


――え?


リューシェ様から直接ご神託をいただいた私は、そのまま教会の頂点に立つことになってしまいました。


あとで聞けば、もともと私を聖女として認め、エリューシオン教会を任せる計画があったのだとか・・・・。


こうして私は、聖女たちを導く立場として教会を預かることになったのです。


もともと私は、聖属性魔法を扱えます。


しかも、最高位に届くレベルのものを。


エリューシオン教会の聖女も、聖女と認定されれば聖属性魔法を使えるようになるそうですが、上級聖女であっても私ほどの水準には達していませんでした。


ならばやることは一つです。


私は、自分が使える最高位の聖属性魔法を、彼女たちも扱えるように育てることにしました。


それと並行して、教会の政治的立場を安定させるための神官の育成も始めることにします。


聖女だけでは、教会は守れません。


外と交渉し、制度を整え、教会の立場を支える人材も必要です。


神官には、司教、大司教といった位を設けることにしました。


最高位を大司教とし、教会に属しながらも、主にプラチナ公国との折衝を担ってもらうのです。


そのためには政治や交渉の知識も教えなければなりません。


最初は聖女の中から素養のありそうな人材を見繕っていましたが、のちには教会が運営する孤児院から拾い上げることが多くなりました。


・・・・なんだか、昔の自分を見ているみたいですね。


まさか私が、誰かを育てる立場になるなんて。


本当に人生は分からないものです。


気づけば私は、皆から「大聖女様」と呼ばれるようになっていました。


大聖女。


それが、今の私の二つ名ということなのでしょう。


当初、エリューシオン教会にいたのは、中級聖女と聖女見習いばかりでした。


上級聖女と呼べる方は、先ほどの年かさの聖女お一人だけ。


私は早速、中級聖女たちには聖属性魔法の特訓を施し、見習いの子たちには魔力を解放・増幅する修行をつけることにしました。


朝は魔力修行。


昼から夕方にかけては、治癒を求めて訪れる人々へ回復魔法をかける時間。


そして夕方から夜にかけては、聖女たちと団らんをする時間です。


皆、リューシェ様が直々に選んだだけあって、素直で良い子ばかりでした。


中には、色恋に興味津々なお年頃の子もいて、こんなことを聞いてきます。


「ねえ、大聖女様。私も大きくなったら、大聖女様みたいな妖艶ナイスバディになれるかな?」


「・・・・そんなつぶらな瞳で“妖艶ナイスバディ”って言わないで」


「で、でも、そんなに言うほどナイスバディではないと思うのだけど・・・・」


そう返しても、


「そんなことないもん!!大聖女様は女の私から見ても魅力的だし、男の人たち、みんな大聖女様をじろじろ見てるもん!!」


・・・・よく見ていますね、この子たち。


そうですか。


私って、そんなふうに見られていたのですね。


私自身はともかく、聖女見習いの子たちに悪影響が出てはいけないので、その辺りは少し気をつけないといけません。


「あとあと、そんなにきれいなんだから、大聖女様ってモテモテでしょ?!」


ずいぶん踏み込んできますね。


教育を間違えたかしら。


周りを見れば、皆きらきらした目でこちらを見ています。


これは誤魔化せそうにありません。


「ふう・・・・。あのね、モテるかどうかは、そんなに大事じゃないのよ」


「大切なのは、本当に好きな人と過ごせるかどうか、だと思うわ」


「でもでも、モテるなら好きな人も選べるんじゃないの?」


その疑問ももっともです。


でも、現実はそんなに単純ではありません。


私の周りには、美貌を誇ってもいい方ばかりいました。


けれど、おそらく誰一人として、本当に愛する方――ご主人様と長く過ごせてはいない。


外見が良くても。


性格が良くても。


本当に好きな人と結ばれるとは限らない。


それを、私は知っています。


だから私は、静かに言いました。


「美人だから、とか。性格が良いから、とか。そういうことではないの」


「本当に好きな人と長く過ごせるなら、それだけで十分に感謝すべきことなのよ・・・・」


私があまりにもしんみりと言ってしまったせいか、それ以上、恋のお話は続きませんでした。


・・・・あれで良かったのかしら。


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