第2話
黒幕は、コバルト王家に不信感を抱いていた貴族の一人だった。
ぼくはなんとかその貴族を突き止め、穏便に収めようと話をしに行った。
ところが逆に、コバルト王家打倒に協力してほしいと頼まれてしまったのである。
どうやら、思っていた以上にコバルト王家は腐敗していたらしい。
そのしわ寄せはすべて王国民に向かい、民はひどく苦しんでいたという。
これまで何度も、貴族派の代表であるブルー公爵が、増税の停止と過度な贅沢の見直しを申し入れていた。
だが、王家は聞き入れなかった。
そこで非常手段として、コバルト王が溺愛する末の王女殿下を暗殺し、危機感を煽ろうとした。
それが、今回の真相らしい。
臣下にここまで危険な橋を渡らせる決断をさせるとは。
よほど思い詰めていたのだろう。
それだけ、この国と民を大事に思っているということでもある。
冒険者ギルドの依頼主は、もともとはコバルト王家だ。
だがぼくは、自分の判断で王家からの依頼を破棄し、ブルー公爵の依頼を受けたことにする、と決めた。
そう決めてからの行動は早かった。
ブルー公爵は、コバルト王国に対して革命を起こしたのだ。
しかも「国民に被害は出さず、王家だけを倒す」と宣言したうえで。
そしてこの時、最も大きく動いたのは、ぼくだった。
王城内にいるコバルト王族を見つけ出し、一人ずつブルー公爵のもとへ連行していく。
何人かをすでに連れて行き、残る王族を探していた時――
ぼくの前に、元婚約者である近衛騎士が立ちはだかった。
当然ながら、騎士としての実力はぼくよりはるかに下だ。
相手にならない。
だが、ずっと勘違いしたままだったその騎士は、真顔でこう言った。
「ま、待て。お前は私のことが好きなんだろう。それなら私の言うことを聞け!!」
「今なら私がお前を愛でてやろう。どうだ、嬉しいだろう?」
「はあ~~~」
ぼくは盛大にため息をついた。
そして死んだような目で、その近衛騎士に告げる。
「残念ながら、ぼくはあなたの元婚約者ではありません」
「あなたの元婚約者は、とっくに別の方と結婚し、いまは二人の子供がいます」
それを聞いた近衛騎士は、目を見開いて叫んだ。
「な・・・・う、嘘だ!!」
「嘘じゃない」
ぼくはそう言って、認識阻害の魔法を解いた。
コバルト王国ではずっと、その令嬢の顔に見えるよう魔法をかけて行動していたのだ。
素顔を見た近衛騎士は、さらに驚愕に顔を歪めた。
だが、ぼくは容赦しない。
「大体きみは、元婚約者の令嬢の顔を覚えているのですか?」
「わざわざその令嬢の顔に見えるよう認識魔法をかけていたのに、少しも違和感を持たなかったですよね?」
近衛騎士は何も言えない。
「ぼくは、そのご令嬢の家から依頼を受けて、彼女に成り代わっていたのです」
「そのご令嬢は、さっさときみを見限って、別の家の御子息と婚約し、結婚されましたよ」
近衛騎士は顔を青くして、呆然と呟いた。
「そんな・・・・馬鹿な・・・・私のことを愛していたはず・・・・」
「王国の情勢が不穏で、きみの家も警戒すべき対象だったから、ぼくが身代わりになっていただけです」
淡々と説明するぼくを、近衛騎士は虚ろな顔で見ている。
もう十分だろう。
これ以上、彼に時間を割く価値はない。
そう判断したぼくは、一瞬で距離を詰め、その意識を刈り取った。
そして先へ進む。
元婚約者だった近衛騎士が守っていたのは、コバルト王が溺愛する末娘の王女殿下だった。
この王女殿下は我がままで、そのせいで多くの令嬢が涙を流してきた。
今回、ぼくが依頼を受けたご令嬢もその一人だ。
婚約者のいる騎士に言い寄り、わざと気のある素振りを見せ、婚約者との仲を裂いては面白がる。
この悪行もまた、コバルト王家の罪の一つだった。
ぼくは再び認識魔法をかけ、王女を探す。
やがて、ぼくを見つけた王女が叫んだ。
「なによ!!あなた無礼よ!!私はこの国の王女なのよ!!」
だが、ぼくには関係ない。
「ぼくはこの国の者ではないので、関係ありませんね」
認識魔法で令嬢の顔に見えているぼくを見て、王女は醜く顔を歪めた。
「あ、あなた・・・・もしかして、私に婚約者を奪われて惨めに泣いていた令嬢じゃない」
「ぷぷっ、みじめ~~~」
「婚約者に振られた腹いせに私に暴力を振るうなんて、女としての魅力がないと自分で認めたようなものね~~~~」
・・・・ここまで追い詰められて、まだそれを言うのか。
ぼくは冷めた目で王女を見つめた。
「残念ながら、ぼくはその令嬢ではありませんよ」
「その令嬢はすでに別の方と結婚し、二児の母となって、今は平和に暮らしています」
そう言って認識魔法を解き、素顔を見せる。
それを見た王女は、震えながら呻いた。
「な、な・・・・う、嘘よ。そんなの嘘だわ。私は信じない!そんな嘘をついたって無駄よ!!」
・・・・無駄なのは、きみのほうだ。
ぼくはこれ以上話す価値はないと判断し、素早く王女の懐へ踏み込んだ。
そして意識を絶たせ、そのまま王城の外へ運び出す。
そのままブルー公爵のもとへ連行した。
あとの処理は、ブルー公爵がするだろう。
王族を恨む民衆の前へ差し出す、と彼は言っていた。
「やったことは、すべて自分へ返ってくる」
創造神様が定めた、この世の理のひとつだ。
この革命によって、次の王権はブルー公爵へと移った。
――ブルー王国の誕生である。




