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第2話

弟王子が国を出奔してから20年後。


ぼくは再び、クラウド王国の地を訪れた。


あれから長い年月が経っても、ぼくの容姿は衰えない。


むしろ時が流れるほど妖艶さが増したとさえ言われる。


若返った、などと言う者までいる。


そんなぼくがクラウド王国を訪れたのは、冒険者ギルドからの依頼を受けたためだった。


つまり今回は、Sランク冒険者「赤髪の騎士」として来たのである。


いま、クラウド王国の王城では、警護に当たる騎士団員が次々と殺される事件が起きていた。


被害はあまりにも大きかった。


事態を重く見たクラウド王国の国王が、プラチアーナ公爵を通して冒険者ギルドへ依頼を出したのである。


クラウド王国ではすでに、双子の兄王子が国王に即位していた。


正妃も側妃も国王の執務を助け、ともに支え合っている。


そんな中、王城では三か月前から、屈強な近衛騎士が惨殺される事件が続いていた。


当然、国王と近衛騎士団は犯人を血眼になって探した。


だが、見つからない。


それどころか、あざ笑うように次々と近衛騎士が殺されていった。


人目につかぬよう近衛騎士を殺す。


そんな真似は、並の腕ではできない。


そして国王には、一つの悪い予感があった。


双子の直感、とでもいうべきか。


犯人は、20年前に出奔した弟ではないか。


近衛騎士が憎いのではない。


自分が凄腕であることを見せつけるために、この事件を起こしているのではないか。


そして――Sランク冒険者「赤髪の騎士」を呼び寄せるために。


そんな気がしてならなかったのだ。


依頼を受けた赤髪の騎士は、すぐに王城へ到着した。


すると、まるで待ち構えていたかのように、犯人は姿を現した。


「待っていましたよ、赤髪の騎士様。いえ・・・・わたしだけの赤髪の女神様」


「私は30年前にあなたに命を助けていただいてから、ずっとあなただけを見ていました」


そう言って現れた犯人は――


20年前に出奔した、双子の弟王子だった。


「やはり、そなたであったか・・・・」


国王がうめくように言う。


だが、その弟王子に、もはや当時の面影は薄かった。


髪はぼさぼさで、目元はくぼみ、一見すれば浮浪者のようにすら見える。


それでも、その身には強力な魔力が流れていた。


弟王子は、赤髪の騎士への想いの強さのあまり、禁断の魔道具を手に入れ、人の道を踏み外してしまったのである。


近衛騎士を何十人と殺した弟王子に、国王はもはや情けをかけなかった。


好意を口にしながら、赤髪の騎士へ刃を向ける。


その矛盾した姿は、誰の目にも不気味に映った。


すでに弟王子の心は壊れていたのである。


弟王子は、赤髪の騎士を打ち倒すことで自分のものにしようという、倒錯した考えに囚われていた。


弟王子は襲いかかってきた。


禁断の魔道具によって強大な魔力を手に入れ、屈強な騎士団すら瞬殺する力を得ていた。だが、それでも赤髪の騎士の方が上だった。


弟王子が押され、赤髪の騎士の手で無力化されそうになった、その瞬間――


別の者が姿を現し、弟王子を助けようとした。


弟王子の協力者。


闇ギルドに属する者だった。


弟王子は旅の途中で闇ギルドと知り合い、強大な魔力を得る代わりに心と生命力を削られる禁断の魔道具を手に入れていたのだ。


心を失うとは、正常な思考と判断を失うということ。


それでもなお、赤髪の騎士には届かなかった。


赤髪の騎士は、心を壊しながら戦う弟王子へ言った。


「よせ!! 二人がかりでも、ぼくには敵わない!」


「これ以上、魔道具を使って心を壊す真似をするな!!」


そう言って、弟王子とその協力者へ拘束魔法を放つ。


創造神エクレアの使徒である赤髪の騎士は、魔力も身体能力もその場にいる誰より高い。


その拘束魔法にかかれば、逃れられる者などいない。


――はずだった。


だがその瞬間、赤髪の騎士は、闇ギルドの者が首にかけていた魔道具を見て、ほんの一瞬息をのんだ。


その魔道具は――


かつてホワイトが身につけていたペンダントだったのだ。


その一瞬の隙を突き、闇ギルドの者は逃走のため、限界まで魔力を振り絞って転移の魔道具を起動した。

そして逃げ去ってしまった。


あとに残された弟王子は、赤髪の騎士の拘束魔法に縛られたままだった。


だが次の瞬間、突然口から血を吐いて倒れた。


禁断の魔道具によって、生命力が尽きたのである。


「この魔道具を用いても・・・・あなたには届かないのか・・・・ゴフッ」


「心を壊す真似をするな、か。とっくに心など壊れていた・・・・あなたを見た時から」


「どうしても・・・・貴方への恋心に嘘をつけなかったのだ。せめて、あなたに止めてもらえてよかった。兄上、最後まで迷惑をかけ――」


謝罪の言葉を言い切ることなく、弟王子は絶命した。


もともと魔力を持たなかった弟王子が、これほどの力を扱えたのは禁断の魔道具のおかげだ。


その代償として、限界まで生命力を削り取られたのだろう。


闇ギルドと出会わず、禁断の魔道具を手にしなければ。


こんな凶行を起こさずに済んだのかもしれない。


かつての弟王子の婚約者であり、いまは国王の側妃となっていた女性は、正妃のリーフとともにこの惨状を目の当たりにしていた。


「なぜ、ここまで・・・・」


肩を震わせ、泣いていた。


双子の兄弟は、どこで道をたがえてしまったのだろう。


赤髪の騎士は、かつての婚約者だったセピア女王の弟の子孫にあたる双子の王子たちを思い、静かに呟いた。


「会わなければよかったのだろうか・・・・」


「それでも、あの日。ぼくは手を伸ばした」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方、転移の魔道具でかろうじて逃げ延びた闇ギルドの者も、限界まで魔力を振り絞った結果、転移先で息絶えてしまった。


隙を突いたとはいえ、赤髪の騎士の膨大な魔力から逃れるためには、想定以上の魔力を使わざるを得なかったのだ。


闇ギルドの者の死体はそのまま放置され、身につけていた服や魔道具は、近くにいた村人たちによってはぎ取られた。


こうして、ホワイトがつけていたペンダントは、またしても持ち主を変えたのである。


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