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第2話

私――「黒の治癒士」ことラベンダーと、幼なじみのクラレット君である「赤髪の騎士」の二人は、プラチアーナ公爵領の冒険者ギルドで、Sランク相当の依頼を受けることになりました。


依頼主は、私たち二人の生まれ故郷だったウィスタリア聖教国。


・・・・とはいえ、そのウィスタリア聖教国は、すでに国として壊滅してしまったらしいのです。


生き残った神官たちが、冒険者ギルドへ依頼を出したのでした。


原因となった、大型の虎型魔物を討伐してほしい、と。


誰も見たことがないほど巨大な虎型の魔物。


当然、依頼ランクはSです。


私たちはさっそく現地へ向かい、かつてウィスタリア聖教国があった土地へ向かうことにしました。


道中、元国民と思われる人々が、荷物を抱えて逃げていく姿に出くわしました。


人々の顔は疲労困憊で、中には家族と死に別れたのでしょう、苦悶の表情を必死に押し殺している方もいました。


その人たちに何と声をかければいいのか分からないまま歩みを進め、ようやく暗黒邪虎を遠目にも確認できる位置までたどり着きました。


その時の暗黒邪虎は、巨体を大きく曲げ、膝を折って休んでいるようでした。


疲れを取るために休息を取っている――


私はそう推測しました。


その時、創造神様から思念波で声が届きました。


「あなたたち、ようやく暗黒邪虎を目に映せる場所まで来たようですね」


「ご主人様にひどい扱いをした者たちを滅するために遣わした魔物です。ですが、それも終わりました」


「暗黒邪虎を討伐してかまいません。さらにあなたたちの助けとなる人物を遣わそうと思っておりました。その者と大いに協力して、暗黒邪虎を討ちなさい」


ある人物とは誰だろう――そう思った時です。


目の前に、大柄で、一目で魔族と分かるほど全身から魔力を立ち上らせている男が現れました。


強い。


魔力の強さや流れから、魔力制御の力量が分かります。


創造神の使徒となった私や赤髪の騎士ほどではない。


けれど、地上のどの戦士もかなわないほど強いと感じられました。


もしかしたら、かつて私が討伐した魔王カーマインより強いかもしれない。


それほどの力量を感じたのです。


目の前の魔族は、私たちにひざまずいて言いました。


「お初にぃお目にかかります。私の名はぁ、メイズ。創造神さまの忠実なしもべにしてぇ、かつては魔王カーマイン様に仕える魔族でありましたぁ」


こうして、「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つである暗黒邪虎を見つめるのは、私と赤髪の騎士、そしてメイズと名乗る魔族の三人になりました。


暗黒邪虎は、天を衝くほどの巨体と、それに見合わぬ速度を持ち、一体で一国を滅ぼすほどの力を持っています。


しかし今は、その力の大部分を使い果たしている様子でした。


創造神様がお命じになったように――


今こそ討伐の好機だと感じました。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


私「黒の治癒士」、赤髪の騎士、そしてメイズ。


この三人で、暗黒邪虎の討伐を成し遂げました。


もちろん、簡単な戦いではありません。


戦いは五日間にも及ぶ激闘となりました。


攻撃の主体は赤髪の騎士。


私は全力で回復魔法をかけ続け、メイズは魔族特有の付与支援魔法で援護を続けました。


暗黒邪虎の爪の一振りで、赤髪の騎士は大きなダメージを受ける。


それを私が聖属性の回復魔法で全快させ、メイズが付与魔法をかけて支援する。


その繰り返しでした。


そして戦い始めて五日目の朝。


ついに暗黒邪虎は力尽き、その巨体は塵となって消え去ったのです。


メイズは三日目の時点で魔力が尽きかけていましたし、私も限界寸前でした。


最前線で戦い続けた赤髪の騎士も、疲労困憊で今にも倒れそうです。


それでも私たちは、一国を滅ぼした暗黒邪虎の討伐を成し遂げました。


この一件で、Sランク冒険者の名声はさらに高まることでしょう。


この魔族は、創造神エクレア様から遣わされた者で、名をメイズと言います。


かつての六武威の一人であり、先の魔王の側近として活動した魔族の一人だったそうです。


最後は創造神エクレア様の手で命を落としたそうですが、エクレア様のお情けにより、記憶を消されたうえで復活を許されたのだとか。


――この話は、エクレア様から聞きました。


メイズの能力は非常に高く、Aランク相当以上の実力を持っていると感じます。


そして今回の功績により、冒険者ギルドはメイズをSランク相当と認めたそうです。


清廉潔白を旨とし、弱い者の味方であることを信条とする彼は、その実力も精神性も、冒険者ギルドを代表するSランク冒険者にふさわしいと判断されたのでした。


そんな彼が、ある日こう言い出しました。


「記憶を消されたとぉ聞いていますがぁ、私の頭の片隅に“アリザリン”という名が浮かぶぅ。覚えてはいないがぁ、その名に懐かしさを感じますぅ」


「だから、メイズとアリザリンを合わせて、“メイザリン”と名乗りますぅ」


「これからはぁ、メイザリンと呼んでもらいたいぃ」


このようなわけで、冒険者ギルドは新たなSランク冒険者メイザリンの誕生を中央平原の各国に宣伝し、その名声をさらに高めることにしたそうです。


(作者に代わってエクレアからの一言メモ)◇◇◇◇◇◇◇◇◇


説明を入れるタイミングがありませんので、ここで付け加えておきます。


アリザリンは、もともとメイズを強く慕っており、その縁で魔王カーマインに与するようになりました。


メイズはそのことをずっと気にかけていましたので、記憶を消されても「アリザリン」という名だけは残っていた――そうお考えください。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一方そのころ。


元ウィスタリア聖教国の地では――


私「黒の治癒士」の目の前には、かつてウィスタリア聖教国であった土地が広がっていました。


かつては、神に祝福された土地として羨ましがられていたはずの場所。


ですが今では、荒廃し、土地はやせ細り、見る影もありません。


数年が経ったころ、この地にも、わずかに生き残った人たちが助け合いながら細々と集落を作り、狩りや漁をして暮らし始めました。


私は、生まれ故郷であるこの地の人々を見捨てることができません。


本当なら、このあと私は治癒士としてリコリス伯爵領へ出向くつもりでした。


ですから、しばらくはリコリス伯爵領と、元ウィスタリア聖教国の土地とを交互に行き来しようと考えたのです。


赤髪の騎士とメイズには、この地を離れてもらいました。


彼らには、冒険者ギルドを守るという大切な役目がありますから。


私は聖属性の力で土地に祝福を与え、活力を取り戻させ、作物が育つようにしました。


せめて、いくつかある集落が自力で生きていけるようになるまでは、定期的に訪れようと思ったのです。


その後も私は、この土地を訪れるたび、目立たないよう姿を隠しつつ、村人たちに助言を与えたり、土地に祝福を与えたりしていました。


やがて、集落の人々は私を聖女として扱うようになったのです。


そのきっかけは、暗黒邪虎を倒して十年後のことでした。


ある時、この一帯を疫病が襲ったのです。


もともと少ない人口がさらに減り、大人も子供も次々と倒れていきました。


私はその知らせを聞き、あわててリコリス伯爵領から飛んできて、その地域一帯へ強力な全体治療魔法をかけました。


このころは、まだ治癒士としての活動だけで時間の融通が利いたのです。


もう少し後であれば、リサさんの嫌がらせで伯爵家のメイドとして仕えることになっていたため、こうして動くことはできませんでした。


そんなわけで、疫病に苦しむ人々へ回復魔法を施したのですが――結果から言えば、疫病を治すことに成功しました。


これがきっかけで、集落の人々は感激し、私を命の恩人だと崇めるようになったのです。


そしてついた二つ名が――「黒髪の聖女」。


「黒い髪と黒い瞳を持ち、女神と見まごうばかりの美貌を持つ聖女様が、慈愛あふれる奇跡の力で我らを救ってくださった」


「この方こそ、我らの女神様だ」


そう言って、各集落の人々から崇められ、尊ばれることになったのです。


・・・・少し恥ずかしいですね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


集落のことも一段落し、リコリス伯爵領から戻ってきた私は、少し時間が空きました。


この機会を使って、私は以前から気になっていたことを創造神エクレア様にお聞きすることにしたのです。


――なぜ、ウィスタリア聖教国に暗黒邪虎を放ったのか。


するとエクレア様は、はっきりとこうおっしゃいました。


「かつてご主人様に、自爆用魔道具を取り付けさせた報いを与えたかった」


やはり、あの一件は腹に据えかねておられたのですね。


・・・・私もですけれど。


ちなみに、コパー農業国という国も、ご主人様であるホワイト様を冷遇し、正当な報酬を与えなかったため、報いを受けさせたと聞きました。


その報いの内容は、「創造神の呪い」。


――王を以て民となし、民を以て王となす。


その呪いを受けた国では、いずれ王族が平民のように扱われ、平民が王族のように振る舞うようになるというのです。


王族が平民扱いされ、平民が王族のように振る舞う。


そんなことが本当にあり得るのかしら。


でも、エクレア様の呪いですもの。


きっと、そうなるのでしょうね。


・・・・想像はつきませんけれど。


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