クラレット・ラベンダー共通エピソード1 ~創造神の怒り~主人の痛みを、メイドは忘れない~ 第1話
「勇者の聖戦」から30年後。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「やっと準備が整いましたわ。ご主人様の魂も無事に霊界へ行くことができましたし」
「30年ほどかかりましたが、ようやくウィスタリア聖教国の神官に罰を与えることができます」
エクレアはだれもいない広大な屋敷で一人たたずんでいた。
「ご主人様であるホワイト様へした仕打ちを私は決して許さない。いま、報いを受けよ」
その右手には魔力が込められていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ある日の昼下がり。
私は、プラチアーナ公爵領の中心である領都の大通りを歩いていました。
その時です。
急に、身体にぞくりと寒気が走りました。
う、急にこれは風邪・・・・ではなくて、エクレア様の怒りの波動では。
私の名は、ラベンダー。
この世界で唯一絶対なる創造神エクレア様の使徒の一人であり、かつては「空の勇者」と呼ばれていました。
もっとも、その名はもう使いません。
使徒として、別の名も頂いていますから。
今の私は、エクレア様の命を受け、このプラチアーナ公爵領で冒険者として活動しようとしていました。
この領都にある冒険者ギルドで登録をすれば、冒険者として働くことができます。
担当は回復魔法ですので、一般的には治癒士と呼ばれるかもしれません。
冒険者ギルドでは、私は「黒の治癒士」という名前で呼ばれています。
・・・・この名前、なんだか性格が悪そうに聞こえますけれど、違いますよ。
私の黒髪から名付けられたのです。
さて、それはともかく。
エクレア様は、何かひどくお怒りのようですね。
一体、何が原因なのでしょう。
あの方は、いつも穏やかで、ご主人様のこと以外ではめったに感情的にならない方なのですが。
そんなことを考えているうちに、目当ての冒険者ギルドへ着きました。
実は、ここで待ち合わせをしているのです。
相手は、「赤髪の騎士」。
冒険者ギルドSランクの、不動のエースである方です。
その正体は、私の幼なじみでもあり、同じく創造神様の使徒でもあるクラレット君でした。
・・・・あ。
クラレット君も私と同じように、以前の名前はもう使わないと言っていましたね。
では、私も気をつけることにしましょう。
「久しぶりだね」
「うん、久しぶり。ざっと30年ぶりかしらね」
私と赤髪の騎士――かつてのクラレット君は、冒険者ギルドの広間で再会しました。
別れたのは、それこそ魔王討伐以来。
ですから、本当に久しぶりです。
しかも、お互いまったく容姿が変わっていない。
なんなら、少し若返っているくらいです。
「ふふ。とても変な気分ね。それこそ、ウィスタリア聖教国で騎士団をしていたころと変わらないわ」
「君こそ。黒の治癒士どの」
赤髪の騎士も、にっこり笑って応えてくれます。
ちなみに、私たちはお互いの素顔が見えていますが、他の人には認識阻害の魔法で素顔が分からないようにしています。
なぜなら、自分で言うのも恥ずかしいのですけれど、私たちの素顔はどうにも人を惹きつけすぎるらしく、多くの人に言い寄られてしまうからです。
それを避けるために、あえて素顔をさらさないようにしているのです。
「だけど、あの、クラレット君・・・・って、女の人だったっけ?」
私は、目の前にいる赤髪の騎士の胸元を見て問いかけました。
どう見ても、男性の胸板ではなく、女性特有のふくらみに見えたのです。
「そうなんだ。ぼく、実は女性だった」
そう言って、彼女は顔を赤らめました。
その表情があまりに可愛らしくて、女の私でもどきどきしてしまいます。
そして彼女は、なぜそうなったのか、その事情を説明してくれました。
私は話を聞いて、なるほどと納得しました。
ですが、そうなるともう一つ、気になることが出てきます。
「ねぇ。もう一つ聞いていい?」
「・・・・いいよ。ホワイトのこと、だよね」
「・・・・ホワイト君のこと、女として好きだった?」
「・・・・うん。好きだった」
「だましていたつもりもなかったし、邪魔するつもりもなかった。むしろ、ラベンダーとホワイトのことは応援していたつもりだったよ」
「ぼくは、ラベンダーがホワイトの子供を産んだことも知っているし、そもそも、あの夜、ホワイトのいる宿屋へ君を連れていったのは、ぼくだ」
あの夜。
魔王討伐を目前に控えた晩、私はどうしても、大好きなホワイト君と一晩だけでも過ごしたいと願いました。
それを幼なじみだったクラレット君――今の赤髪の騎士にお願いして、無理を言って連れていってもらったのです。
そしてその晩、私とホワイト君は結ばれました。
数か月後、ホワイト君の子供が身体に宿っていると分かった時、どれほど嬉しかったことか。
その時のことを思い出した私は、しばらく黙り込んでしまいました。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、赤髪の騎士は静かに問いかけてきます。
「幸せだったかい?」
ホワイト君とともに生きることは叶わなかった。
けれど、大切な忘れ形見であるグレー。
そのグレーと過ごした穏やかな日々は、私にとってかけがえのない宝物です。
「うん・・・・幸せだった」
私は、頬を赤らめながらそう答えたのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ウィスタリア聖教国は、業火に包まれていた。
その中心にある国都は、すでに瓦礫の山と化している。
宮殿に住まう神官や、国の最高指導者である大神官も、とっくに命を落としていました。
原因は、「創造神がつくりし七つの邪悪な災厄」の一つ――暗黒邪虎。
虎の形をしたその魔物は、黒雲に覆われた空の上から突如として現れました。
その巨体は宮殿に匹敵するほど巨大で、この世の生き物とは思えないほどの大きさです。
しかも、凶悪なうなり声とともに、破壊の魔力を帯びた咆哮を放っていました。
暗黒邪虎は、口から炎をまき散らし、その巨大な爪の一振りで多くの建物を破壊しました。
さらにその咆哮と魔力によって、ウィスタリア聖教国全域は、まるで天変地異に襲われたかのように次々と崩れていったのです。
ウィスタリア聖教国が誇る騎士団が出動する間もなく――
たった一夜で、ウィスタリア聖教国は地図の上から消え去りました。




