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ラベンダー編エピソード1  勇者は癒やし手となり、神の試練を終える   第1話

「勇者の聖戦」から31年後。


「空の勇者ラベンダーは死んだのです」



私はかつて、空の勇者として魔王討伐の旅をしていました。


仲間にも恵まれ、魔王討伐そのものは果たすことができました。


けれど、その旅のさなか。


私は、心から愛する人を失ったのです。


あの時、私の心は折れかけました。


そんな私を救ってくださったのが、創造神様でした。


もったいなくも私はその御手に拾われ、いまは創造神様の使徒となることを許されています。


もっとも、使徒となった今でも、私には捨てきれないものがありました。


愛する人との思い出。


そして、その人との間に授かった大切な子供――グレーです。


グレーが一人前の冒険者として世に出ていくのを見届けたあと、私は本格的に使徒としての務めに就きました。


その任務のために、私は一つの名前を捨てています。


ラベンダー。


その名を名乗れば、どうしても目立ってしまうからです。


空の勇者ラベンダーとして知られたままでは、果たせない任務がある。


だから、空の勇者ラベンダーは死んだのです。


今の私はただの治癒士。


それも、魔王の侵略で荒れ果て、復興もままならない都市に流れ着いた、どこにでもいる一人の女として生きていました。


・・・・いや。


本当は、どこにでもいる女ではないのでしょう。


私は30歳の子供を持つ身でありながら、創造神様の使徒となったことで、17、8歳ほどの見た目のまま老いなくなってしまったのですから。


だからこそ、わざと年を取った化粧をしていました。


男の人に余計な興味を持たれないようにするためです。


ホワイト君以外からの好意など、私には必要ありませんから。


そんな私が向かったのは、神聖ゴールド聖教国のとある伯爵領の都市でした。


その都市は、特に魔物の被害がひどい場所でした。


食料も足りず、傷病人も多く、復興は遅れている。


治癒士はいくらいても足りない――そんな有様だったのです。


ちなみに、エリューシオン教会の聖女様は地理的に遠く、この都市まで来るのは難しいとのことでした。


幸い、私は数多くの魔法を扱うことができ、回復魔法も得意です。


ですから、治癒士として登録し、この都市の治癒所で働くことにしたのです。


しばらくして。


傷ついた人々を何人も癒やしているうちに、こんな言葉をかけられるようになりました。


「あんたの回復魔法、すげぇよく効くよ。本当に助かった。ありがとう!」


「それどころか、嬢ちゃんみたいな凄腕の回復魔法の使い手が、こんな辺鄙な都市に来てくれるだけで町のみんなは大喜びさ!!」


ありがたい話ではあります。


けれど――


嬢ちゃん、て・・・・。


わたし、これでも30歳の子供がいるおばちゃんなんだけどな。


他にも数人の治癒士はいましたが、私の魔力量は特に大きく、回復魔法の効き目も強かったので、重傷者を多く受け持って治療していきました。


それから一年ほどが過ぎました。


治癒士として活動を続けていると、徐々に重傷患者は減っていき、復興作業も目に見えて進んでいるようでした。


都市の周囲をぐるりと囲む城壁も、日を追うごとに高くなっていきます。


道行く人たちの顔にも、少しずつ笑顔が戻ってきているように思えました。


「回復魔法をかけてくれてありがとう」


「今日もいい笑顔だね。あんたを見ているだけで疲れが吹っ飛ぶよ」


「あの、このあとよかったら僕と食事に行かないかい。おいしい店を知っているんだ」


そんなふうに、こんなおばさんの私にも、たくさんの人が声をかけてくれます。


特に男性からのお声が多い気がしますが、気のせいでしょうか。


ところが最近、明らかに私自身を目当てにした誘いが増えてきたようで、どう断ろうか悩むことが多くなってきました。


どうやら私は、男性から好意を持たれやすい容姿をしているようで、勇者時代にも貴族や領主様からそうしたアプローチを受け、困ったことがありました。


ホワイト君以外からの男性の好意は、正直言って要りません。


ですので、この都市へ来るにあたり、特に念入りに年を取った化粧をしておいたののです。


男性から好意を向けられにくくするために。


30歳の子供がいるとはいえ、創造神様の使徒になると、永遠の若さを得てしまいます。


17、8歳ほどの見た目にだまされて、自分より年上の子を持つおばさんに興味を持たれては困るのです。


仕方がないので、さらに認識阻害の魔法をかけておきました。


そのおかげで、私の顔を見ても微妙な表情をされる程度にはなりました。


これで、さすがに興味を持たれなくなるでしょう。


さらに十数年が過ぎて。


私は変わらず治癒士として活動を続けていました。


以前ほど忙しくはなくなったので、時おり暇を見つけては、愛する子供グレーと、その家族に会いに行くこともしています。


グレーはすでに妻を娶り、子供までいるのですよ。


私もおばあちゃんですね。


ですが、治癒士として活動しているこの都市では、以前ほどではないにせよ、いまだに男性から誘いを受けてしまっていました。


顔も雰囲気も、認識阻害魔法でかなり地味にしているはずなのですが・・・・なぜでしょう?


何度目かの断りを入れたあと、ため息をついていると、後ろから治癒士たちの管理をしている責任者のおばさまが声をかけてきました。


「あんたは気立てが良くて聞き上手なうえに、男を立てるからね。みんなあんたに好感を持っちまうんだよ。気にしなくていいさ」


そう言って、カラカラと笑います。


「十年以上もこの都市にいて、治癒士としてあんたを見続けている奴らも多いんだ。それこそ子供のころからね」

「あんた、あたしより年上だろうに、全然そんな雰囲気を感じさせないだろう」


「見た目が美人じゃなくても年が分からないんだ。そんなあんたの内面を知って興味を持って声をかけてくれるんだから、そんなため息をつくことじゃないよ」


「まあ、あんたが嫌だって言うなら、目立たない場所への配置換えも考えてやるさ」


「あんたとは逆に、目立つところが好きな娘もいるからね」


責任者のおばさまは、少し離れたところにいる金色の髪の女性へ目を向けました。


その女性は人目を引く容姿をしており、回復魔法の力も強く、顔立ちも整っている美人さんでした。


最近、治癒士として加わったばかりの若い少女です。


たしか、リサさんといったかしら。


リサさんは男性からの人気も高く、本人もそれを自覚していて、周囲に自慢しているところがありました。


ですから、彼女にもっと目立つ場所へ出てもらおうという話なのだと、すぐに分かりました。


しかも、リサさんはなぜか私に敵対心を持っており、私も扱いに困っていた相手です。


私のいる場所と交代させるとなれば、きっと喜ぶでしょう。


さっそくその旨を伝えると、リサさんはこちらを見ながら、口元を歪めて言いました。


「そうよねぇ。私のような者が目立つところにいないと、誰に回復魔法をかけてもらえばいいか分からなくて、皆さん困りますわよねぇ」


「ふふふ、あ~ら、ごめんなさいね。私のほうが回復魔法の実力も容姿も上なのでねぇ。ほんと、なんであなたみたいな地味ブスが男にもてるわけ?もっと隅に引っ込んでなさいよ!!」


ずいぶんな言われようです。


はあ。


もう、好きに言ってください。

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