第2話
護衛に就いて三日目。
さっそく刺客が現れた。
王女殿下が公務として、王城下の町へ出ることになった時だ。
コバルト王国は、ただでさえ王族の権威が低い。
だから少しでも存在感を示すため、王女が国民の前に姿を見せる機会を作っているらしい。
もちろん本来の護衛である近衛騎士団も警備にあたっていた。
それなのに、王女殿下は狙われた。
最初に異変に気づいたのは、王女付きの専属侍女だった。
どうやらこの侍女、護衛の心得があるらしい。
王女の前にいる平民の一人が、他とどこか違うと気づいたのだ。
「無礼者!!」
そう叫ぶや否や、侍女は王女の前に飛び出し、自らの身をさらした。
その動きに反応した刺客が、侍女ごと王女を突き刺そうとした瞬間――
ぼくはその武器を叩き落とし、刺客を拘束した。
ほんの一瞬の出来事だった。
「おお~~。あなた、強いのねえ。お顔だけじゃなくて武術にも優れているなんて。私の専属護衛にして正解だったわ~~」
王女殿下は、のんきにそんなことを言っている。
その後、刺客は近衛騎士団へ引き渡され、背後関係を吐かせることになった。
しかし、近衛騎士団まで動員されているのに、白昼堂々と刺客が襲ってくるとは。
ぼくは、コバルト王国の王族がどれほど軽く見られているのか、改めて思い知らされた。
そして襲撃は、それで終わらなかった。
二度目は弓。
三度目は遠距離魔法。
公務に出るたびに、王女殿下は狙われた。
そのたびに近衛騎士団はほとんど機能せず、結局ぼくが処理することになる。
よくこんな練度で近衛騎士団を名乗れるな、と、逆に感心してしまったくらいだ。
ただ、そのおかげで一つ都合のいいことも起きた。
王女殿下との距離が縮まったのである。
刺客を退けるたび、王女殿下はぼくを見る目を変えていった。
最初は見た目だけで気に入っていたのが、次第に本気で頼りにするようになったのだ。
・・・・そして、ついには告白までされた。
「私はあなたに出会うために生まれてきたのよ。ねえ、あなたもそう思わない?この世界に、あなたと私、二人きりになりたいわ」
はあ。
頭が痛い。
何度も命を狙われているのに、この台詞である。
危機感がないのか。
頭が弱いのか。
それとも現実が見えていないのか。
もし、護衛として有能なぼくを引き止めるための打算なら、まだ救いがある。
だけど、どうもそうではなさそうだ。
こんなのしかいない王族を抱えているなら、この国は早晩潰れるかもしれないな――と、ぼくは思ってしまった。
そして王女殿下の変化は、別の面倒も引き起こした。
婚約者であるフリード侯爵子息が、あからさまにぼくへ嫉妬するようになったのだ。
それ以来、彼はぼくを見るたびに、平民のくせに生意気だの何だのと、好き放題に侮辱を浴びせてくるようになった。
こんな時、ぼくが元ゴールド王国の王太子だと言えれば、どれだけ楽だったろう。
だけど、それはもうできない。
女の身になったこともある。
それ以上に、自分でその身分を捨てたのだ。
ただ、この経験でよくわかったこともある。
平民とは、貴族からここまで理不尽な侮辱を受けるものなのだ、と。
その時、ぼくはホワイトのことを思い出していた。
平民であったホワイトを、下手に引き上げれば周囲に嫉妬される。
その同じことを、ぼくはホワイトにしてしまった。
あの時、ぼくは勝手な自己満足でホワイトを将軍に推薦したことがある。
あんなことをすれば、どれだけ周りに嫌な顔をされたか。
どれだけ嫌がらせを受けたか。
ぼくは、本当の意味でホワイトの気持ちをわかっていなかったのだ。
大切にしたいと思っていたのに、かえって傷つけていたのかもしれない。
そう思った瞬間、後悔で涙が込み上げた。
ホワイト・・・・ごめん。
それ以来、ぼくはフリード侯爵子息からの侮辱を避けるため、あえて王女殿下に付き従う位置から少し距離を取るようになった。
その代わり、王女殿下には公務を控えてもらった。
さすがに自分が狙われていることは理解しているし、ぼくを信頼するようになった王女殿下は、その言葉には従ってくれた。




