クラレット編エピソード1 コバルト王国の護衛任務――能天気王女、我が道を行く 第1話
「勇者の聖戦」から1年後。
ぼくは変わらず、冒険者ギルドのSランク冒険者として活動している。
ギルドに持ち込まれる最高難度の依頼や、あまりに厄介で他の者には任せにくい仕事は、たいていぼくの担当だ。
そして今回もまた、ずいぶん面倒そうな依頼が舞い込んできた。
それも――ぼく、「赤髪の騎士」指名で。
依頼内容は、ある国の王族の護衛だった。
その国は政情が不安定で、王族は常に命の危険にさらされているという。
しかも王族の権威は低く、護衛を引き受けたがる者がほとんどいない状態らしい。
本来なら、王族の護衛など冒険者ギルドの範囲外だ。
だからこそ無理を押して、ギルドへ依頼が回ってきたのだろう。
その国の名は、コバルト王国。
プラチアーナ領から南にある小国だ。
ぼくはすぐに支度を整え、現地へ向かった。
三日ほどでコバルト王国に入り、さらに王都を目指す。
道中、町の様子を見ていたが、政情不安のわりには活気があった。
統治している地方貴族は、それなりに優秀なのかもしれない。
そんな感想を抱きながら、ぼくは王都へ入った。
門番に身分を伝え、依頼主である宰相と対面する。
「これはこれは。私は依頼人であり、この国で宰相を務める者です。お見知りおきを・・・・それで、あなたがSランクの?」
露骨に疑わしそうな目だった。
まあ、無理もないか。
見た目だけなら、ぼくは17、8の小娘にしか見えない。
だけど、ぼくも冒険者ギルドを背負っている身だ。
いちいちこういうところで躓いてはいられない。
だから、けん制の意味も込めて、ほんの少しだけ魔力を解放した。
びゅう、と風が巻く。
ぼくを中心に、圧縮された魔力が風となって吹き荒れた。
近くにいた護衛騎士たちはたちまち顔色を失い、戦意を喪失した。
中には腰を抜かす者までいる。
それを見て、宰相の態度は一変した。
「し、失礼いたしました。侮辱するつもりは・・・・」
「ここからは依頼の内容をお話ししたいのですが、よろしいでしょうか?」
やっと本題に入れるらしい。
宰相の話を聞くと、依頼内容はやはり王族の護衛だった。
特に国王の一粒種である王女殿下を守ってほしいという。
もちろん国王にも騎士団の護衛はつく。
だが王女には、そこまで人員が割けないらしい。
とはいえ、王族の護衛など本来は冒険者の仕事ではない。
戦う力と、護衛として人を守る力は、似ているようで別物だからだ。
だけど、ぼくはそれを承知でここへ来た。
冒険者でも王族の護衛ができる――そう示すために。
だからこそ、この依頼は何としても成功させなければならない。
そう思いながら、ぼくは頭を下げた。
「承知いたしました。王女殿下の護衛の任、身命を賭してお勤めいたします」
そうして、ぼくはさっそく王女殿下のもとへ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
王女殿下の部屋は、城のかなり奥まった場所にあった。
ぼくはメイドに案内され、その部屋の前まで来る。
こんこん、とメイドが扉を叩く。
「護衛の方がお見えになりました。入ってもよろしいでしょうか」
すると、中から返ってきたのは、予想に反して男の声だった。
「いま、王女殿下は体調が悪い。あとにしてもらえるか」
それを聞いたメイドは、またか、という顔をして言った。
「その声はフリード様ですね。あれほど勝手に入ってはいけないと申し上げたのに」
すると今度は、きっぱりとした女性の声が響く。
「いいのよ。私が許可したの。あなたも入りなさい。連れてきた護衛の方もね」
おそらく、王女殿下の声だろう。
ぼくは部屋へ通され、王女殿下と、その隣に立つフリードという男と対面した。
フリードは侯爵子息であり、王女殿下の婚約者らしい。
だから特別に部屋へ入れてもらえるのだと、あとでメイドが教えてくれた。
ぼくが護衛としてのあいさつをすると、王女殿下はなぜか、じっとぼくの顔を見つめた。
そして、開口一番こう言った。
「まあ、あなたのお顔、中性的でなんて美しいのかしら。合格よ。あなたは私のそばにいる資格があるわ」
・・・・この王女殿下、自分が命を狙われている自覚はあるのだろうか。
いや、ないんだろうな。
しかも、やっぱりぼくの顔は女性受けしやすいらしい。
王太子時代も、その前の第三騎士団団長時代も、夜会では令嬢や婦人方によく言い寄られたものだ。
一方で、隣に立つフリード侯爵子息は、その様子をあからさまに忌々しそうに見ていた。
「しっかり護衛の役目を果たしてもらいたいものだな。その体を盾にしてでも、王女殿下をお守り申し上げろ」
早く死んでほしそうな口ぶりだな、とぼくは思った。
でも一つだけ安心したこともある。
どうやら、ぼくが実は女性だとは気づいていないらしい。
こうして面倒な顔合わせを終え、ぼくはその日から王女殿下の護衛任務についた。




