『それぞれの報告』 その15
少し間を空けたジャックは、気を取り直してエイラに問う。
「……話を戻すが、エイラは心当たりが無いんだな? ジコウの言う……『戦う理由』とやらに」
「……ありません」
「本当に無いんだな?」
「ありませんよ。……じゃあ、逆に聞きますけど……。もし私が、ジコウの言う『戦う理由』を知っていたとしたら、どうするつもりなんです?」
「それは…………内容による」
思い掛けない質問返しに、ジャックは少し言葉に詰まりながら答えた。そして鼻で小さくため息を吐いて間を置くと、次の話題に話を変える事にし、相変わらずの表情で口を開いた。
「……まぁ、それはそれとして……もういいだろう。エイラが知らないなら……どうしようも無い。ジコウへの取り調べも出来んしな。
それで、二つ目の話だが…………」
ここでジャックは再び言葉に詰まり、エイラから目を逸らした。それを見たエイラは、ジャックに問い掛ける。
「……何か、話しにくい事ですか?」
「……まぁ、それもあるが……。どちらの話からするか、ちょっと決めかねてな……」
「どうせ話すなら、どっちから話しても同じじゃないです?」
「……まぁ、そうだな……」
最後は微笑んで声を掛けたエイラに、ジャックも微笑みが漏れ、相づちを打っていた。そしてジャックは話を再開する。
「二つ目は……ライルの事だ」
「……ライルがどうかしたんですか?」
「あぁ。……あいつ、ジコウが引き連れてきた友好派の連中を引き取りに、護衛を連れてあの場に来たんだが……。
あいつ、相変わらずポンコツでな……」
「……仕方ありませんよ。……だってライルですから」
「そうかもしれんが……。あいつは今、友好派の長だ。それはエイラも分かっているだろう?」
ジャックはエイラに問い掛けつつも、彼女からの返事を待たず、すぐに言葉を続ける。
「そもそも今回の件、友好派のオトナがしっかりと若者を教育していれば、こんな事にはならなかったハズだ。それを……有ろう事か、友好派が独立派に喧嘩を売ってきた様な状況になったんだぞ? 人間も同じ事が言えるとはいえ、友好派は……同胞だ。
そして……その友好派の長はライルだ。本来なら、ライルが周りのオトナ達に、そういう事をしっかりと通達し、監督すべき立場のハズだ。……なのに……」
ここでジョイがジャックの言葉を遮った。
「……私は時々、友好派に飛ぶ事があるから、ライルとは度々顔を合わせていたわ。……まぁ、昔から変わらないわね。ライルは……」
「…………」
ジョイの言葉を聞き、ジャックはため息混じりにうなった。そして一呼吸置き、しかめっ面をエイラに向けて彼女に問う。
「エイラ……。昔から不思議に思っていたんだが……」
「……何ですか?」
「どうしてその~……、ライルをパートナーに選んだんだ?」
「……確かに、それは私も気になるわ。……これまで聞いた事が無かったし」
ジャックの問いにはジョイも同調していた。尚もジャックは問いを重ねる。
「その……エイラには悪いんだが、ライルの……どこが良かったんだ? 昔からポンコツだったぞ?
……エイラがライルと同い年なのは知っているが、もしかして……同い年だからパートナーになったのか……?」
その問いに、エイラは満面の笑みを向けて答える。
「フフ……。何ですか? ジャック。……もしかして、私とパートナーになりたかったんですか?」
「そういう事を言ってるんじゃない。俺は昔から、恋愛には興味無かったからな。……他にまともな男なんて、友好派にはいくらでもいただろうと言ってるんだ。だから……」
「フフ……。くすぐられるんですよ、母性本能が」
「……は?」
エイラの答えに、ジャックとジョイは目を丸くし、同時に一声漏らしていた。エイラは尚も満面の笑みのまま続ける。
「フフ……。だって、あんなにポンコツなドラゴン、そうそういませんよ」
「い、いや……それはそうだが……」
「だから、見ていて面白かったんですよ」
「……まさか、それだけの理由で……パートナーになったのか……?」
「フフ……。でも、告白したのはライルだったんですよ? 私が独立派に行くと決心していたにも関わらず、ライルは……私に熱心にプロポーズしてきたんですよ。
……当時は私達も、それぞれの長ではありませんでしたし、その時は……それでいいと思っていましたよ。……その時は……」
エイラはここで言葉を切り、一呼吸間を空けた。そして微笑んだ彼女は、昔を思い出す様に少し目を細め、続きを口にする。
「そして私はライルとパートナーになり、すぐに独立派へと渡りました。……そして、独立派で迎えた最初の厄災を戦い抜き……私は長になりました。
ライルが長になったのは、私が長になったと知ったからなんです。……ライルはポンコツですけど、友好派をまとめようと……友好派を良くしようと……。あれは彼なりの決意だったんです」
「それは……知らなかったな……」
「私もそれは初めて聞くわ」
エイラの赤裸々な告白に、ジャックとジョイは意外な顔を彼女に向けて呟いていた。しかしここでエイラは表情を一変し、顔をしかめて続ける。
「そう、そこまでは……良かったんです。そこまでは……」
「……何だ、何かあったのか……?」
「そこから、ライルのポンコツな部分が出てしまったんですよ」
「……もしかして、あの……遠征訓練か……?」
「……そうです。……お話し出来ない事も含めると、他にもありますけどね」
「…………」
ジャックはそれ以上、その話を深入りする事は避けた。それは、エイラの表情と言葉から、隠しきれない怒りが感じられたからだ。
鼻で小さくため息を吐いて間を開けたジャックは、少し真剣な顔付きをしてエイラに声を掛けた。
「あぁ、そういえば……。ライルから伝言を頼まれている」
「……何ですか?」
「いや……。ただ、『宜しく伝えておいてくれ』……と」
「……それしか言わないんですよ、ライル」
「…………」
「しかもそれ、遠征の時のショーナにも言っていたんですよ?」
「な……!」
今のエイラの言葉に、ジャックとジョイは目を見開いて驚いた。エイラは怒りが見え隠れするしかめっ面で、話を続ける。
「信じられます? あの時、自ら追い払っておきながら、『エイラに宜しく伝えておいてくれ』……なんて、ショーナに言うんですよ? 自分の立場も明かさずに」
「ウソだろ……!?」
「ウソなものですか。疑うなら、ショーナに直接聞いてみればいいですよ。私はそれを聞いて、本当に『玉綿が煮え繰り返る』思いだったんですから」
それを聞いたジョイは、すぐに口を挟む。
「エイラ。あの時のあなたの気持ちは理解しているけど……。『玉綿』じゃなくて……『はらわた』よ」
「どっちも同じですよ、そんなの。……思い出したら、段々腹が立ってきました。一体、どういうつもりなんですかね? ライルは……!」
「……私が悪かったわ、エイラ……」
ジョイはエイラの気持ちを察しつつ突っ込んでいたが、思った以上にエイラが「ご立腹」だった為、鼻で小さくため息を吐き、平謝りして話を引っ込めた。そこにジャックが気まずそうに問い掛ける。
「そういえば……。まだショーナには言ってないのか? その……ライルが父親だという事を……」
「どう言えと言うんです!?」
「あー……いや、それは……」
「『友好派であなた達を追い返して、私への伝言を頼んだ黒いドラゴンが、実はあなたの父親だったんですよ』……とでも言えばいいんですか!?
言える訳無いじゃないですか! あんなにうな垂れて帰ってきたというのに!」
「……まぁ……そうだよな……」
ジャックは気まずそうに目を逸らし、右手の指で顔を掻きながら相づちを打った。そして鼻で小さくため息を吐いて一呼吸置き、改めてエイラに視線を向けて問う。
「じゃあ……。もし今後……ショーナに聞かれたら……、どうするつもりだ……?」
「私が聞きたいですよ!」
「……すまん……」
「こんな事になるなら、最初に聞かれた時に……『じきに会える』なんて、言わなければ良かったと……!」
「……それは、いつの事なんだ……?」
「あの子が五歳の頃です。……その後も、あの子は度々父親の事を口にしていましたから、今でも覚えていると思います。……確実に」
「……まぁ、ショーナだからな……」
憤りながら言うエイラの言葉に、ジャックは再び目を逸らし、鼻で小さくため息を吐いてから呟いた。エイラはある程度落ち着いたものの、未だ不満そうな顔をして愚痴をこぼす。
「……いっそ、『闇の魔物と戦って、命を落とした』……と、その時に言っておけば……、こんな事にならずに済んだのに……」
「……それはそれで、あの子が悲しむでしょう? エイラ……」
「……では、遠征の時に追い返してきたドラゴンが、実の父親だと知ったら……。ショーナはどう思うと思います?」
「…………」
「……本当、最悪ですよ、ライルがした事は。……本当、ポンコツなんですから」
エイラは、自身の愚痴になだめに入ったジョイへ不満を吐き出し、最後はため息を吐いて小言を漏らしていた。




