64 戦況
およそ1年弱前のウェンユェ・シンウーによる大統領殺害から始まった反連邦組織『リャーヴェ』の蜂起。および連鎖的に発生した各地の反連邦勢力の一斉蜂起は、この1000年で類を見ない大反乱となった。
大陸の西部にある『戦の国』を源とし、染みが広がるように地図は塗り替えられていく。
各地に散らばる複数の反連邦組織は次々と『リャーヴェ』に合流。一大勢力と化した。規模はもはや国家間の全面戦争だ。
人類大陸を統べる連邦と、たかだか一国家を中心とした武装勢力。国力の差は歴然であるはずなのに、連邦は苦戦を強いられている。
これは現代人類の中で唯一の武闘勢力である『戦の国』が、平和に慣れ過ぎた連邦の敵になったためだった。
『戦の国』から離れた、例えば東端にあるような組織の者たちは、わざわざ密かに大陸横断までして合流したという。
合流せず単独で蜂起した小規模勢力もあったが、それらは冒険者や地元の騎士に鎮圧されたようだ。
大陸の3分の1を落とした反連邦勢力は、現在二面作戦を行ってる。
ひとつは『贄の国』方面、もうひとつは『布の国』方面。
しかし、実のところはもう一面、『樫の国』――アイリア学園が修学遠征に使うエデミナ大森林を有する国へ侵攻する軍もあった。
『戦の国』に他の組織、奪い取った国々から徴兵した者からなる約2万の兵が獅子将軍と豹将軍に率いられ『樫の国』を攻めた。
しかしこれは、壊滅。
準勇者部隊という、たった12人の聖剣氣を持つ部隊によって、趨勢が決したのだ。
彼らはその名の通り、勇者に次ぐ戦闘能力を誇る、勇者を除いた人類のトップ12と言っても過言ではない者たちだ。
その精鋭部隊がまず敵陣を楔のように貫き、2人の将軍を討った。『布の国』で行われた特攻の成功版のようなものだ。その後も指揮官を優先的に狙い、堂々の凱旋を果たす。
さらに冒険者と協力し、エデミナ大森林の隠密性を活かし伏兵で敵の虚を突き、被害を最小限に勝利をあげたのだ。
これにより反連邦軍は軍として動けなくなり、壊滅。よってこの戦線は連邦側の勝利で幕を閉じた。
これまで破竹の勢いだったが故に、反連邦は慢心していた。準勇者部隊など恐るるに足らず。それが敗因だった。
一方『贄の国』方面は、さほど大規模な戦闘もなく反連邦の勝利。
3つある戦線のうち2つに決着がつき、残るは『布の国』戦線。
未だ決着がつかないこの戦線に、互いに援軍が向かっている。
おそらくは、ここが、この戦争の行く末を決める場所だった。
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『布の国』と『檻の国』の境で大規模な戦闘が始まるしばらく前、『贄の国』は反連邦勢力によって制圧されていた。
連邦の苦渋の決断によって、ほとんど見捨てられたようなものだ。
『リャーヴェ』筆頭であり反連邦軍の総大将、ガラニカ・カンカリオは物足りなさを隠すことなく、王城の玉座に座る。
本来の主は既にこの世にいない。ガラニカは当たり前のように、この場所をわが物とした。
「お前が使者か」
尊大という言葉を体勢にしたような座り方で、まるで謁見のように彼が見下ろすのは、1人の中年男。連邦からの使者だった。
「『戦の国』ガラニカ・カンカリオ殿とお見受けする。連邦外務官のシェシ・ローベスだ。ここへは交渉にやってきた」
「ハハハッ、『柱の国』の侯爵が交渉役か。そりゃいい」
連邦はこれまでも、これ以上は一滴でも血を流させまいと様々なルートを使って反連邦勢力に接触しようとしていたが、すべてが失敗に終わっていた。
それは反連邦側が、一切の使者を拒絶していたからだ。強引にいこうとすれば、殺される者もいた。
和平どころか話し合いすら不要と言わんばかりの態度にめげず、連邦は何度も交渉を画策する。
そして、最後の希望ともいうべきルートでやってきたのが、侯爵にして名ばかりの外務官だったシェシだった。
彼がこうして生きて敵のトップと会えている時点で、連邦の苦労が報われていると言っていい。
「しかし、俺はすべての使者を断るよう言っていたはずだがな」
「我々の話し合いによって何が生まれるかを、知っている者がそちらにもいるということだろう」
「まぁいい。それで、用件はなんだ?」
「単刀直入に言う。今すぐ戦闘行為をやめていただきたい」
「却下する」
「っ、話くらい聞いてくれてもいいものだが」
「こちらも簡潔に返したまでだ」
「待っていただきたい。我々は理由も知らず攻撃を受けているのだ。それを話すくらいはしてもいいのではないか?」
その言葉に、ガラニカが哄笑する。
彼の燃えるような赤毛が、声とともに揺れた。
「本気で言っているのならおめでたいことだな。ローベス卿は歴史のお勉強もできていないように見える」
「確かに、差別問題が根深いのは承知している。連邦というものが万人に受け入れられないのもな。しかし『戦の国』には、なんの関係もないはずだ!」
反連邦が掲げる大義は「連邦からの解放」。再びそれぞれの国が己の力で独立する世にするというものだ。
連邦というシステムは、大多数を幸福にするように出来ている。しかし、それは少数が差別されることも是とするものであった。
例えば、『反の国』。
大陸の東部に位置するこの国は、1000年前に魔族側と通じていたということで、連邦樹立後は国名を変えさせられ、国ぐるみで差別や迫害の対象になっている。
連邦がこの国を潰さずに残しておいたのは、当時に分かりやすいはけ口が必要だったということだろう。その意識は1000年経った現代でも残っており、誰もが「あの国はどれだけひどく扱ってもいい」という常識を持っていた。
こういった分かりやすいものの他にも、連邦という大陸を呑みこむ巨大な組織には、いくつもの歪みが生じている。
1000年という長い統治は、それだけ盤石とも言えるが、維持するためにいくつもの闇を抱えるも同じだ。
さらに、当時連邦に参加の意思を示さなかった国々に対しては「人類統一を阻む国」として様々な手段で攻撃もしていた。
それらの国の子孫が、百年単位の恨みを忘れていないというのも多い。
単に連邦というシステムに馴染めなかった者たちもいる。
表向き、平和と繁栄を謳っていた連邦の裏の部分は、体を蝕む腫瘍のように膿み、固まっていった。
これまでは天使長がその本分を逸脱し権力者の味方をすることで、そういった勢力は適度に削られていた。しかし天使長は死に、それがなくなった今、爆発するのは時間の問題だったのだ。
シェシの言う通り、『戦の国』はそういう問題とは無関係のはずだった。
戦乱の世にあって協力無比な力を持っていたかの国は、連邦樹立後は人類を守る剣として存在し続けてきた。軍縮へと世論が動く世ではあったが、その地位は保障されていたはずだ。
「反連邦はなにもウチの国の奴らだけじゃないのは知ってるだろ?」
「私も政府も、君たちの声を聞きいれる準備がある。やりすぎではあるが、この行動は確かに君たちの意思を示している。もうじゅうぶんだろう」
「それでまた連邦に恭順しろってか? 今さら元鞘に戻れるとは夢にも思えねぇがね。それに、ここまできたら、連邦でなくてもいいというのが、ウチの頭脳の考えだ」
「……まさか、独立するつもりなのか?」
シェシの顔色が悪くなる。
連邦の最終目的は、この戦争を終わらせて何もかもを元通りにしたいのだ。
だがそれは絵空事だった。
戦争が起き、血が流れ、多くの命が失われている。
国同士が手打ちにしても、それで民が納得するわけがない。禍根が残らないわけがない。
後戻りできる地点など、とうに過ぎているのだ。
「国がふたつあれば、そこには争いが生まれる! 魔族侵攻前の戦乱の時代を知らぬとは言わせぬぞ!」
「ひとつの国に縛っていたから、こうした反乱が生まれたんだよ。この大陸にどんだけ人がいると思ってる? その全員が全員、たったひとつの国に収まると思ってるのか?」
「収まってきたとも! 1000年の間、ずっと!」
「収まってねぇからこうなってんだっての」
独立だけは避けたい。
元々外部というものを想定していない、この大陸をまとめ、そここそが人類のすべてだとしてきた連邦にとって、自分たちと戦えるだけの外国が出来上がるのは、なにもかもがまずいのだ。
シェシは進退窮まる。
連邦の見立ては甘かった。
反連邦の大義さえなんとかすれば、あとは強大な政府の力でどうとでもなると思っていたのだ。
自分たちの利権を守りたい政府のお歴々を説き伏せて、外交の全権を持ちこの席までやってきた外務官は、あらゆる要求を呑む覚悟をしていた。
いくら戦後処理が大変なことになっても、戦争が終わりさえすれば、この未曾有の混乱も収まるのだから。
不信感はあっても、連邦は巨大な組織だ。反連邦側は自分たちの要求を通した上で、またその大樹に寄り添うことができる。
政争は激化するだろうが、戦争はそれで終わり。彼らにとっても悪い話ではなかったはずだ。
それが、独立だ。
奪い取った連邦領で、反連邦は新しく国を作ろうというのだ。
これは反乱ではなく、独立戦争だったのだ。
連邦に帰順するつもりが無いとなれば、互いが見据える着地点は大きく外れ、すべてが食い違う。
「まだ機は熟してないが、この国は落とした。あとはもう1回か2回、連邦軍を負かせば独立するとなってもそっちは文句言えねぇだろうな」
「馬鹿な……わ、分かった、だがこちらとて用意がある。受け入れるにしろ拒否するにしろ、時間を――」
「あん? なに言ってんだ?」
ガラニカはおもむろに立ち上がり、歩き出す。
一歩、また一歩、近づかれるごとに、シェシは自分の心臓が絞まるような感覚におそわれた。
「なにを受け入れて突っぱねるんだ? まさかこっちが、独立するから許してくれって連邦にお伺いを立てるとでも思ってんのか?」
「そのために、この場を設けたのではないのか。元々は連邦の領土を、力ずくで奪っているのだ。民にも連邦に戻りたいという思いもあるだろう。それを我々で調整し、互いに納得する形で――」
「ああ、そうだ、そういえばまだ答えてない質問があったな」
剣が抜き放たれる。『戦の国』の長に相応しい、装飾と実用性が両立された業物だ。
ガラニカは輝くその刃を振りかぶり――
「ローベス卿、お下がりください!」
「お下がらせねぇよ」
一閃。
危機を察した護衛の騎士が捨て身で庇おうとするも、真っ二つに両断される。シェシの胸に深い斬り傷が刻まれた。
「ぐうっ、うっ……!」
「『戦の国』が、俺がこの事情に首を突っ込んだ理由は……戦いのためだ」
「なに、を……!」
「戦いだよ。戦争したくてたまらないからだ。人間相手に戦争仕掛けるなら連邦しかないだろ?」
再び、剣が振りかぶられる。
「そしてこれはハナから交渉じゃないんだよ外務官侯爵。お前ほどの身分の首を送りつけりゃ、連邦も思い知るだろう。話し合いは無駄だってな」
「やめ――」
「俺たちの答えとして、死んでくれ」
玉座の間に、2人分の死体が転がる。
他の護衛も、既に片付いているだろう。
ガラニカには殺人を犯したという動揺は微塵もない。
その顔には、期待が浮かんでいた。
「さて、この国にはもう用はねぇ。早く行かねぇとな」
「進軍準備、できています」
「よぅし、全軍出発だ。遅れる者は置いてくと言っておけ」
「はっ」
部下を下がらせ、軍を動かす。
目指すは『布の国』。ガラニカがもっとも求めるものが、そこにある。
「ただの雑魚や聖剣氣持ちは、やっぱり手ごたえがねぇ……会うのが楽しみだなぁ、エレーナ・レーデン」
まるで子供のように、純然たる楽の感情が、そこにはあった。
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反連邦組織は、武闘一辺倒の勢力ではない。
一国以上の規模の人々をまとめる組織で、武ではなく文に長けた者も必要だ。
組織に二本柱があるとすれば、武の柱はガラニカ。文の柱はカール・ヨモドだ。
約100年前に起きた反連邦組織による、とある国で起きた『ヨモド事変』と呼ばれるクーデター。
カールの先祖は天使によって討ち取られた、当時の組織の首領だった。
ヨモド家はその国の貴族だったが、その事件により家は取り潰し。一族郎党は全員処刑されたとされていたが、生き残りもいた。
彼らは連邦を恨み、100年もの間息をひそめ、様々な反連邦組織と繋がりを持ち、牙を研ぎ続けてきた。
そしてかねてより裏社会で虎視眈々と存在し続けていた『リャーヴェ』の存在を嗅ぎつけ、現在の首領がガラニカだと知り、身一つで『戦の国』の門を叩く。
カールは類まれなる文官の才をもってガラニカに認められ、表向きには『戦の国』の宰相として登用された。
歳も近く、友として振舞うことも許された。2人の間に、立場の上下は関係無い。
「ガラニカ、連邦の使者と会ったそうだな」
「ああ。斬り捨てて首を送りつけてやった」
「ふっ、そうか。ならいい」
「予定通り、発掘作業を頼んだぞ。俺はもう出る」
「ああ。しかし、こんな国の地下に何があるというんだ? 俺にさえ話さないとは」
「俺の目的の半分だよ。いや割合で言えば10分の1くらいだが……ソイツは結構深いところにあると思うから、頑張ってくれや」
彼は戦えればそれでいいのだろうと考えていたカールは、その妙な指示に首を傾げたが、特に詮索することもしない。
この戦争に影響のないことは、気にする必要もないのだ。カールの意識はもっと別の場所にある。
カール自身は、連邦への恨みというものは実際のところそこまでではない。
しかしそれを補って余りある野心が、彼にはあった。
「戦果を期待しているぞ。この戦いを終えれば、我々の拡大もひと段落だ」
「そしたら独立、か」
カールの思い描く未来、それは連邦から独立して一国家を築き上げることだった。
連邦よりも強大な国を作り、ガラニカを皇帝とする帝政を敷き、自分は宰相として今よりも大きな、大陸一の国をまとめる。
生まれついての日陰者として育ってきたカールの成り上がりたいという野心は、本当にひとりの人間の中にあるのかというほどに大きかった。
「それぞれの国の独立」という『リャーヴェ』の大義とは少々異なるが、連邦が崩れれば混沌の時代の幕開けだ。多少違っていても構わないだろう。
カールが考えるに、この戦争で反連邦が勝利すれば、連邦に属している各国は独立するところが多くなる。『拳の国』など、中央から離れた国ほど連邦への帰属意識は低いのだ。
連邦と共倒れするくらいなら、自分たちだけでも船から降りる。という考えを持つことだろう。そして独立した国家同士の、誰も彼もが手を携えられるはずがない。
魔族侵攻以前の群雄割拠の時代に戻る。それはある意味、各国が己の力で立つことにもなる。
新しい大樹を求めるなら、新しく誕生する帝国がその幹となればいい。連邦とは違い、統合ではなく明確な上下を付けるが、属国になるというなら吝かではない。
魔法協会だの『教の国』だのといった古くカビ臭い連中にも膝をつかせてやろう。
その時代において、絶対的な力を持つ帝国。連邦への復讐にもなるし、野望も満たせる。
カールにとっては理想的な新世界だった。
「心配することではないと思うが、お前は死ぬなよ。新しい帝国には皇帝が必要だ」
「ああ。まぁ、保証はできねぇがな」
「お前らしくもない。俺を不安にさせるな」
「無論、勝つさ。だが、負けるかもしれねぇ。くく、初めてだぜこんな気分は。楽しみだ」
あのガラニカがそんなことを言うとは、それほどの者が連邦にいるのかとカールは慄く。
準勇者部隊か、それとも勇者か。しかし勇者は雲隠れしていると聞く。ならば誰か。
誰よりもガラニカの力を知っていると自負するカールは、不安を信頼で押しつぶしながら「なら、勝て」と送り出した。
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聖剣氣持ちを集めての特攻作戦から数日後、『布の国』ではいまだ戦闘が続いていた。
一時は攪乱されたものの、反連邦軍は一向に攻めを緩めたりはしない。
敵の指揮官を討ち取ったという報告は無く、それどころか狼将軍率いる援軍が到着している。
誰もが思ったのだ。「突っ込んだ全員が犬死した」と。
状況を覆すための一手は失敗した。
一縷の望みを失い、連邦軍は絶望に包まれる。エンバスですら、数時間部屋に引きこもった。
やがて、それは不満として兵の間に蔓延する。
百に満たない部隊を突っ込ませるのは勝ち目がなさすぎる。
聖剣氣を持つ存在に「死んで来い」と言ったのか。
司令官は自棄になったのではないか。
持て余せている時には「あいつらをもっと働かせろ」と言っていた者たちは、手の平を返すようにエンバスの判断を非難した。
戦力差、戦の上手下手、兵の質、指揮官の質と数。個人ではどうしようもないことが山ほど重なっているが、人々というのは分かりやすい矛先が必要だったのだ。
毎日のように逃げ出す兵、毎日のように後退する戦線、ついには『布の国』の最終防衛線である砦にまで追い詰められてしまった。
もはやここは被害を最小限にとどめるために撤退して『布の国』を諦めるしかない。
そう判断する間際、戦場に一陣の風が吹く。
「準勇者部隊率いる1万の援軍です!」
劣勢な戦いの中、報告を受けたエンバスは諸手を挙げた。
向かっているという報告ばかりだった連邦の援軍が、ついに来たのだ。
さらに時を同じくして、これまで参加を渋っていた『教の国』がようやく重い腰を上げ、約50人の魔法使いを派遣。シェリア魔法学園からも、アイリア学園のように戦闘に秀でた生徒がやってきた。
特に準勇者部隊が率いる軍は、『樫の国』戦線で華々しい勝利を飾っている。
兵たちの士気は瞬く間に上がった。
これには反連邦軍も攻め手を緩め後退。連邦軍は僅かな立て直しの時間を与えられた。
「まことに助かり申した! あなた方はまさしく救世主だ!」
エンバスは8人の準勇者部隊を歓迎する。
隊長であるリズ・モアサファイア、『神速』の異名を持つ彼女が代表して、その賞賛を受け取った。
「拙者らは責務を果たしているだけのこと。劣勢の中でありながら、ここを支え続けた貴殿と兵たちこそ、真の勇士だ」
準勇者部隊にはその威光を示すために制服が与えられる。
青を基調とした制服は改造が許されており、剣士風の出で立ちを施し、長い青髪を後ろで一括りにしたリズは、老若男女問わず最強が集まる部隊の中で、まだ20代の妙齢であった。
「ありがたき言葉、痛み入る。ともあれこれで兵力は拮抗、いや、あなた方に加え魔法使いも多数参戦した今ならば、この戦いには希望が持てよう!」
「これなら貴殿が命じたという先の特攻を、拙者らにも命じることはないか」
リズの言葉に、エンバスが目に見えてダメージを受ける。
「拙者は貴殿のことを責めたりはしない。それを決めるのはこの戦争が終わって、まだ連邦が残っていれば他の誰かがやるだろう。しかし、拙者らの中にはヤンチャな者もいる。死ねと言われて素直に従うとは思わないことだ」
勇者の末裔たる聖剣氣の持ち主を、アイリア学園の生徒まで含めて特攻させ、みすみす全滅させたという話は、既に広がっている。
エンバス自身は、後悔を残しながらも間違いない判断だったと自分を説得していたが、他の者はそう見ていない。
連邦のために尽力したが、その連邦に何か罰せられるかもしれない。そう思うとやるせなくなるが、エンバスはぐっと呑みこみ、最後まで司令であるよう努めると決めた。
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「リズちゃ~ん、飴舐める?」
「いらん」
「かた~い! 仏頂面だと可愛い顔が台無しだよ?」
「ロンディ、この軽薄女の相手はお前の役割だろう」
「俺っすか!?」
隊長であるリズ・モアサファイア。
軽薄女と言われたパスパ・アーササイヤ。
突然話を振られて驚くロンディ・ギフ。
「ふふっ、あの子たちは変わらないわね」
「姐さん、注意してくださいよ……」
「ほっほっほ、なに、戦の前じゃ。これくらいよかろうて」
『聖女』の異名を持つ副隊長アントリテ・オンリールビー。
強面ながら腰の低いガットロー・アットロー。
突出して最年長である温厚な老人ヒングス・ジュイジュ。
「エルク、僕たち生き残れるかな」
「大丈夫だよ、僕が守るから。ね、アルク」
互いに手を握り、指を絡ませる双子のアルク・ハンテとエルク・ハンテ。
人類最高峰である8人が道を歩けば、誰もが道を譲る。
広くない砦内で、彼らの周りとそれ以外では、まるで空間が隔絶されているようだった。
誰も畏れ多くて近づけないのだ。
「リズちゃん、まだ気にしてるの~? 裏切り者なんて斬り捨てちゃえばいいんだって」
元は12人いる準勇者部隊が8人に減っているのは、パスパも言うように裏切りのためだ。
『樫の国』からここまでやってくる間に、ひと悶着あったのをリズたちは思い出す。
何を思ったのが、4人は突如として去ったのだ。
まるでまた明日会えるかのように、軽く。
どういうことだと聞けば、反連邦に合流し今後は敵対するという。
勿論、許されるはずがない。しかし部隊の中でも特に変わり者や戦闘狂などと言われていた面々は、刃を交えることも辞さず、逃げ切った。
部隊を家族と信頼していたリズにとって、それは決して軽くない心の傷を与えていたのだ。
「隊長、パスパさんの言う通りっすよ。あいつらイカレてんすよ」
「…………」
「パスパ、ロンディ。今はそっとしておくがよかろう。隊長は先に部屋で休んでおれ」
「そうね。必要なら私がよしよしするわよ」
「翁、アン……すまない。よしよしはいらないが、休ませてもらう」
「エルク、僕たちも寝ようよ」
「そうだね、アルク」
情報によれば、ガラニカ率いる後詰めの軍もここに向かっている。
連邦側はもうこれ以上ないほどに手札を切った。無茶をすればもっと兵は集められるだろうが、それには時間がかかる。やろうとしてもこの戦いには間に合わないだろう。
つまりここが抜かれれば、連邦が崩壊する可能性もある。元々反連邦でなくとも、独立する国が出てくることだってあり得るのだ。
表向きであっても1000年続いた平穏を守る戦いに、準勇者部隊は誇りと矜持をもって臨んでいた。




