48 奔走のナギサ・バーガーバーガー
ナギサは困惑していた。
友達の雄姿を見ていたら突然何もかもがめちゃくちゃになったのだ。
まぁ雄姿だったのは途中まで。今では毒に苦しみ悶える姿が目には焼き付いている。
死にはしないだろうが、あんなに苦しそうにしていると普通に心配だった。
隣にいるアデジアは、本当に魔王かと思えるくらいに怒ったりあたふたしたりしていた。
同行者が冷静でないとこっちが逆に冷静になってくるあれになっていた。
しかしそんな状況も一変した。
来賓で来ていたどこかのお偉いさん、後から自己紹介で『拳の国』の国家元首だと分かったウェンユェ・シンウーがすべてを支配したのだ。
最初は試合が突然見れなくなった。何かのトラブルかと思ったけど、試合の結果は分からないままだった。
次に赤い服を着た美女がなにやら訳の分からないことを言いながら歩いて、大統領の近くに来たところで何かをした。魔法だった。
あの黒い球が闘技場を覆うくらい大きくなって、その内側にいる人たちは動かなくなった。
試合中に作られていた空間にいた人たちも、大統領も勇者も、観客席の人たちも……全員。
次に……人が殺された。
大統領だった。観戦してたときの体勢のまま首を何回も刺されて、ついには頭が落ちた。あれは死んでる。どう見ても。
何もかもが突然で、冒険者とはいえ一般人であるナギサは動けなかった。
明らかな異常事態に体が固まっていた。
初めて見る人の死に頭が働かなかった。
「アデジアさん、アデジアさんっ」
震える声で横にいる魔王に話しかけても反応は無い。
耳元で話しかけても揺さぶっても、彼は虚ろな目で呆けている。
「え……どういう……」
ふと、自分の腰元にさげた四角い物体が作動していることに気付いた。
記憶の無い彼女が『港の国』で目覚めてからずっと持っていた、『ボックス』という機械。
機械……この単語を誰かに言ってもピンと来ないだろう。ナギサ本人を除いて。
この銀色の立方体は、自身が食べた物のエネルギーを吸い取るように動いていて、翻訳や地図など様々な機能を有している。
その中にあるのが、物理や魔法などナギサを害そうとする一切を遮断するシールド機能だ。
それがナギサの体にぴったりとくっつくように展開されている。
戸惑っているうちに闘技場の舞台では、本当に舞台が――演劇が繰り広げられていた。
お姫様と侍女の禁じられた恋……みたいなやつ。
お姫様を演じているのはさっきまで毒で苦しんでいた友達で、相手役は一度見たことのある恋人のふりをしてる同級生だ。
さっきまでと脈絡が無さ過ぎて、毒気を抜かれたように力が抜けた。
迫真の演技をする彼女らに「あんなに演技力あったんだ」と驚くくらいには呆気に取られていた。
舞台が終わると思わず拍手しそうになった。
状況は意味不明だが、なんか見せられた舞台は普通にクオリティが高かったし、こんな状況でなければ泣けていただろう。
いや、こんな状況に泣きたい気分ではあるのだが。
気が付いたら舞台を作っていた背景や大道具などが全部消えていて、試合が始まる前の普通のステージに戻っていた。
なにやらウェンユェと友達が話し込んでいる様子。
そうだ、大人しく舞台なんか見てる場合じゃない。
動こうとして席から立ったところで、また舞台が始まった。
「またぁ!?」
今度はなんか戦記モノ。しかもまた主演があの友達。
「……やっぱり、色々おかしい、よね……人が死んでるのに、皆はこんなだし」
どういう気分になっていいのか分からなかった。
大統領が死んで、反連邦がどうとかで、かと思えば演劇。
こんな状況で自分はどうすればいいか、何ができるのかが分からなくなるのだ。
例えば自分が物語の主人公みたいに正義感ある勇者であれば、大統領を殺した下手人を捕らえるとかしなきゃだろう。
それをできる力が、ナギサにはある。
でもそういう行動を起こせばどうなるのか、リスクも浮き彫りになってくる。
ナギサはただの冒険者として、一般人として生きることに決めている。
そこから外れてしまったら他ならぬ自分を助けてくれた彼女に多大な迷惑がかかる可能性があるのだ。
どこまで目立っていいのか、目立ちすぎたらどうなるのか。
無暗に動けるほど軽くはない。
「驚いたわ、私の魔法が効かない人がいるなんて」
立ったまま頭の中であれこれ考えていると、声をかけられた。
聞こえてきた方を見てみれば、席の間の通路に赤い服の美女が立っていた。
「あ……あなた……!」
「あの舞台、どう思うかしら?」
「えっ?」
大統領の返り血を拭きもしないその右手は、間違いなく彼女が殺したのだと思い知らせてくる。
その物騒な手に似合わない、素材の良さとメイク技術で作られた誰もが見惚れるような顔は微笑みを絶やさない。オマケに近くにいるだけで花の良い香りがしてくる。
「ああいった英雄譚は私が普段やっているものと似てるけれど、ああいうのもなかなか良いものだとは思わない?」
「……」
「ああでも、結末は悲しいものね」
武将として戦場を駆ける彼女は、最後には滅びゆく国と運命を共にしていた。
そしてすぐさま別の舞台が始まる。
「あの子が望むのは、自分が死ぬこと……悲しいわね、死にたくても死ねないということがずっと続いて、死そのものに執着している」
「……あなたは、誰なんですか」
「あら、自己紹介はしたつもりだったけれど……私はウェンユェ――」
「そうじゃなくて! なんで、何をしてるんですか!」
この人はさっき、その手で人を殺したのだ。
なのになんで、こんな風に笑っていられるのか……ナギサには分からなかった。
「知る必要はないわ。でも、あの子には個人的な用があるの」
「用……? なんでミアに」
「あら、あなたもあの子のお友達なのね。ああそういえば、レンファンから聞いてたわ。クレアちゃんとのデート中に話をしてた黒髪の子ってあなたなのね」
レンファンというワードは知らないが、ミアがクレアと食事をするところに偶然出会ったというのは事実だ。
どう返せばいいか迷っている間に、ウェンユェは沈黙を肯定と捉えていた。
「あの子が、なんであなたと……」
「あの子は私を、殺してくれるから」
「…………は?」
「あなたは知っているかしら、エレーナ・レーデンって」
「急に何を言い出すんだ」と2回連続で言いそうになった。
エレーナ・レーデン……ミアがひた隠しにする彼女の本名。『港の国』で天使によるあれこれに巻き込まれたナギサは、同じく巻き込まれたミアの正体を知ってしまっていた。
けどそれはあくまでナギサだけが知ることだったはず。他には天使と、エレーナの師匠を名乗るリーテ・ヴェッテリエという女性、あとは魔族が知るのみだったはず。
それを何故ただの人間の国家元首が知っているのか。
聞きたいけど怖くて聞くに聞けない。
しかしウェンユェにとっては、揺らぐナギサの目を見るだけでじゅうぶんだった。
「凄いわね、あの子。本当に魔族なんていたんだって思うわ」
「どうして……」
「どうして知っているのか、かしら? それは秘密」
言葉動揺、ウェンユェの纏う民族服の幅広な袖がはぐらかすようにひらりと舞う。
その挙動ですら舞のようで、こんな状況でなければ一見の価値があると思えただろう。
しかしその動きは、警戒するナギサにとって刺激になる。
キッと睨めば、ウェンユェはクスクスと口元を隠しながら笑う。
「なんで、エレーナなんですか」
「私は私を終わらせたい。私を終わらせるに相応しい主演は、あの『魔王の騎士』こそ相応しいと思ったのよ」
「終わらせる……?」
「理解しなくてもいいわ。どうせすぐお別れなのだから」
いまいち要領を得ない。
大統領を殺して自分も死ぬ、ということだろうか。心中とかそういうやつ。
でも反連邦ならむしろこれからが本番のはず。
考えても仕方ない。質問をしてもこうしたよく分からない答えばかりなら確定していることを考えた方がいい。
話の流れから、ウェンユェを殺すのはエレーナということになっているのだ。
「……エレーナをまた、人殺しにするんですか」
「まるで昔から知っているような口ぶりね。あなたも同類さんなのかしら?」
「いえ、でも、あの子は、そういうこと……もうしたくないはずです」
かつてのエレーナ・レーデンのことはざっくりとしか知らない。あくまで『魔王の騎士』として戦場で敵を殺しまくったとか、そういうのだけ。
だが今の彼女のことは、この目で見てきた。
彼女はただ魔族のために動いて、時折戦っている。
いつか、どうしてそう頑張るのかと聞いたことがある。
最初は魔族への責任感とか、残った魔族のためとか、そういう尤もらしい理由を並べられたけどナギサは納得しなかった。
自分を殺してまでやることか、私だったら全部ヤになったら放っぽりだして逃げちゃうなー……と、何気なく言ってみた。すると……
『もう嫌なのよ。殺したり殺されたり……なのに、心のどこかでは簡単に誰かを殺せる自分もいて、戦うという手段を当たり前のように取ってしまう。命を奪う不快感を知っているのに、相手によっては高揚感すら覚えてしまう。そんな自分が嫌。死んでしまいたい。でも死ねないから……私は、この時代を生きる彼らのために……できることをしたいの』
彼女から返されたのは、彼女個人の願いだった。
ナギサを守ってくれた彼女が、その手で数えきれないくらいの人を殺してきたのは知っている。
1000年前を実際に見ていれば、どの口がほざくんだと言うかもしれないだろう。
けれどナギサは、ほどけない過去に縛られるエレーナがそれでも生き方を変えようとする姿勢を応援しようと思えた。
助けられた立場だからか、良い面しか見ていないからか……別の面を見たらまた考えが違ってしまうかもしれない。
そういうのは置いておくことにしたのだ。
「エレーナはもう、誰も殺しません」
「いいえ、殺すわ。私の魔法が与える役には誰も逆らえない。心がどれだけ拒もうが、エレーナ・レーデンは私を殺せてしまう」
「そんなこと……!」
させない、と言わんばかりに身構える。
ナギサは腰にさげたもうひとつの道具を抜いた。
傍目に見れば銀色の短い棒にしか見えないそれの名は『ガンサーベル』。
ボックスと共にナギサが目覚めてからずっと持っていた機械だ。
柄のみであるその剣はスイッチを入れれば黒い刃が現れ、岩でも魔物でも容易く両断できる代物。冒険者生活でボックスと並んでなくてはならない相棒である。
慣れた手つきでスイッチを押し、刃を出現させ構える。
未知の道具にウェンユェは一瞬だけ「ほう」と驚いたよう。
「変わった剣ね」
「エレーナを解放してください! 死にたいなら、ひとりで、誰にも迷惑かけずに死んでくださいよ!」
「あらあら、止めてはくれないのね」
「ここまでして死のうとする人を……止めるのは、もう無理……でしょ……」
「ふふふ、そうね。多分誰に言われても、もう止めないわ。だって、私はもう、始めてしまったから」
「意味わかんないっ……! 何がしたいの、なんなの本当に!」
ウェンユェは大統領を殺した。大陸の各地にいるかもしれないという反連邦の人々を煽った。
どんな事情があるかは知らないが、その上で自分だけさっさと死のうだなんてあまりに無責任だ。
そんなことをぶつけるつもりはない。彼女がどうしてこんなことをしているか、ナギサには分からないのだから。
故に、やることはひとつ。
エレーナのために、恩返しの一環として、エレーナに人殺しをさせない。
「脅しじゃ、ないですから……!」
「その剣で、あなたは私をどうするつもり? 斬る? 刺す? 殺す?」
「どうなったって、痛いのは嫌でしょ……!」
「ふふっ、そうね。でも……あなた、人を殺せるの? 殺したことがあるの?」
「っ……」
そんなこと……できるわけがないし、経験もあるわけない。
「無理はしないで、名も知らない女の子。何もしなければあなたはただ巻き込まれただけの一般人でいられるわ」
「ならエレーナもそうしてよっ!」
威嚇のつもりで剣を振り上げた。
かといって大振りをするわけにはいかない。ここは観客席の通路で、下手をすれば誰かを巻き込んでしまう。
「ご主人様! 私はっ……!」
不意に、ミアの泣くような声が響いた。
守ろうとしていた本人の声に、ナギサの意識が舞台に向く。
なにやらメイド服を着たミアは大げさに悲しそうに、自分に包丁を向けている。
そういえばミア主演の演劇はずっと続いているんだった。
いまさらだけどこれまでの話の流れで、なんでミアが舞台の主演なんかしているのか。ナギサはそこにも困惑した。
「良い舞台というものは自然と目を向けてしまうものね。その気持ちは分かるわ」
「くっ、あ、待って!」
「どうしてあなたに役を与えられないのか……分からないけど、これならどうかしら」
その隙に、ウェンユェはワイヤーに吊られるように浮き上がり、遠くへと行ってしまった。
追いかけるよりもミアの傍に行くべきだと判断したナギサだったが、踏み出すと同時に目の前の光景が変わる。
「えっ…………?」
舞台に向かって走ろうとしたのに、まったく違う場所にいるのだ。
というか闘技場ですらないかもしれない。
天高くまで続く高い壁に挟まれた、巨大な通路のような場所にいた。
「なに、これ……」
エレーナのように【転移】の魔法を使われたのかと思ったけど、あれは『失われた魔法』だ。ということはウェンユェは別の手段でナギサを別の場所に移動させたことになる。
思い当たるのは御前試合のために使った空間圧縮。
確かアレは闘技場の舞台の面積を使って町をひとつ作り上げるような芸当を見せていた。
アレと同じような空間に閉じ込められたのだろうか。
「止まってちゃダメ……エレーナ……!」
空間圧縮とはいえ、どこかに端があるはず。
ナギサは走り出した。
□□□□□
走って、走って、走って、どこまでも続く道をひた走る。
途中、何度も分かれ道や角があった。どの角も直角……もしかしたらここは巨大な迷路の中なのではと思える。
時間稼ぎにしても遊びが見えて質が悪い。
「ああもう!」
ナギサは力技に出た。
ガンサーベルを壁に突き刺し、ケーキを切るように四角く切る。
仕上げに滅多切りにすれば壁には簡単に穴があいた。
「一直線に行けば、端に行けるよね!」
壁の向こうは……やはり壁。それでも関係ない。
同じように穴をあけ突破。こうなれば迷路には意味がなくなる。
手間はかかるが、ガンサーベルの切れ味なら大した時間はかからない。
「これなら…………って、あれ?」
何枚か壁を抜いてから、この空間に自分以外に動くものがあるのを見た。
人か……と思ったが違う。
舞台で魔物を表現するときに使われる、大きなハリボテやぬいぐるみのような人形たちだ。
なんでこんなところに? と思う前に、その答えは出た。
人形のうちのひとつがナギサに体当たりしてきたのだ。さらに竜のようなハリボテの口からは炎が吐かれる。
ナギサは悲鳴を上げながら、ボックスのシールド機能がしっかり働いているのを確認した。
「ったく、邪魔!」
ガンサーベルの刃を消し、構えを変える。
剣として使うほかに、この銀色の棒には文字通り銃としての機能がある。
この世界に無い『銃』という概念は何故かナギサの頭に入っている。
刃を出す穴の傍にある、まさに銃口のような角度にある超短身のそれは紛れもなく銃の機能を有するもの。
ちょうど人差し指が当たる側のスイッチを押せばそこから黒い弾丸が発射され、それもかなりの威力になる。
撃ち抜かれた人形たちはその体積を削られ減らされ、ついに動かなくなる。
人形たちを倒して進めば今度は床や壁から槍が飛び出してきたり、遠くから矢が飛んでくるような罠の数々があった。
しかしそれも効かない。ボックスの防御機能はナギサの体にかすり傷すら付くことを許さない。
結果的に、ナギサは無傷で邁進した。
どれだけの時間が過ぎたか、その後もナギサは人形を倒しながら迷路の壁を破り、ついに行き止まりに辿り着いた。
そこは壁もなく、ただ空間の終わりを示すように途方もない黒。しかしうっすらと向こう側に先ほどまでいた闘技場の通路が見える。
空間の行き止まりにガンサーベルの刃を突き立てる。特に意味はなかった。
やはり特殊な空間だ。出る方法は思いつかない。
「なら……」
ボックスを手に持つ。
できないことなんて無いんじゃないかというほど多機能なこの機械であれば、もしかしたら可能かもしれない。
ボックスにはAMフィールドのような魔法攻撃への防御機能もある。
その機能を応用すれば、攻撃以外の障害――まさにこういった魔法にもなにかしら、できることがあるかもしれない。
つまりはぶっつけ本番。
これの使い方は頭に入っている。どう言っていいかは分からないが、何かをしたい時に、ボックスでできることを覚えているような、そんな感じ。
特に操作は必要ない。念じるだけ。それだけで銀色の立方体が、その輝きを増す。
「やった!」
黒い壁のような行き止まりに、人が通れそうな穴があいた。
ベールを持ち上げたような穴を通り、外に出る。
振り返れば、通路を埋め尽くすような黒い球体があった。あのだだっ広い迷路がこの中にあったのだ。
「……よし! エレーナ、今度こそ!」
闘技場の廊下を走り、客席の間を走り、壁を飛び越えて舞台のはずれに降りる。
舞台上は……ステージによくあるような赤い幕が幾重にも下りていた。
そのまま幕をどけようとしても、ゆらゆらとするばかりで中に入れない。
再びボックスを使う。先ほどと同じように、幕に穴があいた。
「う……お腹空いた……」
腹の空き具合でなんとなく分かる。
充電切れが近い。でもそんなことを気にしていられない。
さっき屋台を一軒か二軒潰すほどの量を食べたのだ。まだ頑張れる。
1枚、2枚、3枚、立ちはだかる幕をどけ、ミアの姿を探す。
演劇が行われているような気配は無い。
ウェンユェの魔法空間が生きているということは、彼女もまだ死んでいないはず。
「見つけた、エレーナ!」
数えるのも忘れていたが何枚目かの幕を抜けた先に、エレーナ――ミアの背中が見えた。呼びかけに振り向いてはくれない。
彼女の向こう側にはウェンユェの姿もある。どうやら気付かれたようで端正な眉間が少しだけ狭まっている。
ウェンユェが片手をスッと振れば、ナギサの目の前に2つのハリボテが現れた。
巨人を表現しているのだろうか。人型のそれは見上げるほどの大きさだ。
腕と思われる部分がナギサに迫る。が、意味は無い。
ガンサーベルで腕を断ち、足を断ち、ついにハリボテは動けなくなる。
黒い球体が飛んできた。多分あれに触れるとまた圧縮空間に閉じ込められる。
ボックスを使い球体を無力化……できた。
ウェンユェは驚いた顔をしている。それでもどこかに余裕も見える。
「エレーナ、だめ!」
ミアはその右手に黒い刃を出現させていた。本来なら天使のみが使える魔力武器。
「エレーナっ!!」
やはり彼女は振り向かない。長い亜麻色の髪の先の表情は見えない。ゆっくりとウェンユェへと近づいている。これが『役』というものなのか。
本当に、あの子が人を殺そうとしているなんて。
既に振りかぶっている。どうする。彼女を止めるには。
抱き着いて無理やりにでも……だめだ、魔族の力はその程度じゃ止まらない。
「っ、ごめん……!」
髪の隙間から見える白い制服の背中。
ナギサはそこにガンサーベルの刃を突き刺した。




