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天柱のエレーナ・レーデン  作者: ぐらんぐらん
第二章 天使編
32/212

27 Knockin' on heaven's door 2

 私は魔力剣を出し、駆ける。

 狙うは上空にいる天使のどれか。

 踏み台はちょうどよく、ヘブンズアーマーがある。


「やれ、我が天使たちよ!」

《くらえぇ!》


 人ならば本来手があるはずの右腕部。ヘブンズアーマーは手ではなく、何かを打ち出す穴が開いている。

 確かあれは、乗った天使の魔力を使って撃つ魔力弾の機構。

 つぶてみたいなものを連射することもできれば、あの穴に相応しい大きな弾を出すことも可能。


 撃たれたのは連射タイプだった。

 前方に散らばって撒かれる魔力弾の雨。腕の向きだけ見ていれば射線を見切れるようなものではない。


 一応避けながら走るけど、AMフィールドを展開。

 数発当たったけど大丈夫。これは防げてる。まぁ集中してくらったら破られるでしょうね。

 お返しに私も【雷撃】を撃つけど、ヘブンズアーマー自体が魔法を弾く素材で作られているからダメージは与えられず、牽制にしかならない。


 いま着ているのは学園の制服。体と違って再生しないのだから、なるべく攻撃は避けたいところだけれど、まぁそこは半ば諦めている。


《はぁぁぁっ!》


 いちいちうるさい。無言で動けないの?

 飛び乗れるくらい接近して、今度向かってくるのは左腕。こっちにはしっかり手がついているけれど、あの指一本一本の先から魔力剣が出てくる。

 手を広げた状態で振るえば、かぎ爪のように薙ぎ払えるだろう。


 私は跳び、敢えてそこに飛び込む。

 指を広げた分、隙間も大きい。

 体を捻りかい潜る。足をヘブンズアーマーの胸部――搭乗部に乗せ、そこからもう一度高く跳ぶ。


 狙いはゲィン。

 向こうも黒い槍状の魔力武器を構えて、いつでも迎撃できる体勢。

 複数人に迎撃されたら厄介だったけど、幸運なことに私の跳ぶ速度は、他の天使が手助けに入るよりも速い。


「制服代払いなさい!」


 魔力剣で斬りつける。狙いはどこでもよかったけど、どこを狙っても結局同じ結果。

 ドームの魔力増幅の効果とやらで硬く張られたAMフィールドは、私の魔力剣など簡単に砕いてみせる。


「愚かな!」


 その通り。防がれると分かって突っ込むのは愚か。

 愚かな私は、ゲィンの槍で胸を貫かれる。

 AMフィールドは魔法は防げても、物理的な接触は妨げられない。私は血を吐きながらじゅうぶんに密着した距離を利用し、右手をゲィンの首に伸ばした。


「魔族の力を見くびらないことね……!」


 いくら『魔王の騎士(デモンズナイト)』の中では弱いといっても、そこいらの魔族よりかは身体能力が上だと自負している。

 いきなり捨て身で向かってくるとは思っていなかったのか、ゲィンは回避も防御も間に合わない。

 そんな奴の首を片手で折るのは簡単だった。


 天使は魔力を自在に操るために魔法戦では強いが、物理的な攻撃に対する防御は案外弱かったりするのだ。

 それでも人間相手なら蹂躙できる。それくらいには強い。でも私にとってそれは弱い。


「くっひひ」


 変な笑い声出ちゃった。天使相手には遠慮しなくていいからね。久しぶりに心置きなく戦えるという状況にすこし昂揚してるみたい。


 首を折られたことで意識が失われたことでしょう。死んでいるようなものなのだから。

 回復はするでしょうけど、私と違って時間がかかる。当然、魔力武器も翼もAMフィールドも消える。

 その隙に私は両手に魔力剣を出し、ゲィンの体を斬りまくる。

 これでより再生に時間がかかる。その間に他の天使も片づけてしまいましょう。


「よくも!」

「ポォロク、むやみに突っ込むな!」


 アホが釣れた。

 序列何位だったかしら? 忘れた。もし序列が力の上下を示すなら、ハッキリ言って一桁のリィリン以外は雑兵と言っていい。


 私の落下中を狙ったポォロクのレイピア状の魔力武器を、やはり私は受ける。

 コイツ顔を狙ってきた! なんて奴。おかげで意識が飛びそうになった。

 私は無礼者の胸目掛け手刀を突っ込ませる。相手の勢いも利用したカウンターは簡単に決まった。

 ポォロクの背中から、胸を突き抜けた私の手が飛び出る。


「かはっ……!?」

「人の顔に剣を突っ込むとはいい性格ね」


 揉み合いながら地面に落下。

 すかさずポォロクに馬乗りになり、頭を掴み、何発か殴ってから床に叩きつけてトマトにする。顔を貫いていた魔力武器も消えた。

 あとはゲィンと同じ要領で斬り刻む。よし次。


「レィミ、ディミ、援護しろ! 私がやる」


 本命というべき相手が突っ込んできた。

 レィミが【炎柱】を放ち、ディミがヘブンズアーマーの魔力弾を放つ。

 AMフィールドを張りながらそこから飛び退くも、魔力増幅された2人の魔法を完全に防ぎきることができず、減衰された炎やつぶてが体を掠めた。


「はぁぁっ!」

「くっ……!」


 リィリンの斬撃を肩で受け、手を伸ばす。

 しかし先2人の有様を見た彼女は素早く距離を取り、援護の魔法攻撃が再び私を襲った。


「一撃では倒れんか……首を狙う!」

「ご丁寧にどうも!」


 わざわざ宣言してくれるなら避けやすいというもの。

 さて、まずは反転陣。レィミの【炎柱】を無効化。む、次は【風刃】を使ってきた。これも無効化しなきゃ。


 牽制に魔法を撃ってリィリンとの接触を狙いながら攻撃を避け、さらに反転陣の構築もする。

 普通なら頭がパンクするほどの並行作業だけど、対多数戦闘を得意とする私にとっては雑作も無い。これができるからこそ、私は1000年前に多くの武勲を立てることができた。


 けど、あまり時間をかけてもいられない。

 時間をかければかけるほど、さっき倒した連中の再生を許してしまう。

 おそらくまだ復活はしてこないはず……って、倒れていたゲィンはどこに行った。


 その答えは、私の首を貫く槍で見つかった。

 馬鹿な、あれだけの傷を回復させるにはまだかかるはず。


「ぬかったな!」

「くっ……!」

「よし!」


 いけると思ったのだろう、リィリンが踏み込んでくる。

 既に槍が刺さった首を飛ばそうと剣を振るってくる。

 すべての意識を投げ出し、私は【転移】を発動させる。移動するのはもちろん私ひとり。


「その魔法陣、あの移動か!」


 気付いても遅い。先ほど【雷墜】を撃ったときと同じポジションに移動した。そして先ほどと同じように魔法陣を構築する。


「そうそう何度も!」


 リィリンとゲィンが飛び上がってくる。ポォロクも復活したみたい。早すぎる。

 まさか、魔力増幅により再生も早まっているというの?


 突っ込んでくるのは2人。残り3人は魔法で対空攻撃。

 重力に逆らえない私の軌道は簡単に読める。そろそろAMフィールドで防ぎきれなくなってきた。

 このまま何もしなければ、私は地に着き、また天使たちを見上げることになる。頭上を飛ばれると攻撃しようにも防ごうにもなかなか上手くいかないのよね。


 だから天使は地に落とす。

 【雷撃】や【氷結】などの下級魔法よりも、上位魔法の魔法陣構築は難易度が高い。少しだけ時間がかかったが、これで完成。

 上級魔法【風墜(ふうつい)】。頭上に大きな空気の塊を作り、落とすことで面での圧殺を可能とする魔法。

 【雷墜】同様に上から下に落ちる性質の魔法だから、私は天使たちより上に移動する必要があった。


 その手間をかけた甲斐はあった。

 AMフィールドでペシャンコになるのは防げているものの、もはや天使たちは翼で飛ぶ余裕が無い。

 足で素早く移動することもかなわないでしょうね。

 ドームの床が魔力を吸う仕組みになっているから、数秒しか保てない状況だけれど、数秒あれば次のアクションができる。


「おかわりよ」


 続けざまに上級魔法【氷墜(ひょうつい)】を発動。

 巨大な氷を叩き落とす、単純明快な破壊力を持ったこの魔法は、単純ながらに回避しやすいけれど、当たったときは単純に強い。


 回避もままならない天使たちに巨大な氷塊をぶつけ、潰す。

 【風墜】を防ぐのに手一杯な天使たちのAMフィールドを突き破り、【氷墜】が決まった。

 意識を取り戻される前に【氷結】で彼らを動けなくしておく。かなりの魔力を込めたおかげで、床一面が氷の世界と化した。


「なっ……!?」


 天使長の驚いた声が聞こえる。

 いや、驚くのはこっちよ。

 巻き込むだろうなとは思ってたけど、まさかすべてをAMフィールドで防ぎきるとは。風圧も氷漬けもすべてを防いだ天使長の魔力には、増幅効果を抜いても目を見張るものがある。

 やはり伊達に序列1位というわけではない、ということか。

 まだ逃げる気配は無いし、彼の料理は後にしておきましょう。


 そしてヘブンズアーマーも無事。

 ただでさえ魔力を弾く素材で出来ている上に、AMフィールドまで張って防いでいた。

 脚部を覆う氷を無理やり砕き、こちらに向かってくる。


《みんなをよくもぉー!》


 確かこのディミというのが一番序列が低かったはず。

 ヘブンズアーマーは考えなしに突っ込んでも強い代物だけど、相手はよく見た方がいい。

 愚鈍なデカブツで勝てるほど、私は弱くなってはやれない。


 魔力弾の雨を撃ちこんでくるけど、当たらなければ意味が無い。

 【転移】を使い、私はあのデカブツの頭上に躍り出た。


《えっ!?》

「それとの戦い方は知ってるのよ」


 天使が乗っている部分――胸部に張り付き、降り落とそうとする動きに耐えながら装甲の隙間を探す。

 あった。やはり1000年前と同じものだ。


「たしかにそれは強いし硬い。まともにやり合えば捻り潰されるわ。でも通気用の隙間、これがヘブンズアーマーの弱点よ」


 隙間に指をかけ、力を込める。

 死ぬほど硬いけど、少しだけこじ開けることくらいは、できる。

 私の持てる力をすべて指と腕に注いで、軋む音と共に隙間を開いた。

 この空間は、中の天使に直接つながっている。


《や、やめっ!》


 右腕部の砲塔が私に向く。

 すかさず小さな【氷墜】をぶつけ、軌道を反らさせた。


 抵抗は止まず、今度は左手が私に迫る。

 構うことはない。たとえ引き千切られたとしても、広げた隙間から手を離すことはやめない。


「それに乗ってると、自分にAMフィールドを張れないのは致命的ね」


 隙間に、魔力剣を差し込んだ。

 魔法を弾く素材と言っても、中までは違う。

 私の魔力剣はこういう時に便利だ。その薄さのおかげで、装甲を縫って中の天使を刺せるのだから。


《ぎっ!? い、痛い! やめ……!》

「あはははは!!」

《いやあぁぁぁぁっ!!》


 可愛らしい悲鳴を聞きながら、私は隙間に手を当てたまま、魔力剣を抜き差しする操作を見せる。

 ザクザクと肉を貫く感触が手に届き、操縦どころではないディミのヘブンズアーマーは抵抗を止め、動かなくなる。


《痛い! 痛い痛い痛い! 助けてぇお姉ちゃん!》

「あら、天使にも家族とかあるのね。お姉ちゃんとやらに悲鳴を届かせてあげなくちゃ」


 そういえばマァゼにも両親がいたんだっけ。天使も生殖で子供を産むみたいだし、案外他の種族と変わらないのかも。

 何度も何度も刺して、搭乗部からついに血が滴り始める。狭い空間でろくに動けず刺され放題。鉄壁のヘブンズアーマーに乗っているというのに、まるで拷問器具に閉じ込められたみたい。


「ぐ……ぅ、で、ディミ!?」

「あら、おはよう」

《助けてぇ! お姉ちゃん、痛いぃ!》

「き、貴様ぁっ!!」


 ドームの効果により、既に【風墜】は無く、【氷結】も切れている。

 まだ再生しきってはいないものの、意識を取り戻すほど回復するとは。やはりこのドーム内で戦うのは不利が過ぎる。


《痛い! いやっ! やだ、やめてぇぇ!》

「あなたが姉? ほらほら、妹が苦しんでるわよ? 顔を見れないのが残念だわ」

「死ねぇぇぇぇ!!」


 手負いのくせに、我を忘れて突っ込んでくるレィミ。

 大切な妹を傷つけられたその目には憎しみが籠っている。美しい家族愛だこと。


《あっ、ぎ、ぅ……ぁ…………》

「あら? ああ、もう気絶しちゃった。まぁ再生するからいいわよね」

「アアアアァァァッ!」


 もはや言葉ではなく、雄叫び。

 斧状の魔力武器による攻撃は直線的で、予測しやすい。

 すっかり血まみれとなった魔力剣を消し、私は少しだけ横に体を逸らす。

 それだけで避けることができてしまった。よほど頭に血が上っていたらしい。AMフィールドも張り忘れている。


「なっ!?」

「残念」


 魔力剣で胸を貫いた。

 頭を掴み、ヘブンズアーマーに叩きつける。

 姉妹ということは、中にいる妹も顔は似ているのかしら。いまはグチャグチャで判別のしようがないけど。


「ぐ……!」


 なんと、レィミにはまだ意識があった。

 闘志を燃やす目をこちらに向けてくる。

 同時に腕を掴まれた。


「えん、っ、【炎柱】!」


 反転陣対策か、魔法陣を使わない口頭による魔法行使。

 喋りにくそうな口を塞ぐ暇はいくらでもあったけど、私は何もしなかった。

 その代わり、【転移】で少し離れた場所へ移動。


 予想通り、レィミの【炎柱】は自分ごと私を燃やすためのものだった。

 地面から上に炎の柱が現れ、私と言う目標を失ったことにより、術者のレィミだけが燃やされている。

 いい加減にこれで死んでほしいけど、そうはいかないのでしょうね。

 なにせここは天使の領域。魔力増幅によって再生能力も向上している。


「っ、こ、殺せ! 捕まえられなければ殺しても構わん!」


 天使長の焦ったような言葉と共に、今度はリィリンが向かってくる。

 そう簡単に殺してくれるなら、そうしてほしい。まぁできないんでしょうけど。


 私は初めて、腰に下げた短剣を抜いた。

 修学遠征ということで学園が無料で用意してくれた武器。まさかこういう形で役に立つとは。


 リィリンの魔力剣を、私の短剣で受け止める。おお耐えてくれた。ポッキリ折られることも覚悟していたけど、なかなか良い品だったようだ。

 力の差はそれほど無い。鍔迫り合いの形となり、少しだけ両者の位置が固定される。


「いつまで姿を偽るつもりだ! その髪にその目、人間にでもなったつもりか!」

「色々事情があるのよ」

「何が事情だ! キンカの仇め、ここで死ね!」

「キンカ……?」


 この場にいない名前に、一瞬疑問が浮かぶ。

 けどそれはすぐに解消された。

 仇ってことは、私が殺したということ。そして私が殺した天使は、1000年前にひとりだけ。


「ああ、あの天使ね。傑作だったわよ。アーマーごとマグマに呑まれて、苦しんで死んでいったわ」

「ッ、貴様ァッ!」

「そういえば、ああ、なるほど。あなた、あの時の精鋭さんのひとりね。思い出したわ」


 ここに入る前、『私を覚えているか』と訊いてきたリィリンのことは、すぐには思い出せなかった。

 昔会ったことがあるんだろうなぁという程度だったけど、キンカという天使と共に思い出す。


 1000年前、私は天使と2度戦った。殺したのは2度目の戦いでのこと。

 2度目の戦いに現れた精鋭部隊とやらのひとりが、このリィリンであった。

 キンカはその時にヘブンズアーマーに乗って襲い掛かってきた天使。


「あなたも同じようにしてほしい? 手頃な火山を探すところから始めましょうか」

「殺すッ! 貴様は、私の手でッ!」

「……殺せるなら、殺してみせなさいよ」


 天使の殺し方。

 それは再生能力が使えなくなるまで、魔力を削ること。

 再生には魔力が必要になるから、それが無くなれば天使は再生できなくなり死ぬ。

 天使自体がかなりの魔力量を誇っているから、簡単なことではない。だからこそ天使は強いと言われている。


 私も同じ理屈で死ぬことができるけれど、残念ながら魔力量が多すぎてどんなことをしても尽きたりはしない。

 マグマに飛び込んで死ねるなら、それで終わりにできたのに。

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