第4話 初めてのおでかけ
真剣な眼差しになったり、鼻歌交じりで上機嫌になったりしながら、様々な絵を完成させていくいつき。
「うーん。コレは僕達の事……かな?」
魔法を唱える怪物の絵、毛布に包まってぐっすりと眠る勇者の絵、城から放り出される勇者達……。
人間達には危害を加えないと約束したし、僕達にも勇者達を殺させるなという事なのかしら。
魔法で眠らせてから追い返せ、ってことね。
まぁ人間達が何度攻めて来ても全然困らないし、眠らせて迷いの森にでも放置するように通達しておきましょう。
今度は……2人で街に出掛ける絵?
いつきが新たな絵を完成させたのだけど、どうやら人間界の街に行ってみたいらしい。
「いや、ちょっと待って。あのねいつき、私は城から出られないんだって」
一生懸命説明しても、いつきの瞳はキラキラと輝いたまま。
「尊敬する父からの遺言で……だね。えーっと――」
慌てふためく私、それと描かれた私といつきを何度も交互に指差し、街へと誘導するいつき。
そりゃー私だって、いつきとお出掛けしたいけど……さ。
「それに私はこう見えても魔族の王で、一応勇者達から狙われている存在だし――」
街で角とか見られちゃったら魔族だってバレちゃうし、大騒ぎになっちゃうじゃないのよ。
ホラ、見てコレ! と、ちょっぴり曲がる角をアピールしてみても、全然譲っちゃくれない。
「駄目なんだよ。分かってよ――ぅおぃ、いつき? いつきー!」
遂には手を引っ張られて――強引ないつきもイイ。凄くイイ。
デートに誘ってくれているのに、断れる筈がないよねー。無理だよねー。
父の遺言と、いつきからのデートのお誘い。
天秤に掛けたら……やっぱりデートに傾いちゃうよ。
うへへ、もーしょうがないなー。
父よ、すまないが私は言い付けを破って城の外に出る事にするよ。
『私は今から出掛けるからな。城の留守は任せるぞ』
『『『!!!』』』
僕達からスッゴイ反対された。
アッチコッチから念話がゴチャゴチャ飛んで来た。
『えーい、うるさーい! 出掛けると言ったら出掛けるのよ!』
私の恋路を邪魔する奴は一切容赦しないわよ!
いつきが驚くといけないので、僕達は城の奥に引っ込めさせた。
アイツ等私と違って容姿がグロテスクなのよね。
お出掛けする前に着替えに行きたかったんだけどなぁー。
いつきがグイグイと手を引っ張って放してくれなかったし、部屋には立ち寄れなかった。
いつきが私の衣装に不満を持っている様子は特にない。
にほんからやって来たんだし、こういう衣装が珍しいのかな?
ローブのフードを深くかぶれば、角も人間達に気付かれないだろうし……まぁいいか。
街まで向かう為、海を渡れるドラゴンの手配を念話で頼んでいたのだけど、城の中庭で待機していたのは――
「ディエイラ様、お初にお目に掛かります。私は中庭の警戒任務を担当しておりますジャダールと申します」
長い首を折り曲げて挨拶して来た、黄金色の鱗を持つドラゴン。
西側の見張り塔に匹敵する程の巨体なんだけど、もうちょっと目立たないドラゴンはいなかったのかしら?
「ディエイラ様と行動を共に出来るとは、誠に有難きしあわ――!! に、人間がどうして此処に!」
「私の旦那様だけど何か? 文句でもあるのかしら?」
「い、いえ、ままさか! そのような事は決して――」
こんなにも可愛らしいいつきを見て警戒するなんて、何て馬鹿な奴なの。
帰って来たら己の愚かさを叩き込んでやらないと駄目ね。
「トートキの都まで乗せてってちょうだい」
海を渡ってすぐにある近くの都だけど、トートキなら古風な街並だし、何でも揃っているし、初デートには持って来いの場所だと思う。
『そうだ、トートキ行こう』の観光名所雑誌を見ていて、一度行ってみたいと思っていたのよ。
初めての外出、しかもデート。楽しみだなー!
「さぁ行こうかいつき。……アレ? いつき?」
振り返ると手を握ってくれていた筈のいつきの姿が見当たらない。
一体何処に行ってしまったの? ――っと思っていたら、足もとで寝転がっていた。
……どうしたの? こんな所で寝たら風邪引いちゃうぞ?
赤く染まる夕日を背景にして、ドラゴンの背中でいつきと二人きり。
本来であればイチャイチャらぶらぶするシチュエーションなんだけど――
「わひゃひゃひゃー。まさか気を失って倒れちゃうなんてさー。うきゃきゃきゃー」
不貞腐れてそっぽを向いているいつきと、笑い転げている私。
ムードも何もあったもんじゃないけど、だって可笑しいんだもん。
ドラゴンに驚いて気を失っちゃうなんて、いつきカワイ過ぎ。
筆とかは持って来ていないので、街に着いたら画材とか買ってあげよっと。
……しまった。肝心な事を忘れていた。
『ジャダール、アンタお金持ってる?』
『人間界のお金、で御座いますか? お金は所持しておりませぬが、太古の昔、勇者達から奪った装備品なら所持しております』
『……それクレ。売って金に換えるわ』
『ええ! い、いや、でもそれは流石に――』
『いいじゃない、ケチケチしないでよ! 城に戻ったら昇進させてあげるから。ね? ね?』
『……お、お着きの際にお渡し致します』
危なかったわー。お金持って来るの忘れたなんて恥ずかしい事、いつきに言えないじゃないのよ。




