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ボッチな魔王と絵師のダーリン  作者: 山田の中の人
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第3話 約束


 いつきは『ちきゅう』という星の『にほん』という場所からやって来た。

 変テコな機械を使って絵を描く仕事をしていたんだって。

 どうりで上手なワケだよ。

 突然現れた『かみ』という奴が、いつきをここに送り込んだと教えてくれた。

 私が魔族の王だという事も、そのかみから聞いていた、と。

 かみとやらが何者かは知らないけど、いつきを私のもとへ届けてくれてありがとう。グッジョブよ。


 何をする為にいつきがここへ送られて来たのかは分からない。

 私が質問してもいつきは頭上に『?』マークを浮かべるばかり。

 いつきの真似をして私が絵を描けば、残念な事に余計に『?』が増えてしまうのよ。

 

 そして時折いつきは書き始めた絵をグリグリと塗り潰す。

 何か伝えようとしているみたいなのだけど、何だか上手く描けないみたい。


 も、もしかして、私にプロポーズする絵だったりして! キャー、恥ずかしー!

 絵を描いてプロポーズするなんて、『絶句死』にも載っていなかったわよ!

 モチロンOKよ、いつき。


 言葉は通じないので、しゃがんで絵を描いているいつきに向かって、ウィンクを数回飛ばした。

 すると――


 「フフ、クスクスッ……」


 私のウィンクに気付くと、照れているのかすぐに視線を描いている絵に戻した。


 ……いつきが初めて笑ってくれたよ。


 呼吸するのを忘れてしまうほど、いつきの笑顔はとびっきり可愛くて優しかった。


 心の真ん中と両の角が、熱を持っているみたいにジンジンする。

 何かに絞め付けられているみたいに全身がキューってなっている。

 それなのにちっとも不快じゃなくて、寧ろ体がとろけそうなくらい心地良い。


 もっと、もっといつきの笑顔が見たい!


 絵を描くいつきをひょいと持ち上げ、強引に立たせる。

 そして驚くいつきの前に跪き、筆を持つ手に両手を添えて頭を垂れた。


 「いつき、私と結婚して下さい」


 頭の中が真っ白だった。

 私の意識がいつきの笑顔に吸い込まれてしまったみたいで、気付いた時には私からプロポーズをしてしまっていた。

 だって……だっていつきの笑顔がステキ過ぎたんだもの。仕方がないじゃない。

 あんな笑顔を見せられたら、誰でもプロポーズしちゃうって。

 

 でも咄嗟の行動だったけど、プロポーズの方法はバッチリだったわ。

 今まで頭の中で何度も何度もシミュレーションしていたし。

 ……プロポーズされる側でイメージしていたのに、まさか自分からする側になるとは思わなかったよ。



 しかし待てど暮らせど、いつきからは『うん。いいよ』の声が聞こえて来ない。

 恐る恐る顔を上げてみると、いつきは困惑した表情を浮かべていた。


 どどどうしてそんな顔? もしかしてフ、フラれてしまうの?

 まさかそんなワケないよね? ね? ……うう嘘でしょ!


 「●●●●、●●●●●●●●?」


 ……あ、そうか。言葉が通じないんだった。

 そんな顔されたら心臓止まっちゃうじゃないのよ! 馬鹿いつき!

 

 いつきは跪く私の隣にしゃがみ込み、新しい絵をひと際大きく描き始めた。




 ……通じていた。私からのプロポーズだと分かったみたい。

 

 何かの儀式を受けているいつきと私。

 儀式用のヒラヒラとした衣装を身に纏っている私。

 手を取り見つめ合う2人。

 腕を絡めて寄り添う2人。

 お姫様抱っこされている私。


 そして最後に、私といつきが沢山の子供達に囲まれている絵を描いてくれた。


 すごく嬉しかった反面、少し困った表情を浮かべたいつきの事を思い出して、素直に喜べなかった。

 ステキな絵で説明してくれたいつきに対して、コクコクと頷くだけの私。


 異世界人と魔王の結婚というのは、やはり無理があるのかしら。


 絶望感に打ち拉がれていると、いつきが再び絵を描き始めた。

 ……コレ、私……よね?

 頭と体が同じくらいの大きさで、凄く簡単に描かれている私。

 その私が大きな口を開けて……何故かいつきを丸飲みにしようとしている。


 いつきはその絵に大きく『×』と重ね書きした。


 ……コレって、いつきを食べるな! って私に言っているのよね?

 もしかしていつきは、私が魔族だからいつきを食べちゃうんじゃないか、って危機感を抱いていたんじゃないかしら?

 それでさっきは困った顔をしていたのかな?

 な、なんだ。そんな事かー! 良かったー。


 「食べない食べない! 私がいつきを食べちゃうワケないでしょー!」


 笑顔でブンブンと首を縦に振った。

 やったー! これでいつきと夫婦だ――と喜んでいたら、いつきが更に筆を走らせた。


 また大きな口を開けている私。

 さっきの絵もそうだけど、私の口はそんなに大きく開かないよ?

 ……今度食べようとしているのはいつきではなくて、沢山の人だわ。

 この絵にも『×』と重ね書きされた。


 つまり私に他の人間を食べるな、と言いたいのね?

 食べない食べない。人間マッズイもん。

 ドラゴン肉の方が遥かに美味いもん。私にはゲテモノ趣向はないわよ?


 他の人間達に危害を加えるな。


 最後の絵には、私が人間達を踏ん付けたり、拳骨をくらわせている姿に『×』が描かれた。

 どうやらいつきは何か勘違いしているみたいね。

 私が常日頃から人間達を攻撃していると思っているみたいだけど、私は城から一歩も出た事がないんだよ?

 ……そもそも人に会ったの、今日が初めてだし。


 「私はいつきとの約束、必ず守るわ!」


 いつきの黒い瞳をまじまじと見つめながら誓いを立てた。

 すると今度はいつきが私の手を取り……わ、私の小指に自分の小指を絡めて来た。

 絡めてキター!


 「●●●●●●●●、●●●――」


 お互いに小指を絡め合ったまま、いつきは呪文のような言葉を唱え始めた。


 うん、コレは絶対に約束を反故には出来ないようにする、いつきが使える誓約の呪術だわ。

 頭がクラクラするくらいに凄まじいパワーを感じる。

 私の力を以てしても、とても破る事が出来そうにないよ。


 小指が上下に揺らされる度に、いつきとの約束が心の中に刻まれて行く。


 いつきを食べない。

 人を食べない。

 人を傷つけない。


 短い呪文が終わりいつきの小指が離れると、心に3つの石碑がズドンと建てられた。

 そしてその石碑には『いつきとの約束』という、絶対に破られない結界が張られている。


 ……いつき凄過ぎ。小指絡める呪術なんて反則だよ。

 それと私、勢いでお腹に子を宿しちゃったかもしれない。


 いつきは再び優しい笑顔を浮かべてくれた。


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