第7章「公爵の城と、天然の令嬢」
ヴェルダンス城は、丘の上に建っていた。
のちに、この城のあるじが、辺境から来た六歳の少女に、自ら頭を垂れることになる。
だが、その日の朝は、まだ誰も──公爵自身でさえ、そんな未来を知らなかった。
辺境の里を出たあと、一行は本街道で、公爵が寄越した迎えの馬車に乗り換えた。
それから六日。
最後の丘を越えたとき、アルマは馬車の窓から身を乗り出して、息を呑んだ。
「わあ……っ」
白い石の城壁が、午後の光を弾いて輝いていた。
塔は四つ。
いちばん高い中央の塔には、青い旗が翻っている。
城の周りには、里がまるごと十個は入りそうな街が広がり、その向こうに、さらに大きな都市の影が霞んで見えた。
「お父さん、あれ、ぜんぶお城ですか?」
「ああ。ヴェルダンス公爵の居城だ」
御者台のガレリスが短く答えた。
その声は、いつもより少し硬い。
娘を初めて、本物の権力の場に連れていく。
父としての緊張が、背中に出ていた。
けれど、アルマは父の緊張に気づかなかった。
彼女の目は、城のあちこちできらきらと光る小さな魔法の気配を、追いかけるのに忙しかった。
「お婆ちゃん、見てください。あの門のところ、魔法がかかってます。それから、あの塔のてっぺんにも。あっちの噴水にも」
隣に座ったハーミーネが、しわだらけの目を細めた。
「ようわかるのう」
「だって、光ってますもん。魔石を使った魔導具が、いっぱい。──ねえ、お婆ちゃん。私の知らない魔法、あるかな」
アルマの目が輝いた。
魔法の話をするときの、いつもの目だ。
ハーミーネは、その目を見て小さく笑った。
「あるじゃろうな。都の魔法は、辺境とはまた違う」
「やったあ」
アルマは座席の上で、ぴょん、と跳ねた。
馬車の床で寝そべっていたガルが、迷惑そうに片目を開けた。
「あ、ごめんねガル。でも、嬉しくて」
「ガフ」
──はしゃぎ、すぎだ。
「えへへ」
馬車の後ろを馬で進んでいたセオドアが、その様子を横目で見て、口の端を緩めた。
彼にとって、王都もこういう城も、見慣れた風景のはずだった。
けれど、アルマの隣にいると、見慣れたはずの城が、まるで初めて見る宝物のように思えてくる。
不思議な少女だ、とセオドアはまた思った。
城門に着くと、衛兵が二人、槍を交差させて馬車を止めた。
「グリモワール村のご一行か」
「ああ。里長のガレリスだ。公爵閣下のお招きで参った」
衛兵が確認のために、馬車の中を覗き込んだ。
そして──固まった。
床に寝そべる銀色の巨大な狼と、目が合ったからだ。
「な……っ、ま、魔物!」
衛兵が槍を構えた。
もう一人も、慌てて剣の柄に手をかけた。
「待て」
ガレリスが御者台から、静かに言った。
「そいつは、うちの家族だ。人は襲わん」
「し、しかし、これは、月狼……伝説の……」
「ガル」
アルマが馬車から、ひょいと降りた。
そして衛兵の前に立つと、にこっと笑って頭を下げた。
「はじめまして。私、アルマです。この子はガル。怖くないので、槍を下ろしてもらえますか。ガルが、びっくりしちゃうので」
衛兵は六歳の少女にそう言われて、拍子抜けしたように槍を下ろした。
下ろしてしまってから、自分でもなぜ下ろしたのか、わからないという顔をした。
そういう子なのだ、と後ろのセオドアは、心の中でつぶやいた。
謁見の間は、天井が高かった。
里の家なら二軒は縦に積めそうな高さの天井から、巨大な魔石のシャンデリアが吊り下がっている。
床は磨かれた大理石で、足音がこつこつとよく響いた。
その奥の、一段高い椅子に、ひとりの男が座っていた。
シャルル・ド・ヴェルダンス公爵。
五十二歳。
短く刈った灰色の髪に、鋭い目。
仕立てのよい紺の上着を、隙なく着こなしている。
手には、銀の握りの杖。
年齢のわりに、背筋はまっすぐだった。
「よく来てくれた、グリモワール村の方々」
公爵の声は、低くよく通った。
「私が、シャルル・ド・ヴェルダンスだ」
ガレリスが片膝をついて、礼をした。
ハーミーネは軽く頭を下げた。
セオドアも、騎士の作法で頭を垂れた。
アルマも、見よう見まねでぺこりと頭を下げた。
──下げたのだが、その視線は、頭を下げながらも、公爵の手の杖に釘づけになっていた。
公爵は、それに気づいた。
「お嬢さん。私の杖が、気になるかね」
「あ」
アルマは顔を上げた。
「ごめんなさい。あの、その杖、魔法がかかってますよね。それも、二つ。──ひとつは、光の魔法。もうひとつは……えっと、風?」
謁見の間の空気が、わずかに変わった。
公爵の杖は、ヴェルダンス家の家宝だった。
明かりを灯し、持ち主の周囲の空気をわずかに動かして、暑さ寒さを和らげる。
その仕組みを正確に言い当てられる者は、城のお抱え魔導師でも数えるほどしかいない。
それを、辺境から来た六歳の子どもが、一目で。
公爵はすぐには答えなかった。
鋭い目で、アルマをじっと見た。
値踏みするような、長い視線だった。
ガレリスの背中に、緊張が走った。
娘が無礼を働いたのではないか、と。
けれど、アルマはその値踏みの視線に、まるで気づいていなかった。
彼女は公爵に見られていることよりも、その杖の魔法のほうに夢中だった。
「あの、公爵さま。その杖、光と風が別々に動いてます。混ざってないんです。だから、ちょっと、もったいないなって」
「……もったいない?」
公爵の眉が、片方上がった。
「はい。光と風をちゃんと混ぜたら、もっと少ない魔力で、長く保つはずなんです。いまは二つの魔法が隣同士で、別々にがんばってるから、すぐ魔力がなくなっちゃう」
謁見の間の隅に控えていた、ひとりの老人が、ぴくり、と動いた。
城のお抱え魔導師、ロドリゴだった。
公爵はしばらく沈黙した。
それから、ふっと口の端を上げた。
笑った、というには、まだ固い表情だった。
「面白いことを言う子だ。──だが、その話は後にしよう。長旅で疲れているだろう。今夜は、晩餐を用意してある。積もる話は、食事をしながら」
「はい! ありがとうございます!」
アルマは元気よく、頭を下げた。
公爵は、そのまっすぐな返事に、また少しだけ目を細めた。
その目の奥で、何かを計算しているようだった。
けれど、それが何なのかは、彼の表情からは読み取れなかった。
晩餐の間の長いテーブルには、アルマが見たこともない料理が並んでいた。
焼いた肉。
色とりどりの野菜。
白いパン。
果物。
里の食卓とは、まるで違う。
アルマは目を丸くして、ひとつひとつを眺めた。
「アルマ。行儀よくな」
隣のガレリスが、小声で釘を刺した。
「はい」
アルマはフォークの使い方をハーミーネに教わりながら、慎重に肉を口に運んだ。
「……おいしい」
「気に入ったか」
上座の公爵が、ワインのグラスを傾けながら聞いた。
「はい! でも、お母さんのキノコスープも負けてません」
「ははっ」
公爵は、今度こそ声を出して笑った。
「そうか。それは、いつか馳走になりたいものだ」
晩餐は和やかに進んだ。
──ただ、アルマの視線は、料理の合間に、何度も天井のほうへ向けられていた。
晩餐の間にも、魔石のシャンデリアが吊られていた。
けれど、その光が時折、ちらり、ちらりと、不安定に揺れる。
一定ではないのだ。
アルマは、それが気になって仕方がなかった。
「公爵さま」
「うむ?」
「あの、上のあかり、ちらちらしてます。直していいですか」
晩餐の間が、静まり返った。
公爵の隣で、お抱え魔導師のロドリゴが、フォークを置いて口を開いた。
「お嬢さん。あれは城の照明魔導具です。三十年城に仕える私が、管理しております。確かに、近頃は光が安定しませんが──あれは、魔石が古いせいです。子どもの手に負えるものでは……」
「あ、魔石は古くないですよ」
アルマが、さらりと言った。
ロドリゴの言葉が止まった。
「魔石は、まだ元気です。ちらちらするのは、光の魔法陣の線が一本、かすれてるからです。たぶん、長く使ってるうちにすり減ったんだと思います。だから、光が途切れ途切れになるんです」
「……線が、かすれている、だと」
ロドリゴの顔から、余裕が消えた。
照明魔導具の不調は、城の悩みの種だった。
ロドリゴは魔石を何度も交換した。
けれど、ちらつきは直らなかった。
原因がわからなかったからだ。
それを、この子はテーブルから見上げただけで。
「あの、見てもいいですか。たぶん、すぐ直せます」
公爵が頷いた。
「やってみなさい」
ロドリゴが何か言いかけたが、公爵の視線に止められた。
アルマは椅子から降りると、シャンデリアの真下に立った。
そして、しばらくそれを見上げた。
腰の道具袋から、白チョークを取り出す。
「えっと、線がかすれてるのは、あそこ。でも、高くて届かないから……」
アルマは少し考えた。
それから床にしゃがんで、小さな魔法陣を描いた。
光の陣。
それに、風の陣をそっと重ねる。
二つの陣の交点に、軸をずらした記号をちょこんと。
「公爵さまの杖と同じです。光と風を混ぜます。風で、光を上まで届けるんです。かすれた線の代わりに」
ぱちん、と手を叩いた。
床の魔法陣から、淡い光がすうっと立ちのぼった。
光は風に乗って、ゆるやかな螺旋を描きながら、シャンデリアのかすれた一点へと巻きついた。
ちらつきが、止まった。
シャンデリアの光が、晩餐の間を均一に、まろやかに照らした。
さっきまでの途切れがちな明かりとは、まるで別物だった。
「あ、できました。これで、しばらく大丈夫です。あとで、かすれた線をちゃんと描き直せば、もっといいと思います」
アルマはにこっと笑って、椅子に戻った。
そして、何事もなかったように、また肉を食べ始めた。
晩餐の間は、静まり返っていた。
ロドリゴは椅子に座ったまま、シャンデリアを見上げて動かなかった。
三十年解けなかった謎を、六歳の子どもが、肉を食べる合間に解いてしまった。
その事実を、彼の頭はまだ受け止めきれずにいた。
そして、ただ一人。
晩餐の間の隅で、セオドアが、グラスを持つ手を止めていた。
ロドリゴが驚いているのは、「謎が解けたこと」にだ。
けれど、セオドアが見ていたのは、もっと別のことだった。
いまアルマがやったのは、光と風を、一つの陣で同時に起動させる技──複合魔法だ。
王立魔法学院が「宮廷魔導師団の領域」として、首席だった彼にすら教えなかった、あの技術。
世界で数人しか使えないとされる、魔法の最高峰。
それを、この子は、晩餐の明かりを直すという、ただそれだけのために、使った。
しかも本人は、複合魔法という言葉すら、たぶん知らないまま。
セオドアは、そっとグラスを置いた。
指先が、かすかに震えていた。
辺境の村で、何度も見たはずの光景だった。
それでも、慣れることはできそうになかった。
「……閣下」
ロドリゴが、絞り出すように言った。
「この、お嬢さんは……いったい……」
公爵は、答えなかった。
ただ、グラスのワインをゆっくりと口に運びながら、アルマを見ていた。
その目は、最初に謁見の間で見せた値踏みの目とは、少しだけ違っていた。
何かを見極めようとする目から、何かに惹きつけられる目へ。
けれど公爵は、その変化を表情には出さなかった。
アルマは相変わらず、料理に夢中だった。
「公爵さま、このお肉、なんのお肉ですか? すごく、やわらかいです」
「……鹿だ。北の森の」
「わあ、おいしい。ガルにも分けてあげたいな」
公爵は、また小さく笑った。
──この子は、自分がたったいま何をしたのか、まるでわかっていない。
それが空恐ろしくもあり、同時に、ひどくまぶしくもあった。
晩餐のあと、公爵はアルマたちをもう一度謁見の間に招いた。
夜の謁見の間は、昼とは違って見えた。
アルマが直したシャンデリアが、まろやかな光で部屋を満たしていた。
「さて」
公爵が椅子に腰を下ろして、切り出した。
「実は、君たちを招いたのには、理由がある」
ガレリスが、背筋を伸ばした。
「魔物事案の、お話でしょうか」
「それも、ある。だが、それだけではない」
公爵は、杖の銀の握りを撫でた。
「私の領地に、レーヴェンという交易都市がある。ここから馬で半日。我が領でいちばん大きく、いちばん豊かな街だ。──だが近頃、その街で、妙なことが起きている」
「妙なこと、と申されますと」
「病人が増えている。それも、貧しい者ばかりが」
公爵の声が、低くなった。
「流行り病ではない。薬さえあれば治る程度の、ありふれた病だ。だが、その薬が手に入らん。正確には──手に入るが、法外に高い」
ハーミーネが、揺り椅子代わりの椅子で目を細めた。
「薬を、誰かが独占しておるのじゃな」
「さすが、ハーミーネ殿。話が早い」
公爵は頷いた。
「レーヴェンの商業ギルドが、薬草の流通を握っている。彼らは薬の値をつり上げ、貧しい者には手の届かぬ価格にした。私が口を出そうにも、ギルドは巧妙に法の網をすり抜ける。証拠が掴めん」
公爵はそこで、言葉を切った。
そして、アルマのほうを見た。
「アルマ嬢。君はさっき、私の杖を見て『もったいない』と言った。城の照明を、肉を食べる合間に直した」
「はい」
「レーヴェンの薬の話を聞いて──君は、どう思う?」
アルマは首をかしげた。
少し考えた。
それから、当たり前のことのように言った。
「薬が足りないなら、作ればいいと思います」
公爵の目が、光った。
「作る?」
「はい。薬って、薬草から作るんですよね。だったら、薬草をたくさん育てて、それで薬を作れば、いいんじゃないですか。そうしたら、独り占めしてる人がいても、関係なくなります。だって、みんなが自分で作れるから」
謁見の間に、沈黙が落ちた。
ガレリスは息を呑んだ。
ハーミーネは目を閉じた。
セオドアは思わず、アルマの横顔を見た。
──薬草をたくさん育てて、薬を作る。
簡単なことのように、アルマは言った。
けれど、もしそれが本当にできるとしたら。
レーヴェンの商業ギルドが何十年もかけて築いた薬の独占は、根こそぎ意味を失う。
公爵は、長いあいだアルマを見ていた。
それから、ゆっくりと立ち上がった。
「アルマ嬢。──いや、グリモワール村の皆さん」
公爵の声は、改まっていた。
「数日、レーヴェンに滞在してはもらえないだろうか。あの街を見てほしい。そして、もしできることがあれば──力を貸してほしい」
ガレリスが、ハーミーネを見た。
ハーミーネが小さく頷いた。
ガレリスは公爵に向き直って、答えた。
「閣下。娘はまだ六つです。危ないことには関わらせたくない。──ですが、街を見て、薬を作るくらいなら」
「無論だ。危険からは私が守る。約束しよう」
公爵は頷いた。
それから、ふとアルマに、優しく聞いた。
「アルマ嬢。レーヴェンに行ってくれるか」
アルマの目がまたきらきらと輝き始めた。
「はい! あの、レーヴェンには、私の知らない魔法、ありますか?」
公爵は、不意を突かれたように瞬きをした。
それから、苦笑した。
「……さあ、どうかな。大きな街だ。あるかもしれん」
「やった! 行きます! いっぱい、見ます!」
アルマにとって、それは困っている人を助ける使命でも、商業ギルドへの挑戦でもなかった。
ただ、「知らない街で、知らない魔法に会えるかもしれない、お出かけ」だった。
公爵はその無邪気な笑顔を見てまた表情の奥で何かを考えているようだった。
けれど、それが何なのかは、やはり誰にも読み取れなかった。
その夜、アルマは城の客室で、ふかふかのベッドに寝転がっていた。
里のベッドとは、比べものにならない大きさだった。
アルマはごろごろと転がってみて、それから、足元に丸くなっているガルに声をかけた。
「ガル、見て。このベッド、すごくふかふか」
「ガフ」
──しっておる。
さっきから、ころがって、おる。
「えへへ」
アルマは起き上がって、窓辺に寄った。
客室の窓からは、城の下に広がる街と、その向こうへ続く街道の灯りが見えた。
里の夜とは違う。
里の夜は、星と月だけの暗闇だった。
けれど、ここは街の明かりが点々と灯っている。
きれいだった。
「ガル。明日、レーヴェンに行くんだって。楽しみだね」
ガルは、答えなかった。
代わりに、のっそりと起き上がって、アルマの隣に来た。
そして、窓の外のレーヴェンの方角に、鼻先を向けた。
くん、と鼻を鳴らす。
それから、ガルは低く唸った。
いつもの、甘えた声ではなかった。
「……ガル? どうしたの」
「ガウ……ガフ」
──におい。
──あの、まちのほう。
──にんげんの、においに、まじって。
──よどんだ、いやな、においが、する。
アルマは、ガルの言葉を頭の中で組み立てた。
淀んだ、嫌な匂い。
それは、森の奥で人造魔物の気配を嗅ぎ取ったときの、あの感じに少しだけ似ていた。
けれど、同じではなかった。
もっと人くさい。
人の、悪意のような匂い。
「ガル。それ、悪いもの?」
「ガフ」
──わからぬ。
──だが、すきな、においでは、ない。
アルマはしばらく、窓の外のレーヴェンの明かりを見ていた。
きらきらと、きれいな夜景。
けれど、その光のどこかに、ガルの言う淀んだ匂いが混じっているのだ。
アルマは、ガルの首にそっと腕を回した。
「だいじょうぶ。明日、行けばわかるよ。それに、もし困ってる人がいたら、私、新しい魔法を作るから」
「ガフ」
──おまえは、いつも、そうだな。
「えへへ。だって、それがいちばん、楽しいもん」
アルマは、ガルのふわふわの毛に頬をうずめた。
月狼の毛は、夜になると少し温かい。
やがて、アルマのまぶたが重くなってきた。
「ガル……明日は、どんな魔法に会えるかな……水と土を混ぜたら……畑が、もっと元気に……なるかな……」
言葉が、寝息に変わっていく。
ガルは、眠りに落ちた少女を、窓辺からベッドへ、鼻先でそっと押し戻した。
それからもう一度レーヴェンの方角を見た。
街の明かりは、相変わらずきれいに灯っていた。
けれど、ガルの鼻は、その光の奥の淀んだ匂いが、昨日よりほんの少しだけ濃くなっているのを、嗅ぎ取っていた。
明日、この少女は、その街へ行く。
そして、たぶん──また、世界をひとつ、静かに変えてしまう。
銀の月狼は、それを予感しながら、眠る少女の傍らに身を横たえた。
──まだ、誰も知らない。
辺境の少女が、次に何を作るのかを。




