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第6話 『どうだ。私もやるだろう?』

『それで、今日はどこにいくの?』




 まだ低い位置にある太陽の下、なる姉が尋ねる。




『そうだなあ、ぶらり散歩旅でもしするか。まだこの辺の土地勘全然ないし、散策したいな』




『いいですね!冒険気分です!』


 


 まだ朝も早いというのに蝉の声がギンギン頭に響く。流石一生分のパワーを短い時間に放出していることはあるな。




『どの道にする?』




 なる姉がわざとらしく辺りを見渡す。




 道は三方向に分かれていてどれも奥まで続いていそうだ。幅の大小はあれどあまり変わらないものに見える。




 夏が終わることにはそれぞれイメージも付くといいな。




『ぶらり旅なら、あえて決める必要もないのではないか?』




『だな。じゃあ今日は真ん中の道を進んでみるか!』




 俺が言い終えるとすぐに




『それでは、早速いきましょう!』




 正にワクワクといった表情を浮かべるたなてが一人駆けていく。その後を空も楽しそうについて走っていった。




 すぐに打ち解けているのは同じ境遇で協力しているからか、それともどちらも俺から生まれたからか。空と話すと空気が重くなりがちなので有難い。




『ほら、置いてかれちゃうよ?早く早く』




 なる姉が催促してくる。




 前を見ると既に2人は随分遠くに見える。見かけより健脚なようだ。確かにこのままではすぐに見失ってしまう。




『んじゃ久し振りにかけっこで勝負といこうか!』




──俺は走り出す。勝負に情けは掛けない主義だ。




『ちょっと昭、フライング!』




 後ろから声が聞こえたが、気にせず俺は走り続け


た。




…………




『中々遠くまで来たが、やはりどこまで走っても山の中だな。つまらん』




  息を切らしながら空が文句を垂れる。




 IFには体力というものが存在しないのかいつまで経っても追いつけず、やっと彼女達が止まってくれ


た時には既にヘトヘトだった。




『昭はもっと体力をつけたほうが良い。同じ年代の女子に負けるなんて情けないとは思わないのか。あんなに美味い朝飯を食べたならもっと活力に満ちるべきだ』




『昭、ズルしてフライングしたのにすぐに私に追いついちゃったもんね』




『お前らが速すぎるんだよ……。というか体力っていう概念ないだろ?実体ないんだからさ』




 男の沽券に関わるのでしっかり訂正する。




『そうだろうか。少なくとも私は昨日の枕投げでは疲れたが』




『私も有りますね。今も少し息が乱れてます』




『昭が体力ないだけだよ』




 それでも実体のないIF達に指摘されるのは納得がいかない。しかし意見を口に出す体力も残っていため仕方なく反論を飲み込む。




『ここにも変なのありますね?』


  とたなてが丸い石を指差さす。石碑だろうか、




 走っている最中にもいくつか似たものがあった。たねてが不思議そうにコツコツとバールで小突く。




『おい、失礼なことはやめろ』と空は注意したあと、石碑を深く見つめる。




『馬、に頭と書かれているのか?掠れてよく読めないな』




 蔦が絡まっているうえに文字が風化している。俺ではとても分かりそうにない。


 


 隣を見るとなる姉がふふんと自慢げな顔を浮かべていた。さてはこれが何なのか知っているな。




『なる姉、この石碑は何なんだ?』


 


 聞いてほしそうなので聞いておく。正直なところ、俺自身は石碑なんて興味はない。


 しかし嬉しそうに知識を話すなる姉を見ていると胸が温かくなることは、長年の経験で理解している。




『ふふーん。何でしょうね?』




『なるこ、正体を知っているのか』




 空が食いつく。




『うん。でもただ言うだけは面白くないから、クイズにしようかな!』




『ふーん。当ててやるよ』


 


 しょうがないから乗っかってやるか。


 


 するとなる姉がまるで新型スマートフォンの発表会のように後ろ手を組んで円を描くように歩き始める。




『デデン!この石碑は何を祈った物でしょーか?漢字は馬頭観音って書かれてるよ。』




『馬の頭までは合っているんだな』




『うん!』


 


 そう返事をした後、人差し指を左右に振り出しチクチク唱え始めた。愉快な人だな全く。




『馬と頭が並んでいると、連想するのは牛頭馬頭の馬頭でしょうか?』




『何だそれ?』


 




 昨日の「ぬばたま」に続いてたなてから聞き慣れない言葉が出てくる。




『地獄で亡者に罰を与える刑務官、いや獄卒の妖怪です。』


 


 説明を聞いて唸る空。




『だが、後ろに観音と付いている。これはどういうことだ?妖怪なんだろ、その馬頭というものは』




『そうですね。観音様ってなんだが妖怪とは真逆の存在に思えます。』




『なる姉、どうなんだ?牛頭馬頭の方向性は合ってんのか?』




『確かに馬頭の漢字は合ってるんだけど、今回は関係ないね。』




『あれま、残念です』




 たなてがキョトンとした顔をする。


 


 石碑には絵など他のヒントになり得るものは書かれていない、シンプルな作りだ。




『思うにたなては少し難しく考えすぎた。違うか、なるこ?』




 空の微量の自信を含ませた口ぶり。




『さあ、どうでしょう?』


 


 なる姉は勿体ぶった回答で返す。完全に調子に乗っている。




『単純に馬を祀るものではないだろうか。』と空。




 なる姉が『おっ』と表情を変える。




 正解と見た空は考察を続ける。




『近く一帯には畑も広がっているし、案外農耕祈願といったところかもな』




『おおー!空ちゃん凄い推理だよ。当たり!この辺には主要な街道もないしね。』




『どうだ。私もやるだろう?』




『天才です。空ちゃんかっこいいです!』




『ははー、そうか。まあそんなに大したものじゃないがな。』


 


 空が得意げに鼻を鳴らす。なる姉に負けず劣らずこいつも調子に乗りやすいな。


 


 そして思う。そんな彼女たちの大元である俺も、こんなに浮かれやすいのだろうか?


 


 人の振り見て我が振り直せと言うが、我がふりを見たなら尚のこと直すべきかもしれない。


 


 とはいえIF達が下らないことではしゃぐ姿は純粋に可愛いものに思えた。




『何を見ている?さては自分では分からずに悔しがっているのだろう?』




 やっぱり腹立たしいかも。




『昭、空ちゃんに見惚れるのはいいけど1日で惚れたら、信用なくしちゃうよ?』




 かなり腹立たしいかもしれない。


 


 ため息をついて上を見る。太陽はすっかり真上に来て、我が物顔で強烈な日差しをばら撒いていた。

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