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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: あまた せい
File 3「仮初めの帰責」

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File 3-1

 作戦会議が終わった僕と終は、嫉妬のインウィディアを捕まえるためフレジャラビの酒場へと向かった。作戦会議の内容は、・・・結果から言うと上終終の独壇場と言ったところだった。僕には否定する権利はなく、たとえそれがどんな作戦でも僕は終の作戦に従うしかなかった。


 ここまで言えば、だいたい僕に不安が残る作戦ということは察してもらえるだろう。しかし何度だって言おう。僕に否定する権利はなかった。


 基本的な方向性は、終を軸としたものだ。終のスキル探偵は、特定の条件を満たした条件下で無敵の効力を発生させる。その条件とは1、事件が起きること、2、相手が犯人であること、3、終が事件を解き明かすことである。ちなみに終の経験上、この定義の事件とは、殺人、あるいはそれに相当する以上の事件らしいので、意図的に誰かを拘束するというのはほとんど不可能に思えた。しかし、終曰く「何を言ってるんだ。そんなこと、簡単すぎるではないか。ただし、それは魔王幹部が油断している今に限るがね」らしいので、他に作戦も思いつかない僕は終の作戦に従うしかなかったのだ。


 フレジャラビの酒場は、チンチラビの酒場とほとんど作りは一緒だった。懐かしい扉を開き、酒場内部へと入った。ジョブの変更をしようとする人々の列はすでにピークを終えていたようで、並ぶ人の数はもう随分と少なくなっていた。


 酒場の方を見ると、テーブル席に何人かの客がいるが、まだインウィディアと見られる女は見かけられなかった。


 僕たちは、深くフードをかぶり、フードの中から少し作り物のうさぎの耳を出し、うさぎの毛皮を顔に装着するというなんともしょぼい変装で酒場に乗り込んだ。しかし、インウェディアらしき女がまだ到着していなさそうだったので、僕たちはノンアルコールのウーロン茶と紅茶を足して二で割ったような飲み物、ラビ茶を頼んだ。(ラビ名産の茶葉らしい)。


 僕らはそこでしばらく喋りもせずに時間を潰した。人はだんだん多くなっていき、一言も喋らない僕たちは明らかにその場から浮いていた。予定の時間から一時間ほど経過し、僕たちはインウィディアに動きがばれ、この場にはもう現れないと諦めかけた。


 しかしその時だった。


 酒場の扉をゆっくりと開けるフードを被った女が現れた。


 その女は、フードで顔がよく見えなかったが、明らかに異質だった。その美しさは顔がよく見えなくともにじみ出ていたし、何か明らかに本能がこの人物は危ないと警鐘を鳴らすような計り知れないオーラがあった。近づいてくると少し顔の造形が明らかになってきた。基本的に東洋人のように鼻はそこまで高くなく、終のように大きな透き通るような青い目をしているわけでもなく、黒い一重の横長の切れ目をしていた。しかし、そのスタイルはなんとも艶やかで、モデルのようにすらりとした体。胸はそこまで大きくなく、というかほとんどなかった。というか体のあらゆる脂肪が存在するのかというぐらい痩せていた。


「あなたたちが、アルゴとリースね。会うのは二回目だけど。殺しの方はどうだった?うまくやれたかしら?」


 インウィディアの口元がいやらしく歪む。その声は色っぽさというよりかは面妖さの方その声を表すにはふさわしく、少しハスキーな声だった。それでも直接話しているとすぐに相手のペースに乗せられそうな恐ろしさも持ち合わせていた。


「・・・はい。無事成し遂げることができました。これでこの双子町の双翼、チンチラビとフレジャラビ、手を取り合ってやっていくことができそうです」


 アルゴに扮した終がなんとも面妖なモノマネ声でインウィディアに返事した。


「そう。それは良かったわね。それでは早速だけど、例のものの受け渡しをお願いできるかしら?・・・普段ならこんな回収なんかしないんだけど。ほら、魔石って高いじゃない。渡したまんまってわけにも行かないみたいで。これからの計画にも必要みたいで・・・っていうのは蛇足だったわね。とにかく、ほら。例のものをよこしなさい。その大きな荷物がそうね?」


 インウィディアは転移魔法装置の受け渡しを急かした。しかし、それでは僕たちの作戦は成功しない。そこで作戦では僕があるセリフを言うはずだったのだが、終がアドリブを入れてきた。


「待ってください。あなたが受け渡しの予定の相手だと言う証拠を見せてくれませんか。受け渡しの相手を間違えたとなれば私たちはただではすみませんので」


「・・・それもそうね。それは正しい意見だわ。まぁ見てなさいよ」


 インウィディアはそう言うと酒場で仲よさそうに話しあっている二人の男を指差した。二人の男は二人の結婚の話で盛り上がっているようだった。


「あいつらを見ていなさい。スキル・・・リヴァイアサン」


 インウィディアが二人の男を指差しながらそう言うと、二人の男の様子は急激に変化した。


「俺が好きだった女と結婚しやがって!!!」


 片方の男がもう片方の男に向かってそう言うと同時に相手の顔を殴った。もう片方もやり返さんと叫びながら殴りかかる。周りは「やれやれ!」とばかりにヤジを飛ばし始めた。


「お前だって俺のカミさんよりはるかに美人な奥さん捕まえたじゃねぇか!!」


「俺の好きな女を取っておいてなんだその言い草はぁ」


 やがて殴り合いはひどくなって行き、周りの人たちもさすがにやばいと思ったのか二人を止めに入った。


「あんなに仲が良さそうだったのに・・・」


 僕はそのショッキングな光景についそうこぼしていた。しかしインウィディアにはリースではないとは気づかれなかったようでインウィディアはその言葉に普通に返事をした。


「それは見た目だけの話。人というのは・・・いえ、獣人でも、心の中になんらかの感情を抱えている。そしてその感情が心の許容量を超えた時、人はなんらかの歪みの行動を起こす。私はその感情を増幅することができるのよ。・・・これで私が幹部の一人だという証明になったかしら?早く渡してちょうだい?」


 インウィディアはいやらしく口の端を歪めながらそう言った。そこで僕はようやく作戦通りのセリフを言うことになった。


「あなたが幹部様だということは十二分にわかりました。でも、せっかくですから、乾杯だけでもしていきませんか?僕たちはあなたに非常に感謝しているのです」


「そんなのいいわよ。それよりさっさと」


 僕の誘いに乗らないインウィディアは受け渡しを急ぐ。僕はうまく誘導できるのか不安に思ったが、終がフォローしてくれた。


「いえ!ぜひ乾杯だけでも!私たちは美しいあなた様に感謝しても仕切れないのです!それにしても本当にお美しい。このような場でなければ求婚させていただきたいところでございます」


 こんな大袈裟な賛辞効くわけがないだろうと思っていたのだが、インウィディアは思いの他嬉しそうだった。


「え?そ、そうかしら。うさぎの獣人からとはいえ、そう言われると嬉しいわね・・・。いいわ。一杯だけよ。それが終わればさっさと受け渡しを済ませて私はこの場から去るわ。いいわね?」


 その表情は先ほどのいやらしい笑みとは違い、赤面と微笑み、魔王の幹部とは思えない表情だった。それを見て僕はこの人が本当に魔王の幹部のうちの一人なのか疑問に思った。しかし、そんな僕の思いを察したのか、終が小声で僕に警告してくる。


「おい、道連れ。油断するなよ。こんなんでも一応魔王幹部なんだ。気をぬいたら何をされるかわからん。奴が油断している今しかチャンスはないと思え」


 はいはいわかっていますよと心の中で返事をしたが、その時の僕はまだ自分がその100分の1も意味を理解していないことにすら気づいていなかった。


 インウィディアは店員にアルコールであるラビ名物ラビアという小麦色の飲み物を頼むと、店員はすぐにそれをジョッキに入れて持ってきた。


「あんたたちはそれでいいの?」


「ええ」「はい」


 僕と終は以外と気を使ってくれるインウィディアの問いにそう返事をすると、とうとう運命の時間がやって来る。


「それでは、今回の成功を祝しまして。かんぱ〜い!」「「乾杯」」


 終の掛け声に続いて対峙するはずのインウィディアと乾杯を交わした。ここから僕たちの作戦は幕を開けたのだ。そしてその作戦が成功かどうかを見届ける前に・・・




 僕は死んだ。


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