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異世界探偵『上終終』の愚考録  作者: あまた せい
File 3「仮初めの帰責」

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File 3-2

 あの自称神のおじいさんは言っていた。この世界でも死ねばもう生き返ることはできないと。しかし、僕はこの世界に来て早々、死ぬことになった。


 でも、それは直接的に僕が元の世界で生き返ることができなくなったというわけではない。


 というのも、そのとき何が起こったかを説明した方が早いだろう。


 結果から言うと、僕が次に目を覚ました瞬間。目の前には終のスキルで拘束されたインウィディアの姿があった。


 しかし、その姿は僕が一旦意識を失う前にみた容姿とは著しくかけ離れていた。フードは剥がされていたが、切れ長だったはずのその目ははち切れんほどに開かれ、その肌には自分の爪で引っ掻いたと思われる生傷が無数にあった。そして爪の先にはえぐった自分の皮膚の残骸がこべりついていた。美しいと感じた要素は一つもなくなっていたと言ってもいい。表情も憎らしく終と僕を睨みつけていて、顔は歪みきっていた。


「くそうくそうくそうくそうお前が終かやってくれたなくそうくそうくそうこの街に来ていたのかくそうくそうくそうくそう」


 インウィディアは目の前に悠々と立つ終に向かってそう悪態をついた。しかし、フードをすでに取っていた終は余裕の表情だ。


「そうとも。私が上終終。異世界探偵を名乗らせてもらっているよ」


「くそうくそうくそうなんで私がこんな奴にくそうくそうくそうこんな・・・目もでかくて背も高くておっぱいまである女に捕まらないといけないんだくそうくそうくそうくそうルクスリアもグラもいつも私を馬鹿にして・・・くそうくそうくそうなんだってこんな」


 インウィディアは意味のよくわからないセリフを言った。だが、インウィディアのいうとおり終は上着を脱いでいて、中には体のフォルムが強調された真っ白い服を来ていた。意外とむっちりとした体つきをしているんだな・・・とその場にそぐわない下品なことを考えてしまった。


「興奮しているところ悪いが、少し聞きたいことがあってね。悪いけど喋ってもらうよ」


 終はインウィディアのセリフを遮って言った。


「は?何を私の言葉を遮っているの?それに何?今にこんな拘束とくしあんたの質問なんかに答えるわけないでしょ・・・ぐぬぬぬぬ」


 インウィディアは必死に高速から抜け出そうとするが、そもそも拘束具そのものが見えないのだ。逃げ出そうにもどこに力を入れたらいいのかすらわからないのだろう。なすすべもなくもがいていた。


「はぁぁぁぁぁぁ!?なんで???なんなのこれは???でも物理的に拘束されたって私にはまだできることがあるわ。スキル・・・リヴァイアサン」


 インウィディアはそうセリフを決めたが、何も起こる様子は見られない。


「はぁ!?待ちなさいよ!!スキル、リヴァイアサン!!!スキル!!!」


「すまないが、その拘束は被拘束者の力では解けないし、スキルも魔法も使えない。犯人として僕の前に姿を現した時点で、君の負けは確定していたんだよ」


 必死になって叫ぶインウィディアに終はそう優しい声で告げた。でもその顔は先ほどのインウィディアのいやらしい笑みよりはるかに恐ろしい笑みだった。まるで捉えた獲物をいたぶるハンターのような表情。どちらが悪者かわからないほどだった。


「待ちなさい・・・待ちなさいよ。私が犯人って。なんのことなのよ!!!私は何もしてないのにそいつが勝手に倒れて・・・勝手に死んだだけだったじゃないのよ!!!」


 ・・・そう。インウィディアの言った言葉はそれはそれはそのとおりだった。それは僕たちの作戦。何があったのか、僕がいきなり倒れる前。作戦会議の様子まで遡れば何があったかわかるだろう。



      *



「作戦は、こうだ。インウィディアを殺人事件の犯人に仕立て上げる。そして私がそれをスキル探偵で暴き拘束する。作戦は以上だ」


 終はホテルの部屋のソファで偉そうに座りながら僕に向かってそう言った。さすがに言葉が足りなすぎて理解できない。


「ちょっと、どう言う意味ですか?ちゃんと説明してくださいよ」


「何を言ってるんだ。ちゃんと説明しただろうが。奴を殺人事件の犯人に仕立て上げるんだよ」


「いやいやいや。誰かを犠牲にするってことですか?捕まえるために。そんなの流石の終さんでも許されませんよ。第一誰を犠牲にするって言うんですか」


 僕は終の言葉に呆れてそう返したが、それに対する終の反応は予想外のものだった。にやりといつもの嫌な笑みを浮かべて、一言。


「誰が犠牲にって。そりゃお前しかいないだろ。道連れ」


「はぁぁぁぁぁ!?僕だってこの世界で死んだら本当に死んじゃうんですよ!?」


「なぁにを当たり前のことを言っとるんだ。そんなの私が知らないと思うか?」


「じゃあなんですか。いたいけな少年の命を弄んで遊ぶ悪魔ですかあなたは」


 その僕の言葉を聞いて、終は両手を少し上げて欧米人のような「はぁこいつは何もわかってねぇな」と言うようなリアクションをした。


「まぁ話は最後まで聞け。道連れ。死ぬのは一時的なものだ。おい、リム」


 終が呼びかけると髪からリムが出てきた。呼び名は終の機嫌で変わるのだろうか。リムは心なしか少しビビりながら出てきた気がする。


「・・・あいよ。姉御。何か御用で?」


 リムが恐る恐る終にそう問いかけると、その言葉が言い終わらないぐらいで食い気味で終はそれに答えた。


「魔力阻害剤、マギアーゼの錠剤を魔法で薄い空気でコーティングしてその上から認識阻害をかけれるか?」


「・・・??できますが、そんなもの、何に使うんですかぃ?まさか人でも殺すってんじゃないでしょうねぇ?」


 リムは笑いながらそう言ったが、終はそれを嬉しそうな笑顔で返す。


「まさか。人を殺してもらうのさ」



      *



 時間をインウィディアが来る一時間と少し前に戻そう。


 僕と終はラビ茶の入ったグラスの目の前に立っていた。そして髪の中から錠剤を出す小さな手。見ればその錠剤はまだ見ることができて、しかしすぐにリムの魔法で不思議な空気の層に包まれ、そして見えなくなった。その錠剤を終はゆっくりと懐から取り出した長めのピンセットで僕のグラスの一番底に沈めた。これ本当に下手したら終が殺人犯だ。などと考えながら僕たちはインウィディアをただただ待っていた。


 その時終が何を目論んで何をやっていたのか。それは後になって説明された。本当に死ぬ危険のある僕が後から聞かされるというのも理不尽な話だが。マギアーゼという錠剤は人の魔力供給を阻害する薬らしく、そして人は体の中の魔力の供給が止まれば生命活動を停止する、らしい。生命活動が停止した時点でマギアーゼは効果を失い、再び電気ショックのように体内に直接魔力を大量に流し込むことで生命活動は再び再開する・・・らしい。


 そもそもそんな説明をされたところで生き返れる可能性があるのかとか心配なことは山ほどあったわけで、終はそんな心配をさせないためにも僕に何も伝えなかったのかもしれない。というかそう思いたかった。


 薄い空気の層でコーティング、というのは錠剤をすぐに飲み物に溶かしてしまわないためらしく、しかし薄い層なため、ちょっとした振動でその層は破壊されるらしい。


 そして認識阻害。これは完全にインウィディアの目を欺くことを目的としていた・・・らしい。全て後から終に聞かされたことである。


 ともかくそんなわけで僕は終の用意した「ちょっとの振動で毒薬へと変身する飲み物」を目の前にしたまま、インウィディアを待ったのであった。



      *



 最後に、乾杯の時間に時を戻すとしよう。


 3人で乾杯した時、僕はほとんどジョッキを動かすことなく持ち上げた。そして終は先にインウィディアのジョッキと乾杯をかわし、インウィディアは終とジョッキを合わせたすぐ後、僕のジョッキに自分のジョッキを合わせた。その行動が僕を殺すことになるとも知らずに。


 インウィディアの乾杯によって毒薬と化したジョッキの中の緑色の飲み物を僕は一気に飲み干した。・・・そして僕は・・・マギアーゼの効果により魔力供給が停止、続いて生命活動も停止した。


 僕がその場で倒れて意識を失った後、その場は喧騒に包まれた。悲鳴と驚愕の声。インウィディアも驚きの声を発していた。そして何が起こったのか理解できないでいるようだった。


 僕が倒れたすぐ後、終はフードを脱いだ。


「これはこれは!!わが友人、小野道連慈くんが死んでしまっているようだ!これはどうしたことか!」


 わざとらしいセリフを大きな声で、まるで舞台で演劇を演じているかのように楽しげに言う終。


「はぁ?????」とインウィディアは当然のように何が起こっているのか理解できていない様子。


「スキル、探偵」


 終が口を歪ませて笑いながらそう言った瞬間。無実の罪でインウィディアは僕を殺した犯人として拘束される運命を背負うことになった。インウィディアが訳も分からず終のスキルの有効範囲内に立ち受けていた時、終は全ての種明かしをする準備を終えていた。


 そう。


 僕がこの世界に来てからの仮初めの軌跡を一旦幕を閉じていたその時。


 僕が仮初めの鬼籍に入っていたその時。


 上終終は悪人の笑顔で魔王の七幹部のうちの一人を追い詰めていたのだ。


「インウィディア。まずは自己紹介から始めようか。私の名前は上終終。こう見えて、異世界探偵としてそれなりの知名度を誇っていると自負している、まぁただの探偵だ。今の状況をわかりやすく説明すると、君は殺人事件の犯人となった」


「はぁ!?あんた何を言ってるの頭沸いてんのかしらぁ!?」


 インウィディアはキィキィ声で終に返事する。


「ふむ。今の所脳は通常通り作動しているようだが。・・・君はいたいけな僕の友人Aこと道連れ(通称)を殺したんだ。道連れのジョッキに入った毒薬を乾杯時の振動で溶かすことによってね!!」


「は・・・ぁ?」


「まぁそう言う顔をするのも無理はない。ああ・・・なんて酷い顔なんだろう。まるで死にかけの老人の肌から水分をあらかた抜いてカラカラにしたかのようにしわくちゃで醜い顔だ。でも犯人は犯人。ああ、ついでに言っておくと僕は君としか乾杯していないから道連れを殺した直接的な原因は君の乾杯なんだ。悪いね」


 悪びれもなくそう言う終の笑顔は、カラッとしたひまわりの咲く夏のように爽やかだった。


 その後、終のスキルによってインウィディアは拘束され、リムによって僕が大量の魔力を注ぎ込まれて蘇生され、例の場面に移るのであった。




 僕が倒れたのになんでその場の状況を知ってるのかって?・・・そりゃ、終にあとで得意げに説明されたからに決まってる。


 と言うわけでこれらが僕が終から後から(得意げに)聞かされた話でした。


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